ダメな議論--論理思考で見抜く

飯田泰之 著 ちくま新書
714円 (税込)
今の世の中は理屈に満ちています。本当のことであろうが、嘘八百であろうが、あらゆることに理屈が寄り添い、私たちはその真偽や良否を見分けるために苦労させられています。
どうして苦労するのかというと、どの理屈ももっともらしいからです。嘘に付けられた理屈は本当らしく見せるために知恵を絞られていますし、実際よりも価値を高く見せかけたものに付けられた理屈も同様です。
本書は、そんな理屈の山をかき分け、「ダメなもの」を見分けるためのテクニックを解説したものです。本書でインチキやニセモノを排除する力を身につければ、残ったものは本物である可能性が高いというわけです。
その分析に使われるのは、少し前に流行語となった「論理思考」。いわゆる「ロジカル・シンキング」です。ただし、ちくま新書ですから、誰もが手軽に読める内容ではありません。しっかり腰を据えて、斜め読みしないようにしないと頭に残らないかもしれません。
といって、学術書のように難解ではありませんから、警戒する必要はないでしょう。「ニセモノを見分ける目」というひとつの技能を獲得するための指南書と思って、肩の力を抜いて読み進んでください。
著者は今売り出し中の経済学者。1975年生まれですから、これからますます知名度が上がるでしょう。注目しておいて損のない人物です。現在は駒澤大学で講師をしていますが、その前には内閣府や参議院の客員研究員でした。
第1章では準備段階として、「人々がなぜ誤った解釈を正しいと信じ、無用あるいは有害な提言を受け入れるのか」を考えます。私たちが無意識に持っている、「自分にとって都合のいい事実や解釈を受け入れようとする傾向」に目を向け、「多数意見に従いたがる傾向」をチェックします。
第2章ではある議論を批判的に検討するためのチェック方法が示されます。機械的で単純な手続きによって、直感や感覚がだまされてしまいがちな落とし穴を発見します。
第3章は、本書の方法に対する批判に答えるコーナーです。嘘やごまかしにはたいてい攻撃的な姿勢が潜んでいますが、ここを読むことでブレなく正否の分析ができるようになります。
そして第4章と第5章には「応用編」が述べられています。現在の政治・経済・社会問題に関する誤った、有害な、無用な言説を例にとり、著者がばっさりと一刀両断して見せます。まな板に載せられるのは、「最近の若者論」「食糧安保論」「財政ハルマゲドン」などです。
人の意見に惑わされることなく真実を探求する人になりたいなら、まず手に取るべき1冊です。
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