フェイスブック 若き天才の野望
5億人をつなぐソーシャルネットワークはこう生まれた
デビッド・カークパトリック 著 滑川海彦・髙橋信夫 翻訳 小林弘人 解説 日経BP社 刊
1,890円 (税込)
本書は現在書店の店頭を賑わせているFacebook入門書のたぐいではありません。マーク・ザッカーバーグとFacebookの半生を綴った「伝記」ととらえるべきです。結果から見れば成功物語と言えなくもありませんが、成功したことに力点が置かれているのではなく、なぜそうなったのかという事実にスポットライトが当てられている読み物です。このあたりは、「全面的な協力」をしたというザッカーバーグの考え方が如実に表れていると見ていいでしょう。
日本でのFacebook人気は映画『ソーシャルネットワーク』が火付け役ですが、あの映画だけでFacebookとザッカーバーグを理解したと思い込むのは危険です。映画は登場人物と背景、大枠としての事実関係を借り物として成立した「フィクション」だからです。Facebookを正しく理解したいなら、映画とともに本書を読むべきでしょう。その場合、映画は本書の「挿絵」的な役割を果たしてくれます。
翻訳者のお二人は、アメリカのIT系ブログニュースサイト「TechCrunch」の日本版である「TechCrunch Japan」の翻訳チームとして活躍中のスタッフ。滑川氏が本書の存在に気づいて日経BP社に持ち込んだのが発端だそうです。まだ映画の話が日本で話題になる前のことでしたが、日経BP社はすぐに版権をとって対応しました。それが現在10万部超の大ヒットとなって報われたわけです。解説者の小林弘人氏は、「ワイヤード」や「ギズモード・ジャパン」で知られるインフォバーンの代表取締役CEO。3人ともにTwitterとFacebookのIDが略歴の最後に記載されているところが、本書がただのビジネス書ではないことを示しています。
総ページ数528ページというボリュームは、「軽く読む」には厚すぎますが、ひとたび「おもしろい!」と感じたら、飛ぶようにページをめくることになるでしょう。ストーリーはハーバード大学のカークランド寮で始まった「ザ・フェイスブック」という学内向けのWebサービス誕生の時点からスタートし、社員数1400人、ユーザー数5億人の巨大ネットワークに成長したところで終わっています。その間、17章にわたってザッカーバーグと仲間たちの「冒険」が語られます。
「フェイスブック」というのは、アメリカの高校や大学で入学時に配られる、写真入りの学生名簿の名称です。これのオンライン版を作ってほしいという要望が多くの学校で学生から学校側に対して寄せられましたが、それに応えた学校はありませんでした。学校側がネットワークのメリットよりも、プライバシー侵害のトラブルに巻き込まれるデメリットを重視した結果です。それが世界最大のソーシャルネットワークを生む原因となったのですから、歴史は何とも皮肉です。
多くの日本人はアメリカの若い起業家について、「でっかい夢で創業し、会社が大きくなったら売り払って大金持ちになる」というパターンを想像していると思いますが、本書の主人公であるFacebookの創業者マーク・ザッカーバーグは違います。彼は会社の経営も、大金を稼ぐことも眼中になく、自分のアイデアを具現化することにひたすら精力を注ぎます。巨額の資金をひっさげて、さまざまな企業がFacebookを買いに来ましたが、彼は「会社を売る気はない」の一点張りでした。
Facebookに多くのトラフィックが集まり、広告媒体としての価値が見えてきてからも、ザッカーバーグは広告掲載に消極的でした。「ユーザー体験を損なうようなことは、したくない」と考えていたからです。そのため、巨大ネットワークとなってからも、Facebookは売上が低いままでした。しかしその状態は2008年にグーグルからシェリル・サンドバーグを招聘したことで一変し、Facebookはビジネスツールとしての大きな可能性を世の中に示し始めます。
著者のデビッド・カークパトリックは、長年「フォーチュン」誌でインターネットとテクノロジーの担当編集主任でした。何度かのインタビューを通じてザッカーバーグの信頼を得ることとなり、本人から本書の執筆をすすめられます。彼はその要請に応じるためにフリーとなり、星の数ほどの人たちから話を聞き集め、本書を世に出しました。ザッカーバーグの支持があったため、Facebook社内でインタビューを断った人は皆無であったといいます。27歳の天才CEOを57歳のベテランライターが描写するという組み合わせが、本書の奥行きを深いものにしています。
ちなみに、Facebook上には本書のFacebookページが作られています。
http://www.facebook.com/fbYabou/
ネット関係者必読の書です。
|