iPad vs. キンドル 日本を巻き込む電子書籍戦争の舞台裏
西田宗千佳 著 エンターブレイン刊
1,500円 (税込)
ついに日本に電子書籍時代がやってくるのか? その覇者は誰か? そんな問いに答えるべく書き下ろされた本がこれです。これまでの電子書籍の歴史と、キンドル、iPadが登場してからの未来像をわかりやすく解説しています。
著者は古株のITジャーナリスト。パソコンやデジタル家電の記事をよく読む人なら、その名前を目にしたことがあるはずです。また、アップルがiPadを発表したときに参加を許された数少ない日本人ジャーナリストのひとりで、発売前の実機をじっくり触っているそうです。
本書は電子書籍、いわゆるeBookのことを扱っていますが、同時に新しいビジネスモデルがもたらす「旧弊ビジネスの再編」もテーマになっています。また、ともすれば文化論や著作権論に拡散しがちの話題を、純粋にビジネスとして見つめています。著者は著作権問題も「しょせんは銭金の問題」と切り捨てます。
本書にはキンドル、iPad、ソニーの「Reader」といった最新の端末機が取り上げられていますが、著者が注目するのは端末機よりもむしろプラットフォームです。「頒布と課金のシステムでシェアを握ったところが勝つ」と見ているわけです。アマゾンとアップルが脅威なのは、両社ともに強力なプラットフォームを擁しているからです。
古い仕組みにしがみつく人たちが多い日本は、時代の流れに取り残されてしまう恐れがあると著者は警告します。完全に時代に合わなくなってしまった流通制度や、いい加減な出版契約、地獄といわれるマンガの制作現場。そういったものが日本における電子書籍ビジネスを阻害しているわけです。
そして「電子書籍が本格的に普及したら、紙の本はなくなるのではないか」という疑問に対する本書の答えは「No」です。「電子書籍時代になっても、ミリオンセラーは紙の本からしか出ないだろう」というのが著者の見解ですが、その理由は、紙の本はプラットフォームを必要としないのに対して、電子書籍がひとつのコンテンツを100万本売るためには、端末機が1000万台規模で普及している必要があるからだといいます。
それよりも著者が危惧しているのは、アメリカ勢のプラットフォームに日本のコンテンツが牛耳られることによる、文化の衰退です。すでにAppleはiPhoneアプリにおいて、アダルト系のアプリを一夜にして市場から消してしまった「前科」があります。同じようなことが電子書籍の世界で起きないという保証はないというのです。
巻末には付録として、「キンドル購入から利用までの手引き」があります。16ページにわたってキンドルの購入、設定、操作、応用がくわしく説明されているので、「興味はあるけど、どうやって購入したらいいかわからない」という向きには便利でしょう。目に優しいといわれるe-ink社製の電子ペーパーを手に取ってみたい人には、心強いガイドになるはずです。
本書は電子書籍の世界に限らず、「古い仕組みに変わって新しいビジネスが登場するときの冷静な対応」を教えてくれます。「黒船が来た!」と騒ぐだけでは、新しいビジネスは生まれないということです。
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