クラウド時代と〈クール革命〉
角川歴彦 著/片方善治 監修 角川oneテーマ21
740円 (税込)
著者は言わずと知れた角川グループの総帥。グループには角川書店やアスキー・メディアワークス、中経出版、角川映画、ユナイテッド・シネマなどがあり、出版事業では最大手です。
旧態依然とした日本の出版界にあっては、角川グループは最も時代に先行した会社といえるかもしれません。ゲーム雑誌やライトノベルなどのサブカルチャー分野にも強く、情報雑誌とWebサイト、モバイルコンテンツなどを組み合わせたクロスメディアでも進んでいます。日本のメディアで最も早く「YouTube」を認めた会社でもあります。
そんなグループのトップが書いた本ですから、電子出版に背を向けるような内容ではありません。それどころか、「出版社のトップがここまでITの潮流を知っているなら日本も安心だ」と思える内容です。
タイトルにある「クール革命」とは、著者の命名による新しい世の中の流れです。本書から引用してみましょう。
--いまアメリカから起こりつつある急速なITの進歩や情報環境の変化は「知」のグローバリゼーションを加速させ、産業革命に匹敵するインパクトを日本にも与えるだろう。その際に産業や市場の趨勢を決める主役は、情報の消費と発信を共に担う大衆にほかならない。21世紀に入って大衆は140字でつぶやくマイクロブログの「ツイッター」などを媒介にして無名の「個人」からリアルタイムの巨大な「メディア」となった。「大衆」の英知に誰もがアクセスでき、大衆が「すごい」「カッコいい」「クール」と賞賛するモノや出来事が社会を変革していく。それが「クール革命」だ。--
そして著者は「クール革命」において日本が優位にあると説きます。マンガ、アニメ、ゲームに代表される日本のポップカルチャーが、世界中で受けているからです。かつての「ものづくり大国」から、「クール・ジャパン」を武器にした「ソフトパワー大国」に、日本は変われる可能性を持っているというのです。
2009年夏、東京のお台場に等身大のガンダム像が出現したニュースは有名ですが、わずか50日間で450万人を動員した人気を見て、著者はガンダム像をニューヨークの自由の女神に対比させ、こう語っています。
--自由の女神がアメリカの繁栄を象徴したように、ガンダム像は、日本の「ポップ・カルチャー」の隆盛を強く印象付けた。--
ともすればマイナーに見られがちな「オタク」という存在ですが、著者はオタクこそが日本のソフトパワーの推進力であるといいます。かつて世界を席巻した日本の製造業も、オタク文化と同じ日本人の特質から生まれたものなのだそうです。そもそも日本人はこだわりの対象に没頭する「オタク気質」の国民ということです。
著者はそのような日本のソフトパワーで、電子書籍やコンテンツ配信が一般化する「クラウド時代」に勝ち残ろうと提言します。同時に、クラウドの根幹を押さえているアメリカを警戒し、「情報植民地化」への警鐘を鳴らしています。「少なくとも国家レベルの情報は、国外サーバーに置いてはならない」と。
本書の最後で、著者はみずから立案した「東雲(しののめ)プロジェクト」を紹介しています。産業界の英知を結集し、全省庁を横断した「日の丸クラウド」を作り、国民に対する行政サービスをすべてそれに統合せよというのです。世界の東にあるクラウドだから「東雲」。出版人ならではのネーミングだと思います。
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