「買う気」の法則
広告崩壊時代のマーケティング戦略
山本直人 著 アスキー新書
780円 (税込)
今の日本では「モノが売れない」というのは一種の合言葉のようになっています。「失われた20年」といわれる低成長時代、マーケッターたちはどうすればモノが売れるかに心を砕き、さまざまな施策を提案してきました。しかし決定版と思われるものは未だ登場していません。
本書の「はじめに」で著者は、「『買う気』の謎」について言及しています。いい商品やサービスを提供したからといって、必ずしも消費者は買う気になるとは限らない。「広告」すなわちお金を使って「買う理由」を教えてあげても、その効果は曖昧で測定しづらい。それが従来の広告スタイル衰退の理由だと著者は言います。
博報堂で広告の世界にどっぷり浸かり、退職してマーケティング/人材育成プランナーとなった著者は、「事業主の目線でマーケティングを考えない限り、広告に未来はない」と考えました。そのために、「買う気を高めるコミュニケーション・モデル」を提示することを思いつきます。本書はその成果物です。
あまり明確に指摘されることはありませんが、広告とは「人の心を動かす」ツールです。どんなに立派な広告物であっても、消費者を買う気にさせることができなければ、それは広告とは言えないからです。そしてその広告は、時代の要請に従って大きく変わっていくべきです。
たとえば、「広告出稿でブランド価値を向上させる」という古くから受け継がれてきたロジックは、完全に過去のものとなっています。現在起きているのは「ブランド保証機能の逆回転」と呼ばれる現象で、たとえばホンダがハイブリッド車の「インサイト」を189万円という野心的な価格で発売したことなどが好例です。
一方でマス広告の「乗り物」であるマスメディアは、自縄自縛の罠にはまり、衰退への道を突き進んでいると著者は指摘します。たとえば行き過ぎた景気報道が消費者の買う気をそぎ、社会不安を煽りますが、メディアはそれに対する見通しを示そうとはしません。ネットに対する嫉妬と警戒心が強すぎるのも、広告主から見れば興ざめです。
そのような背景から、大手企業26社が「優良放送番組推進会議」を発足させ、視聴率至上主義に陥った番組制作に一石を投じようとしてさまざまなランキングを発表していますが、「ニュース番組ランキング」の上位10のうちNHKが5つを占めているのは皮肉以外の何者でもないでしょう。番組スポンサーになるべき立場の人々が選んだ優良番組の半分は、広告の入らないものだったのですから。
そして本書の中盤から、話は一気に「買う気」の法則に進みます。
★比較的価格の安い一般消費財は、ネットで検索してからの購買は少ない。使ってみて自分に合わないと思えば、次回からは買わなくなる。
★価格が高い耐久消費財や旅行のようなカテゴリーでは、ネットで比較してから購入する。失敗したときのやり直しが利かないからである。
上記の分類では、価格の安い一般消費財ではマス広告が効き、価格が高い耐久消費財ではネット検索やライバルとの比較に耐えられる施策が必要となります。また、価格の安い一般消費財であっても「消費者関与」の度合いが上がれば、ネット検索で購入される可能性が高まります。たとえばサラダオイルをネットで調べてから買う人は多くありませんが、「中性脂肪がつかない」「コレステロールが低い」などの特徴を打ち出せば、検索の頻度が高まるということです。
最後に著者は、「ABCDモデル」という「買う気」の法則を提唱します。「アテンション」「ブレンド」「コンシューマー」「デベロップメント」の4つのモデルを考え、その頭文字を並べたものです。自分たちの商品がどのモデルに相当するのか、そこからどう発展させていくべきか、その時に最適なプロモーション施策は何かを総合的に判断していきます。
セールスプロモーションの歴史と未来を考えるためにも、参考になる本です。
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