世界を驚かせた日本人の発明力
竹内一正 著 アスキー新書
790円 (税込)
かつてのNHKの人気番組「プロジェクトX」は、日本におけるさまざまな開発物語を表舞台に引っ張り出した、ものづくり世界の成功列伝でした。番組のプロデューサーが心がけていたのは、泥臭い話を講談調に語ること。そのもくろみは見事に当たり、目を潤ませて番組に見入っている中年男性の姿が目立ちました。
「ものづくり」は日本人にとって、特別な響きのある言葉です。ある人は「職人文化は日本とヨーロッパだけに存在する伝統芸」だと言い、またある人は、「日本人のオタク気質は、そもそも職人気質からきたものだ」と指摘します。「ものづくり」こそ、日本人のDNAだというわけです。
本書は、そんな日本人の「ものづくり」にスポットライトを当てた作品です。登場するのは幕末の発明王「からくり儀右衛門」、世界初の乾電池発明者「屋井先蔵」、昭和の名車スバル360の生みの親「百瀬晋六」、任天堂で大ヒット商品を連発した「横井軍平」、会社に反抗して胃カメラを開発した「杉浦睦夫」の5名。いずれも個性豊かな「ものづくりの侍」です。
著者はものづくり系ビジネス書の名手・竹内一正。松下電器とアップルコンピュータに在籍した経験を生かし、幅広い生産現場や開発現場をビビッドに描き出します。現場経験のないライターとは、そこがひと味違います。
そして本書では、独自のサービスとして、5人の人生から抽出される「成功へのポイント」を列挙しています。たとえば「からくり儀右衛門」では、以下の2点が挙げられています。
●自分のやりたいことができる場所を探せ
久留米から大坂、京都へ、そして佐賀から東京へと、場所に縛られず自分がやりたいことができるところを求め、ためらわずに決断する。そして、それぞれの地ですばらしい発明を生み出している。自分を場所(会社)に合わせるのではなく、自分に合った場所(会社)を見つけ出そう。
●年齢の常識を超えろ
とくに75歳を超えて九州から東京に出て店を構え、発明をやり続けたことは象徴的だ。当時の75歳は今なら100歳に相当する年齢であったろう。久重(儀右衛門)の発明心は年齢の常識を軽々と超えていた(後略)。
多くの読者は、本書ではじめて乾電池が日本人の発明品であることを知るでしょう。没落した藩士の息子に生まれた屋井先蔵は、時計屋の丁稚として働きながら「永久機関」の製造を夢見ます。その夢が熱力学の理論によって破られると、次には「電気時計」を目標に定め、ついに完成させます。
しかし、先蔵の電気時計はまったく売れませんでした。原因を分析した結果、不人気の理由が液体電池にあったことをつきとめた先蔵は、またも目標を変えて「乾いた電池」の製造を目指します。昼間は叔父の教材製造会社で働き、夜になると借家の実験室で研究に打ち込む毎日が続きます。歳月が過ぎ去り、ついに先蔵は世界初の固体型電池を完成させ、みずから「乾電池」と名づけました。
残念ながら金がなかったために特許の出願が遅れ、先蔵の乾電池はアメリカのメーカーに真似されてしまいます。それでも先蔵はくさらず、病気に身を冒されながらも乾電池の改良に没頭します。そして陸軍から通信機用に大量の発注を受け、ついに努力が報われる日を迎えたのでした。
「発明・開発物語」のすばらしさは、ハッピーエンドにあるのではありません。主人公が何度壁にぶつかっても、へこたれずに立ち上がるから読者の胸を打つのです。さわやかな感動を明日の糧にしたいと思うなら、ぜひ手にとってみるべき1冊です。
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