思い込みを捨てれば人生が変わる

石川正樹 監修 森顕一 著 生産性出版 刊
1,365円 (税込)
「思い込み」は日常よく使う言葉ですが、正確に説明すると「ものごとを真実とは違うように信じ込んでしまうこと」となります。常識やまわりの声を基準にしたり、自分の願望や価値観に沿った形になることが多いようです。いわゆる「固定観念」は、「思い込み」の類義語といえるでしょう。
本書は、この「思い込み」の弊害を解き、「思い込み」の束縛から逃れて生きることを薦めています。誰もが持っている「思い込み」が、人間の能力を制限し、可能性の芽を摘んでいるのだといいます。
著者たちは、「思い込み」から脱することで得られるメリットを、次のように列挙しています。
・考え方が変わり、素晴らしいアイデアが生まれやすくなる
・物事をシンプルに考えるようになり、頭の中でごちゃごちゃしていたものが整理されてすっきりする
・今までできなかったことができるようになる
・ネガティブな感情がポジティブに変わり、笑顔で人生を過ごすことができる
・「ここ一番」という時のプレッシャーに強くなる
・仕事の能率が上がり、生産性が高まる
内容はお説教口調のノウハウ本ではなく、物語風のストーリー仕立てとなっています。短いストーリーの後ろにコラムがあり、まとめの知識を伝える形式ですので、誰でも途中で投げ出さずに読み進めることができるでしょう。
監修者は脳科学モデリング人材育成研究所の代表。『メンタリングによるセールスコーチングのすべて』という著書があります。著者は監修者のお弟子さんで、米国NLP協会公認の神経言語プログラミングマスタープラクティショナーであるとともに、米国催眠療法協会認定催眠心理療法士の資格保持者です。
著者たちは、「思い込み」が作られる原因には2つあると分析します。
ひとつは、「繰り返し教え込まれたもの」。「常識」や「規範」に類するものです。もうひとつは、「強烈なインパクトのある体験が作り出したもの」。個人的な「信念」や「価値観」がこれに当たります。
なぜ「思い込み」が生まれるかについては、ヒトの進化に大きな関係があるといいます。ヒトは大脳皮質を大きく発達させて進化してきましたが、その過程でものごとに「意味づけ」を行うようになりました。その意味づけは、ともすれば自分に都合のいい方向にアレンジされがちです。それが「思い込み」につながっていくわけです。
本書にはいくつかの「思い込み」の例と、そこから脱却する方法が掲載されています。「相手のことをわかっているという思い込み」や「理屈が正しければ人は動くという思い込み」、「問題を解決すればすべてがうまくいくという思い込み」などです。「理屈が正しければ…」については、「人は理屈では動かない」と解説し、「感情、実感、納得」のプロセスをていねいに説明しています。
本書が他の自己啓発書と違うのは、簡単に実践できる方法を、非常に具体的に解説しているところです。そのあたりが、著者や監修者がただの評論家ではないゆえんでしょう。「思い込みから簡単に抜け出す方法」のところでは、13の質問を自分自身に向けてみて、適合するものを探すことを提案しています。
巻末には「おまけ」として「ハイパフォーマンス脳の作り方と使い方」が掲載されています。五感を研ぎ澄まし、集中力を上げてアイデアを出すための方法で、特別な道具や準備は不用です。これだけでも実践してみる価値はあるでしょう。
ところで、自分が「思い込み」にはまっているかどうかを知るには、次の問いかけを自分に対して行うのが有効だそうです。
・私は今、自分が望んだ業績や成果、結果を手に入れているか?
・私は今、かつての自分が望んだ状態になっているだろうか?
・私が今やっている方法で、本当にゴールにたどり着けると信じているか?
・もしも私が「思い込み」に陥っているとすれば、それはどんなものだろうか?
19世紀アメリカのユーモア作家に、ジョシュ・ビリングズという人がいます。アメリカではマーク・トゥエインに次いで有名な人だと言われていますが、日本ではほとんど知られていません。この人は名言、格言の名手で、そのひとつにこんなものがあります。
「困難に陥るのは『知らなかった』のが原因ではない。『知っていると思い込んでいた』ことを知らなかったことが原因なのだ」
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