フリー〈無料〉からお金を生みだす新戦略

クリス・アンダーソン 著/小林弘人 監修/高橋則明 訳 NHK出版
1,890円 (税込)
amazon.co.jpで連続100日以上、100位以内をキープしているベストセラーです。本稿執筆時点では21位でした。
著者のクリス・アンダーソンは「ワイヤード」誌の編集長にして、「ロングテール」という言葉の発明者です。著書の『ロングテール「売れない商品」を宝の山に変える新戦略』は世界的なベストセラーとなりました。
前著でインターネット経済圏で起きていた事象を明快に解き明かした著者は、本書でふたたびインターネット経済圏の特徴を解説しようと試みます。「なぜインターネット経済圏では価値のあるコンテンツやサービスを無料にしてビジネスが成り立つのか」。本書のテーマはまさにここにあります。
モンティ・パイソンのオリジナルメンバーたちが、みずからYouTube上に自分たちの作品を無料で公開したエピソードから本書は始まります。デジタル世界で大々的に著作権侵害に遭っていた彼らは、高画質の作品を惜しげもなく無料公開する代わりに、自分たちのDVD作品を買ってほしいというコメントとともにリンクをつけます。3カ月後、彼らのDVD作品はamazon.comのランキングで2位を記録し、売上げは230倍となりました。
著者はこのエピソードに対して、こうコメントしています。
「驚くべきは、オンラインではこれがよくある事例だということだ。似た話が無数にあり、かなり多くのものが無料で提供されている。それは、ほかのものを売りたいがためであり、さらには、まったく商売気がないことすらよくある」
さらに著者は、ネット世界での「無料」を、自分の体験として説明しています。
「私は今、この原稿を250ドルのネットブック・コンピュータで書いている。それは機能が限定された小型軽量で安価のノートパソコンで、ノートブック市場で急成長している。私はウェブブラウザは無料のFirefoxしか使わないのでOSはなんでもいいのだが、たまたま無料のLinuxだ。ワープロはマイクロソフトのWordではなく、無料のグーグル・ドキュメントを使っている。バックアップはグーグルに任せられるし、どこにいても原稿が書けるというメリットがある。私がこのネットブックですることは、電子メールからTwitterまですべて無料だ。今いるコーヒーショップのおかげで、ワイヤレス・アクセスまで無料になっている」
著者は「無料」のルールとして、次のことを挙げています。
・デジタルのものは、遅かれ早かれ無料になる
・無料化は止まらない
・無料にしてもお金儲けはできる
・遅かれ早かれ無料のものと競い合うことになる
・無料化は別のものの価値を高める
本書はアメリカで2009年7月に発刊されましたが、ほぼ同時に電子ブック版やオーディオブック版が無料で配布されています。それにもかかわらず、紙のハードカバー本は着実に売れ行きを伸ばし、ベストセラーにランクインしました。著者みずからが「無料」のマーケティングを実行して成功事例に仕立て上げたというわけです。
ネット関連のビジネスに携わっている人にとって、「無料」は脅威であると同時に、強力な武器でもあります。「無料」の論理を理解して「無料」を味方に付けるために、本書は有益な参考書となるでしょう。
|