オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

心がフッと軽くなる
「瞬間の心理学」

名越康文 著 角川SSC新書

819円 (税込)

先進国に多い鬱病は、「心の風邪」と呼ばれるほど広がっていて、アメリカではまるでサプリのように抗鬱薬が常用されています。世の中が複雑になり、個人の生きる領域が狭まっているせいでしょうか、鬱病患者は増える一方です。

日本は特に最近、社会の閉塞感が強まっています。自殺者は12年連続で3万人を超え、交通事故死者数のなんと6倍以上もの人が、毎年みずから命を絶っています。なにより恐ろしいのは、そのような異常なことが「普通」に感じられるようになってきていることでしょう。

鬱病への第一歩は、思い気分や暗い気持ちが続くことだといいます。そんな気分を自分ではね除けられるうちはいいのですが、心が老朽化したバネのようになっていくと、落ち込んだ気持ちから抜けられなくなってしまうのです。

本書はその最初の段階である「思い気分や暗い気持ち」から簡単に脱却するためのヒント集です。本書を読めば、過去や将来の不安にとらわれず、ネガティブな気分を簡単に捨て去ることができます。そのコツは、「瞬間瞬間を大切にすること」。本書のタイトルはそこから来ています。

著者は大阪府立精神医療センターで精神科緊急救急病棟を設立、責任者として活躍した精神科医で、現在は京都精華大学で教授として教鞭をとるかたわら、マスメディアでも幅広い活動を繰り広げています。

本書の内容を概観するために、章のタイトルと大見出しを列記しておきます。
第1章 閉塞感が増す時代の「今を生きる力」
・自殺が増えるなど、なぜ日本人の心は疲弊しているのか
・閉塞感が充満する日本で、どう前向きに生きればいいのか
第2章 心が弱っていると思った時、うつに向かわないために
・誰にも相談できない状態の時、何を考えればいいのか
・何をしていてもネガティブな考えになる時、どうすればいいのか
・心の幸福を保つためには、どう心がければいいのか
第3章 人にとって働くこと、生きがいとは
・仕事が面白くない時、どう向き合えばいいのか
・コミュニケーションがうまくいかない時、どうすればいいのか
・夢や希望が描けない時、何を考えればいいのか
第4章 せちがらい社会を生き抜くために
・絶望的な時に投げ出さないためには、どうすればいいのか
・前向きに生きていくには、何をすればいいのか

現代の日本人は「何のために生きるのか」の充分な答えを持ち合わせていないと著者は指摘します。すべての人々が多かれ少なかれ、何らかの閉塞感にさいなまれ、精神が病んでしまう人とそうでない人の間に明白な境界はないそうです。つまり、誰もが鬱病になる可能性を持って生きているということです。

しかも今の日本社会は全体的に窮屈になっていて、達成感や満足感が非常に得られにくくなっています。このことが人々に虚無感や疲労感を与え、ネガティブな気持ちに向かわせます。しかも、そのような心の拠り所となるべき宗教が、日本には根付いていません。

そんな精神環境で健全な心を維持するためには、過去や将来にとらわれるのをやめ、「今この瞬間」に心を集中させることが有効です。さらに、小さな損得勘定から心を引き離す必要があります。そして「自分は大切な人たちと心でつながっている」と強く信じること。それが思い気分や暗い気持ちをフッと軽くします。

本書には説得力のある分析やアドバイスが随所にあり、心が迷子になった人に力強いサポートを与えます。今は大丈夫でも、いつか弱気になった時のために、本棚に常備しておいてはいかがでしょうか。


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