オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

縦横無尽の文章レッスン

村田喜代子 著 朝日新聞出版 刊

1,680円 (税込)

「文章読本」といえば、谷崎潤一郎の随筆が有名ですが、同じタイトルで川端康成、三島由紀夫、丸谷才一、井上ひさし、吉行淳之介、林真理子といったそうそうたる文筆家たちも出しています。

本書はそれに近い内容ですが、大学の講義録がベースになっており、著名人の文章だけでなく、市井の無名人たちの文章も例文に取り上げられているところがユニークです。

著者は芥川賞をはじめ女流文学賞、川端康成文学賞などの受賞に輝く小説家で、梅光学院大学文学部の客員教授でもあります。本書は山口県下関市にある梅光学院大学での講義をもとにしています。

内容は11のパートに分かれていて、それぞれに例文がつきます。最初の項目では、「何を書くか、書かないか」がテーマで、小学生の作文を題材に、ムダを省いた文章のもつ迫力を確認します。

以下、「自由に、大胆に」「理屈のこね方」「筋の通る文章と通らない文章」「考察とはよく調べて考えること」「深く書くとはどういうことか」「書く前に考えること」「書き終えて読み直すこと」といった項目が続きます。文章は非常にやさしく、教科書然としたところはまったくありません。

しかし、著者が読者に伝えようとしている内容は、じつは高度で緻密なものです。たとえば著者は以下のように書いています。
これはすべての文章に共通することであるが、文章は「意識」なのだ。「どのように書くか」である。ただべたっと書けばいいのではない。衣服を着ることを考えてみる。ただ暑さ寒さをしのぐだけなら、私たちは試着室の鏡の前でへとへとになりながら、着たり脱いだりを繰り返す必要はない。あなた方はどのような服を着たいか。

また、著者はこうも言います。
素晴らしい文章を読んでそれに気づくまでには、一定期間、読み込んで習得することが必要となる。どこがいいのか、なぜいいのか。それを自分できちんと説明できるようになると、自分の書く文章も良くなってくるのである。

本書の目的は、良い文章を書けるようになることですが、著者の言う「良い文章」に至るまでにはさまざまな関門があります。「正しい文法」「言葉の選び方」「テーマの見つけ方」「構成の仕方」などなど。その中で一番大事なものは「筋が通っているかどうか」であると著者は言います。「きちんと理屈が通って論理的であること」が、良い文章であるための第一条件だというわけです。

最後の項目は「創作必携」と題がついた「まとめ」です。
1.テーマをどうつかむか
2.文体をどう作るか
3.書く前は徹底的に調べる
4.まず自分の目と耳で推敲する
5.文章の中に空白はないか
6.自分のクセを知る

5の「空白」とは、意味のない文章のことです。繰り返し、言い換え、本題から外れていることなど、削ってしまっても問題のない部分を著者はそう呼んでいます。そして「ときに、書き足す効果より文章を削り取ってしまう効果のほうが大きい場合がある」と指摘しています。

良い文章は人の心に響き、入り込む力を持っています。しかし、いつでもそれが書けるわけではありません。だから人からの指摘を受け、書き直す作業が必要です。その工程について、著者はこう言って読者を励ましています。
書いて、指摘を受け、そのたびごとに傷つくのはやめよう。文章は自分の充実のために書くもので、自分のもう一つの実現のために書くものである。

気軽に読めますが、真剣に取り組めばまちがいなく文章力がアップする本です。


Copyright (C) 2004-2006 OCHANOKO-NET All Rights Reserved.