日本人ビジネスマン
「見せかけの勤勉」の正体
なぜ成果主義は失敗したか

大田 肇 著 PHP研究所 刊
1,575円 (税込)
「日本人ビジネスマン=勤勉」というのは、高度成長期のころの世界的常識でした。それが今でも通用すると思っている日本人は少なくないはずです。それに真っ向から異を唱えるタイトルなのですから、つい手に取りたくなります。さらに煽るかのように、帯には「9割の日本人は"やる気"がない!?」の文字が。
著者は同志社大学教授で、組織論、人事管理論を専門にしており、これまでに『ベンチャー企業の「仕事」』などの著書を出している人です。講演やセミナーの回数も多いので、ご存じの人もあるでしょう。
自己啓発系のビジネス書は、多くが「やる気」「モチベーション」をテーマにしています。どうすれば「やる気」が出るのか、部下の「やる気」を出させるにはどうしたらいいか。しかし著者はそのアプローチに疑問を呈しています。「やる気」なんて、みんな元から持っていないんじゃないのか、と。
著者の仮説はこうです。日本社会には元もと「やる気」を阻害する要因がいくつもあり、高度成長期にはそれが隠れていた。バブル崩壊を経て、仕事のやり方が変わったことにより、それが表面に出てきてしまった。だからそこを解決しないと、サイドブレーキを引きずったままエンジンを吹かすようなことになってしまう。
そして、著者は「やる気」の阻害要因として、次の5つを挙げています。
「くすぶる、残業への不満」
「定まらない目標」
「過剰な管理」
「まだら模様の人間関係」
「不公平な評価、処遇」
日本の職場ではこれまで、「やる気」のバロメーターとして「結果」ではなく「姿勢」を評価していました。そのため、無意味にずるずると残業をする人が多くなり、世界で一番残業時間の長い国になってしまったわけです。
また、「結果」と「姿勢」をごちゃ混ぜにして評価することにより、頑張って仕事をしているフリや、人の手柄を横取りするようなやり方が横行してしまいました。経営者は社員の「やる気」を出させたいと思っているのに、それがうまく機能していませんでした。
著者は「日本の『やる気主義』は空回りしている」と警鐘を鳴らします。5つの阻害要因は重なっていることが多く、1つでも該当していることがある職場は、他の4つも該当している可能性が高いと言います。たとえば、有給休暇の消化率が低い職場は、残業時間も長く、無理な目標が掲げられていることが多いのだそうです。
「やる気主義」というのは、日本人の悪いクセだと著者は言います。戦前・戦時中は極端な精神主義が蔓延し、「竹槍で機関銃と戦う」などという馬鹿げたことが真面目に議論されました。「熱意」「気合い」といった日本人の好きな言葉も、「やる気」の言い換えに過ぎません。
だからといって、著者は「やる気」を軽視しているのではありません。「やる気」を尊重しているからこそ、評価の対象とするのを止めよと言っているのです。「やる気」を管理しようとするのではなく、自然に「やる気」が出るような職場にせよというのが著者の提言です。
部下が「やる気」を出すにはどうしたらよいか。その問いに対しての著者の答えは3つです。
「障害を取り除く」
「仕事ぶりを『川下』から見る」
「部下を支援する」
具体的な内容は、ぜひ書店でご覧ください。
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