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ウェブ進化 最終形「HTML5」が世界を変える

小林雅一 著 朝日新書

777円 (税込)

本メルマガの読者のみなさんなら「HTML5って何?」とはおっしゃらないでしょうが、それでも念のために釈迦に説法をさせていただくと、HTML5とは2014年の正式勧告を目指して策定が行われているHTMLの最新改訂版のことです。これがWebの標準言語となれば、FlashやSilverlightなどのプラグインは不要になると言われており、すでにHTML5の一部の要素は、Google Chrome 3.0、Safari 3.1、Firefox 3.5、Opera 10.5、Internet Explorer 9などのブラウザが対応しています。

ではなぜそのHTML5が「世界を変える」と言われるほど重要なのか。それが本書のテーマです。そしてHTML5がもたらす変化により、ネット世界はいよいよ「最終形」を迎えると本書は主張しています。すでにHTML5の解説書は書店の技術書コーナーを賑わしていますが、本書はその技術が社会にもたらす変化を予測して解説したものです。技術書の反対側からHTML5を説明した本と言うこともできるでしょう。

著者はKDDI総研のリサーチフェロー。東京大学大学院理学系研究科を修了後、雑誌記者などを経てボストン大学に留学、マスコミ論を専攻。ニューヨークで新聞社に勤務した後、慶應義塾大学メディア・コミュニケーション研究所で教鞭をとり、現職に。著書は『モバイル・コンピューティング』『神々の「Web3.0」』などです。

著者はHTML5が生み出す新しいWeb技術を「ホームページからプラットフォームへの変化」ととらえます。今までのWebは「何かを見るためのもの」でしたが、HTML5が音楽、書籍、映像、アニメ、ゲームなどを統合する機能を持つため、あらゆることがWeb上で可能になるからです。すでにWebの世界はスマートフォンやタブレット端末、さまざまなサービスのクラウド化によって変化を始めていますが、著者はその変化もHTML5が引き起こしたものだと述べています。

本書は全5章。以下、各章のタイトルとおもな小見出しを拾ってみます。
第1章 HTML5は世界をどう変えるか
--すべてのものがWebでつながる
・HTML5=ゲーム・チェンジャー
・HTML5登場の背景--マルチデバイス時代の到来
・クラウドコンピューティングを次の段階に導く
・日本メーカー復活のカギを握るHTML5

第2章 Web進化の究極形
--HTML5とは何か
・HTML5は既に使われ始めている
・プラグインなしでマルチメディアを再生
・インターネットから切断されてもWebアプリが使える
・異なるブラウザ間の互換性を実現

第3章 HTML5を巡る米IT業界の動き
--個別プラットフォームからWeb標準への覇権移譲
・アップルはなぜFlashを排除するのか
・HTML5はスマートフォン戦争も左右する
・デスクトップコンピューティングの終焉
・マイクロソフトは将来への展望が見えない

第4章 日本メーカー復活のカギを握るHTML5
--「M2M(Machine to Machine)」が成長する
・家電のIT化で勝ちパターンが変化
・スマートフォンやネットテレビは序章に過ぎない
・アップルやグーグルに対する日本メーカーのアドバンテージとは
・共通プラットフォーム作りでは韓国メーカーよりも日本メーカーに1日の長

第5章 HTML5で生まれ変わるマスメディア
--新しいプラットフォーマーの誕生
・電子出版市場を分け合うアマゾン、アップル、そしてグーグル
・デジタル化への再編が始まった日本の出版業界
・HTML5もいずれは日本語表記に対応
・TVがWebに呑み込まれる

本書で特に注目すべきは、4章と5章かもしれません。4章は負け続けの日本経済に光明を投げかける内容ですし、5章は硬直化した日本のマスメディアに革命をもたらす道を描いているからです。どちらにも共通しているのは、「オープン・プラットフォームにどう乗っていくか」でしょう。

日本メーカーは技術開発力や品質力では抜きん出ていますが、こと世界標準を取ることにおいては後れを取っています。ために「ガラパゴス」と揶揄され、国内だけの栄華からじり貧への道をたどるばかりでした。しかし、初めからオープン・プラットフォームの上で勝負すれば、標準化競争とは無縁になります。DOS/Vパソコンのような単体製品としてのオープン・プラットフォームだと、価格競争力が大きなカギになるので日本メーカーは不利ですが、WebによりMachine to Machineの連携が実現する時代になると、協調性を保ちながら高性能・高品質を追求するのが得意な日本メーカーが有利になるというわけです。

第5章で著者は、あらゆるコンテンツメーカーはHTML5を採用すべきであると主張しています。出版界はEPUB、放送局はBMLといった規格を採用していますが、それらは元をただせばXHTMLとCSSをベースに作られたものです。しかしEPUBとBMLには互換性はなく、EPUBで作られたコンテンツを放送することはできず、BMLで電子出版物を編集することもできません。そんな狭い世界で肩肘張らず、先祖が同じHTML5を採用すれば、スムーズにメディアの垣根を越えたコンテンツの利用が可能になります。

必ずしも著者の予測通りに世の中が進むとは限りませんが、Web世界の未来を占う材料としては、読みやすく楽しめる内容の本です。


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