中国人の本音
中華ネット掲示板を読んでみた
安田峰俊 著 講談社
1,260円 (税込)
2010年は、日中関係にとって忘れられない年になりそうです。長年日本がキープしてきたGDP第2位のポジションを中国に明け渡すことになった年だからです。
2007年に対米貿易額を上回った対中貿易額は、毎年過去最高を更新し続け、いまや中国は日本にとって最も重要な外国となりつつあります。すでに日本国内には80万人を超える中国人が生活しています。
その一方で、不法入国者の増加や密入国しては凶悪犯罪を繰り返す中国マフィアの存在、毒入り餃子事件に代表される食の安全、不気味に増殖を続ける中国軍など、中国の暗部に起因する不安はしだいに増していきます。
本書は、そんな中国の「本音」を知るためのユニークな1冊です。著者は大人気ブログ「大陸浪人のススメ」の管理人で、そこでは中国の大規模掲示板が翻訳され、さまざまな話題についての中国人たちの生の意見が見られます。本書には、そこから抜粋されたユニークで人間くさい中国人像がはっきりと示されています。
たとえば、「日本のものなら何でも大好き!」という日本オタクの若者たちは、渋谷109の新作ファッションを熱心に追いかけ、「嵐」などのジャニーズファンたちは、日本語を勉強していたりします。
「知日派」と呼ばれる日本文化の愛好者たちは、「織田信長と三国志の曹操の共通点を語るスレ」で、日本人もびっくりの深い知識を繰り出し、熱い議論を戦わせています。
興味深いのはやはり政治に関する本音で、中国人たちの日本に対する見方がわかります。「首相が1年も経たないうちにころころ交代する日本よりは、中国の共産党政治の方がずっとマシだ」「多党政治は足の引っ張り合い、得票ゲームにしかならない。そして公約はすぐに骨抜きになる」といった、シビアな意見が見られます。
また、本書には中国人が日本人の本音を紹介しているブログも出てきます。「2ch看日本」という上海出身で海外留学中の若者が運営しているものです。「反日」や「親日」といった特定のイデオロギーとは距離を置き、日常的な話題に関する日本のネットユーザーたちの声を中国語に翻訳しています。
以前に上海で建設中のマンションが根本からぽっきりと折れて倒壊した事件がありましたが、「2ch看日本」では2ちゃんねるに投稿された「クレーンで折れた建物を引き起こし、何事もなかったかのように販売してこそ中国」というブラックジョークを紹介しました。それに対しての反響は「この日本人は中国のことをよくわかっているじゃない(笑)」「おもしろい書き込みをするヤツに国境は関係ないな」「腹が痛くなるほど笑った。でも、その後で情けなくて泣けてきたんだが…」といったものでした。
いまや日本で8000万人、中国で3億人の人々が日常的にインターネットに接しています。ネット社会が既存のマスコミを切り崩しているように、従来の政治家や外交官に任されていた国と国との関係も、インターネットが溶かしてしまう可能性があります。本書にはこんな声が紹介されています。「やっぱ『日中相互理解』は必要ですな。と言ってもマスコミが良くやる様な綺麗事並べ立てただけの相互理解じゃなくて、相手の汚いやり取りや馬鹿で面白いやり取りを生で伝える相互理解。日中間に必要なのは『友好』や『対立』じゃなくて『生の声を聞くこと』だと思う」
最後に、筆者の「まとめ」を紹介しておきましょう。
「国を挙げての愛国主義教育がおこなわれていても、中国人はネットを通じて日本の文化を好きになったり、情報を収集して知日派になることができる。筆者や『2ch看日本』の管理人のように、自分のブログを使って両国のマスコミや政府の思惑から外れる情報を発信し、合わせて数万人以上の日本人や中国人に読んでもらうこともできる。われわれが個人的にこのような行動をしたり繋がったりする際には、インターネットは非常に便利なツールになるのである」
中国の特に若者たちがどんなことを考えているかを知るには、手軽で便利な入門書だと思います。 |