変わる世界、立ち遅れる日本
ビル・エモット 著 鵜賀陽正弘 訳 PHP新書
777円 (税込)
バブル崩壊以降の立ち直りを見ても、リーマンショック以降のデフレ経済を見ても、今の日本にかつての経済大国の面影はないということは、衆目の一致するところでしょう。東アジアに限定しても、リーダーの座は中国に奪われ、小回りのきいた成長は韓国や台湾、シンガポールが握っています。
なぜ日本の成長が失われてしまったかについては、これまでにいろいろな意見が出てきました。多くは「日本が豊かになったため、人件費で途上国と太刀打ちができなくなった」「高度経済成長期に有効だった官僚を中心とするシステムが時代に合わなくなった」といったものでしょう。
本書は英「エコノミスト」元編集長で東京支局長時代に日本在住経験のあるビル・エモット氏による、日本復活のための大胆な提言です。「日本は『モノづくり立国』から脱却し、サービス業を規制緩和すべし」というような意見は、日本人にはなかなか言えないものでしょう。
著者はこう言います。「2007年に始まった経済危機とその後の展開において、GDPが最大に落ち込んだのはアメリカやイギリスではなく、製造業に大きく依存していたドイツや日本、それに東アジアの発展途上国だった」「モノづくりを勤勉にこなしている方が、サービス業のような空虚で変動の激しい分野に没頭するよりも危機が避けられるだろうという旧来の考え方は、見事に打ち砕かれたのだ」と。
著者はまた、「製造業とサービス業を区分するのはもはや無意味だ」とも主張しています。「経済上、唯一意味を持つのは『知識集約型』と『非知識集約型』で経済活動を区分することだけだ」というのです。すなわち、生産性が高いか低いか、生み出している付加価値が高いか低いかのみを論じるべきだというわけです。
たしかに、製造業とサービス業の境界は今日ではかなり曖昧になっています。世界第2位のパソコンメーカーであるエイサーは工場をまったく持っておらず、やっているのはマーケティングとブランドコントロール、技術革新といったサービス業に類する仕事です。
そうした見方で日本の現状を分析してみると、日本の現在の低迷は、GDPの70%を占めるサービス業分野での生産性の低さに起因していることがわかります。日本の製造業はGDP比で20%しかなく、ここをいくら伸ばしても、全体にはさほどの影響がないと著者は指摘しています。
また、無視できない意見として、著者はこんなことも語っています。
「日本経済は過去10~15年間、あらゆる面で実際に知的でなくなり、知識指向でなくなってきている。日本の大学は、研究や教育機関として、かつては世界最高位に君臨していたが、いまや全般的にそこから転落したことが、この事実を雄弁に物語っている」
さらに、パートタイマーと非正規労働者の増加により、日本は確実に「知的労働者」を減らしているとの指摘もあります。かつて日本が国民一人当たりGDPでアメリカを脅かしたときに比べて、明らかに退歩していると著者は言います。
ビル・エモット氏は、かつて『日はまた沈む』で日本のバブル崩壊を予言し、『日はまた昇る』で日本経済の復活を宣言しました。それだけの実績がある著者だけに、久しぶりの著作である本書は、日本人にとって一読の価値があると言えるでしょう。
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