オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!
ムーンショットデザイン幸福論
奥山清行 著 武田ランダムハウスジャパン 刊
1,575円 (税込)
自分が制作に関わった本を取り上げるのは、どうも気恥ずかしいのですが、本書は世界的な工業デザイナー奥山清行氏が忙しい仕事の合間を縫って語り下ろした内容をまとめたものです。
奥山氏は山形県出身。武蔵野美術大学を卒業後渡米し、アメリカのアートセンター・カレッジ・オブ・デザインで学んだ後、ゼネラルモータース、ポルシェ、ピニンファリーナなどでデザイナーとして活躍。エンツォ・フェラーリ、マセラティ・クアトロポルテなどのカーデザインを担当しました。あまり知られていませんが、映画の「バットマンカー」もこの人の作品です。
2006年に独立してからは、ますます仕事の領域を広げ、メガネやスニーカー、家具、オフィス什器などでも独自の作品を発表しています。ピニンファリーナ時代も鉄道車両は手がけていましたが、つい最近ではJR東日本の秋田新幹線用車両「新型こまち」を発表、まもなく走り始める運びです。
本書の内容については、著者みずからが「はじめに」で語っていることをお伝えする方が早いでしょう。 「これは僕の私見だが、デザイナーという職種は昨今のものづくりプロジェクトで司令塔の役割を果たしている存在である。ちょっと前まではナントカプロデューサーとか大手広告代理店とか、いろいろ日本の指針を示してくれる人たちがいた。でも産業と経済の枠組みが変わって、そういう人たちは消えていった。今、未来を語る人種がとても少なくなった中で、唯一脳天気な未来をホラを交えて語るのが、デザイナーだ」
補足すると、デザイナーは抽象的なアイデアを形にして人々に見せるのが仕事です。経営者や販売担当者、工場の制作現場の人たち、広報宣伝担当者など、考え方や立場の異なる人たちに目に見える形でアイデアを示し、議論を整理していく。その役割を果たすのがデザイナーだと奥山氏は言うわけです。だからこそ「司令塔」なのです。
本書のタイトル「ムーンショット」というのは、奥山氏のお気に入りの言葉です。意味は文字通り「月を撃つ」ですが、アポロ計画以前と以後では言葉のニュアンスが反対になりました。アポロ以前は「意味のないことをする」でしたが、アポロ以降は「超人的な努力を積み重ねて、不可能に見えたことを可能にする」に変わりました。ケネディ大統領の言葉に感銘を受けた子どもたちがやがてNASAに入り、ついに人を月に送り届けたからです。
本書で奥山氏は「ものづくり」は「ことづくり」に変わっていくと予言しています。「エクスペリエンス・デザイン」というこの新しい概念は、デザイナーという職種がものづくりの船頭からライフスタイルにおける思想家に変わっていくことを示しています。ものづくりの先進国から「ことづくり」の先進国にシフトすることができれば、日本の未来は明るいのではないでしょうか。
本書はモノクロ印刷ですが、随所に奥山氏のスケッチブックから抜き出したアイデア画が、本人の解説とともに収録されています。世界的デザイナーの頭の中に触れるには、好適な1冊です。
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