オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

スターバックス再生物語 つながりを育む経営

ハワード・シュルツ+ジョアンヌ・ゴードン 著 月沢李歌子 訳 徳間書店 刊

1,785円 (税込)

著者のハワード・シュルツは、スターバックス・コーヒー・カンパニーの現会長兼CEOです。スターバックスがまだ4店舗の「コーヒー豆販売店」でしかなかったころにマーケティングの責任者として参加し、のちに同社を買収。世界に冠たるコーヒーチェーンにまで育て上げました。2000年、CEOを引退して会長となりましたが、2007年に「スターバックスは道を失った」と感じ、2008年からCEOに復帰、奇跡的な復活を遂げて2010年には過去最高益を記録します。本書は、2008年1月からのCEO復帰と回復までの道のりを描いたものです。

1982年9月7日、シュルツはシアトルのパイクプレイス・マーケットにあるスターバックス1号店で働き始めました。ニューヨーク州ブルックリンの貧しい団地で育ち、働きながら大学を卒業したシュルツにとって、妻と二人でシアトルに引っ越すことは冒険以外の何者でもありませんでした。最初の数週間を、コーヒーの勉強と袋詰めに費やしたシュルツは、イタリア出張で人生の転機となるものに出会います。それは、ミラノとヴェローナで見つけた小さなエスプレッソ・バーでした。

カップ1杯のコーヒーを楽しむだけで、人々とつながり、コミュニティを築くことができる力……その魅力に、シュルツは魅了されてしまったのでした。彼はその瞬間から、アメリカに一流のコーヒーとイタリアのエスプレッソ・バーのロマンを持ち込もうと決意したのです。

しかし彼の勤務先であるスターバックスは飲み物を販売せず、コーヒー豆や豆を挽いた粉を販売するだけの小売店でした。上司に対する説得も効果がなく、シュルツは同社を退職し、自分の会社「イル・ジョルナーレ」を設立。シアトルに2つ、カナダのバンクーバーに1つ店を開きます。

1987年、何人かの支援者に助けられ、シュルツはイル・ジョルナーレとスターバックスを合併させることに成功します。そして新たに「スターバックス・コーヒー・カンパニー」として再出発。国民的ブランドのコーヒーチェーンに育て上げたのです。

しかし、「奢れるもの」となったスターバックスは、次第に創業の志を失っていきました。効率を重視するばかりに、バリスタたちはコーヒーの抽出やミルクのホイップのルールを守らなくなりました。その結果、図体ばかりが大きくなったスターバックスは、マスコミやネット社会における悪口ネタの材料になってしまいます。シュルツが「道を失った」としてCEO復帰を決意したのは、このころです。

著者は読者に対して、このように語りかけています。 「まず、物語として名高いスターバックスの歴史を守るためにCEOに戻るのではないということ。次に、過去の間違いを責めないこと。それは非生産的な行為だ。スターバックスが直面している問題の責任は会長だったわたしにもあるし、失敗から学ぶこともできた。それに、いま一番大切なのは、わたしたちの未来に対して強い自信を持つことだ。自信がなければ良い仕事はできない。さらに、戦略と戦術だけでは、この混乱を乗り越えることはできないだろう。とくにわたしがCEOに復帰する当初は。なによりも必要なのは情熱だ。それは、多くの経営者が軽んじているものである」

2008年2月のある火曜日、米国スターバックスは国内にある7100店舗を一斉に閉店しました。7100のドアには鍵がかけられ、お知らせが掲示されました。

「完璧なエスプレッソを作るための研修中です。
エスプレッソを作るには訓練が必要です。
わたしたちはそのための技術を磨いています」

バリスタたちが効率を重視するあまりに、エスプレッソの品質を劣化させていたことがわかったとき、シュルツには選択肢がありませんでした。全店舗を一時的にせよ閉鎖するということは、売上の喪失だけにとどまらない見えないリスクがあります。マスコミや人々の反応も予測不可能でした。

しかし、シュルツはそれを決行しました。「不完全なエスプレッソを提供するようになっては、スターバックスは40年前の創業の精神を失うことになる。つまり、人々の気持ちを明るくすることができなくなるのだ。ただ1杯のコーヒーには大きすぎる使命だということはわかっている。しかし、商人とはそういうものだ。靴やナイフやコーヒーといった日用品に新たな命を吹き込み、自分たちが作り出すものがほかの人たちを感動させることを信じている。自分たちが感動したように」

閉鎖の日から何週間かのうちに、スターバックスのコーヒーの質は改善され、失いかけていたお客様との心の絆を改めて確立することに成功しました。店を閉めての研修中に、7100台のDVDプレーヤーから流された映像には、正しいエスプレッソの作り方だけでなく、シュルツみずからが原稿なしで語りかけた言葉が詰まっていました。それが、従業員やバリスタたちの目を覚まさせたのです。

商売の何かを変えなければならないと思っている人には、絶好の参考書です。勇気が足りないと思っている人の背中も、押してくれます。


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