オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

「規制」を変えれば電気も足りる
日本をダメにする役所の「バカなルール」総覧

原 英史 著 小学館101新書

735円 (税込)

タイトルとカバーのイラストを一見すると、よくある軽い雑学本のひとつに思えるかもしれません。しかしそれは「世を忍ぶ仮の姿」で、本書は公務員改革に粉骨砕身した元高級官僚が、役人の既得権益を守る手口を告発した「世直しのための参考書」です。むずかしい議論について行けない一般読者にもわかりやすく「日本の役人は何をしているか」が語られています。

元経産省の古賀茂明さんの名前を記憶している方は少なくないでしょう。公務員改革の中心人物として活躍し、役人たちから疎まれた結果、居場所がなくなって辞表を出さざるを得なくなった人です。最近は著書を出したり、テレビに出たりと引っ張りだこで人気者になっています。

本書の著者・原 英史氏は、その古賀氏の部下で、公務員改革の尖兵として第1弾、第2弾の法案を通す働きをした人物です。東京の学校に詳しい人なら、「開成高校始まって以来の秀才」と称されたと聞けば、どのくらいの秀才か想像できるでしょう。原氏はその能力をいかんなく発揮して、抵抗勢力の役人たちが仕掛ける法案の罠をことごとく察知し、武装解除してしまいました。

その著者が、日本国民に向けて「役人の手口」をわかりやすく告発しているのが本書です。カバーのイラストは「うちの工場は自家発電で電気が余っている」という工員さんと、「停電してるのよ。その電気をちょうだい」という主婦がお互いのプラグを接続しようとしているのを、役人らしき人物が羽交い締めにして阻止している図です。「ハイ、残念」「ダメなんですよ」というセリフが、いかにもお役人という感じです。

このイラストは本書のタイトルをそのまま表したもので、日本の電気行政にまつわる闇の一端を皮肉ったものです。あの悪名高き「計画停電」のとき、六本木ヒルズは自家発電装置を持っていることが広く知られました。しかし、その電気が余っていても、周辺住民は六本木ヒルズから電気をもらうことはできません。法律で規制されているからです。

それどころか、各地の自家発電装置は、あの計画停電の最中に送電を止められてしまったのです。自分たちの発電能力に余力があっても、送電網を東電に依存しているため、東電が一律に電気を止めてしまうとどうすることもできません。このような規制は戦時中の統制経済で生まれたものですが、電力業界が甘い汁を吸うために残され、アメリカの2倍といわれる電気料金の高さを生む元になっています。

その他、本書には国民生活に密接な関係を持つ話題が山盛りです。
「なぜ学校の階段には必ず『踊り場』があるのか」
「なぜ私立の新設校は『全寮制』が多いのか」
「なぜ公立校の校長には人事権がないのか」
「なぜ理髪店、美容院の休日は地域で一律なのか」
「理容師と美容師が一緒に働いてはいけないのはなぜか」
「ビールの税率はなぜドイツの22倍もの高さなのか」
「生肉の衛生基準になぜ罰則がなかったのか」
「なぜ『こんにゃくゼリー』が大問題になったのか」
「JAS規格は誰のために存在するのか」
「15年も『暫定』のまま放置されていた放射能の食品基準」
「はじめから『利潤』が計上されている電気料金の怪」
「薬のCMで最後に『ピンポン』と音が鳴るのはなぜか」
「『ファイト、一発!』の前にリポビタンDを飲まないのはなぜか」
「テレビショッピングの注意書きはなぜ小さな字で表示されるのか」
「東京都民はテレビ神奈川の番組を見てはいけない?」
「『セグウェイ』が公道を走れないのは日本だけ?」
「日本の道路の速度規制は1968年当時のまま」
「『交通の教則』は年間1400万部の大ベストセラー」
「医師免許やパイロット免許にはなぜ更新がない?」
「関西のタクシーだけが厳しい『最高乗務距離規制』の謎」
「タクシー会社は減車をすると監査が免除される」
「ホテルの洋朝食はなぜメニューが画一的なのか」
「根拠なしに導入されたネットでの医薬品販売禁止」
「『派遣社員は電話に出るな』の謎」
「貸金規制の金利は江戸時代のまま」
「なぜ役人は『経産省に勤めている』と言い『日本政府に勤めている』と言わないのか」
「国会議員に法律を作らせない『法律』がある」

本来、お役人は国会議員が作った法律に従って国民のために奉仕する存在のはずです。しかし現在の日本では、役人が法律を作り、それを好きなように運用し、支配下の業界に天下りポストを作らせて「もたれ合い」の生活共同体にしています。国民はその実態に気づかず、「世の中、そんなものだ」と追認させられています。

しかし、その結果として杜撰な焼き肉店の出した生肉で死者が出たり、起こるはずのない原子炉の事故が起きたり、不合理な制度が定着していたりしています。アメリカの2倍の電気代を払い、ドイツの22倍の税金が入ったビールを飲まされて、損をしているのは日本国民のはずです。

本書は「役人天国・日本」の実態を、わかりやすく世に知らしめるための「紙つぶて」のような存在です。「そうめん」と「ひやむぎ」が0.1ミリ単位で規制されていることなどは、「おバカ規制」として広めていくべきでしょう。

「増税よりも前にやることがある」と感じさせてくれる、ヒントに満ちた本です。


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