南米チリをサケ輸出大国に変えた日本人たち
ゼロから産業を創出した国際協力の記録 
細野昭雄 著 ダイヤモンド社 刊
1,575円 (税込)
「回転寿司やコンビニおにぎりで人気商品のサケ。南米チリは世界2大輸出国の一つである。しかし、かつてこの地にサケはいなかった。ゼロからスタートした養殖が世界的産業にまで発展した背景には、現地の人々と力を合わせて地道に取り組んだ日本人たちの姿があった。知られざる国際協力の貴重な記録」と裏表紙にありますが、本書はまさにその通りの内容を記したドキュメンタリーです。
と紹介すると、「プロジェクトX~挑戦者たち~」というかつてのNHKの人気番組を思い起こす人もいるかもしれません。2000年から2005年までに200本近く放送されたこの番組は、無名の日本人リーダーが職人魂で困難に挑戦するというストーリーで、多くの日本人サラリーマンの共感を呼びました。
本書はJICA研究所が企画した「プロジェクト・ヒストリー」研究の成果をまとめた第1巻です。JICA(国際協力機構)は、2003年に設立された外務省所管の独立行政法人ですが、1974年に設立された国際協力事業団の後継組織であり、両者合わせて過去半世紀の間に、開発途上地域などの経済及び社会の発展に寄与し、国際協力の促進に力を注いできました。さらに歴史をさかのぼれば、1962年発足の海外技術協力事業団にそのルーツを求めることができます。
本書に取り上げられているのは、1969年から20余年にわたって南米のチリで行われた「日本/チリ・サケプロジェクト」です。サケ漁に適した自然条件を備えながら、サケが1匹もいなかったチリを、日本からの卵の移入から始めて、ついには世界で1、2位を争うサケ大国に育てるまでに苦闘した、日本人とチリ人の物語が描かれています。
チリ南部、とくに南緯42~43度に位置するチロエ島からアイセン州コジャイケ、さらにその南にいたる広大なフィヨルド沿岸域は、農業に適する土地も少なく、価値の高い魚も獲れず、チリでも最も貧しい地帯でした。「ジャガイモしか獲れない貧しい島」と揶揄されたチロエ島の零細漁民たちの生活は厳しく、若者たちは希望を持てずに故郷を離れて行かざるを得ませんでした。
こうした状況に、チリ政府は1960年代になって、貧しい零細漁民が価値の高い魚を漁獲して貧困から脱却できるように、放流したサケを回帰させて捕獲する計画を立てました。一方、日本の水産関係者は規制が強まってきた北洋漁業に代わるサケの供給産地を求めていました。こうして両国関係者の関心が一致し、チリでサケの放流・養殖プロジェクトが始まったわけです。
世界の養殖サケの生産量を見てみると、2006年には1位ノルウェーと2位チリの生産量が709万トンで並んでいます。この時点で世界の養殖サケにおけるチリの割合は39%となり、日本の輸入量の3割を占めるに至りました。
チリといえば銅の輸出で大量の外貨を稼ぐモノカルチャーの国としての印象が強いのですが、最近ではモノカルチャー脱却を目指して政策が進められています。サケとワインはそのための2大産業といわれています。日本から最も遠い国のひとつであるチリですが、私たちの知らないところで深いつながりができていたことを、本書は教えてくれます。 |