オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

前略。農家、はじめました。

斎藤 融・周子 著 ゴルフダイジェスト社 刊

1,365円 (税込)

団塊の世代の人なら、「メンズクラブ」や「平凡パンチ」という雑誌には特別な思いがあることでしょう。とくにファッションに興味を持っていた人は、この斎藤 融というイラストレーターの描くファッション・イラストレーションはたくさん目にしてきたはずです。

業界人からは「トケさん」という愛称で親しまれた斎藤さんは、東京生まれの典型的な都会っ子。ファッションやクルマやアウトドアなど世の中で一番新しい、かっこいいものが大好きで、そういうものの絵を描きつつも、みずからもその中にどっぷりはまっていました。

私も「ドリブ」という男性誌の編集者だった時代には、「トケさん」にさんざんお世話になりました。「課長のいびり方」という特集では、10タイプの課長さんのイラストを描き分けてもらい、あまりにリアルな特徴の描き込みぶりに、抱腹絶倒したものです。

当時の「トケさん」の愛車は、古びたフォード・ブロンコ。まだアメリカ車が日本車の影響を受ける前の、大排気量で力強く走るアメリカそのもののようなクルマでした。シャモアクロスのシャツにチノーズを履いてフライ・フィッシングにいそしむ姿を拝見して、かっこいいなあとひたすら憧れたものでした。

そんな「トケさん」の懐かしいイラストが表紙に入った本書をすすめてくれたのは、なんとホリエモン。彼が最新号のメルマガで書評に取り上げていたのです。彼が注目したのは、都会派イラストレーターの百姓姿ではなく、巻末にさらりと紹介されていたあるビジネススタイルだったのですが。

本書は都会暮らししか知らなかった老境の夫婦が、はじめて土いじりの喜びを知り、自然のなかで生きることの感動にふるえる毎日の断片を綴った軽い読み物です。プロとしての農家ではなく、アマチュアの年寄りが無理なく取り組める範囲の農作業。それをふたりの目から解説していきます。

したがって本書は、いわゆる「田舎暮らしの本」ではなく、ハウトゥ本でもありません。自然食のことにも触れていますが、レシピはついていません。なんの実用性もなく、なんの説教臭さもない。ただ淡々と土と暮らす日々の楽しさを語りかけてきます。

にもかかわらず、この本は人に薦めたくなります。読んでいると心がぽかぽかしてくるからです。結婚してからずっと引きこもりだったという奥様が、土いじりを始めてから人間らしさを取り戻していくエピソードや、力も技もないふたりが力を合わせて作業するくだりが、ほほえみと感動を呼ぶのです。

最後に著者の言葉を引用します。
「それまでの生き方がどんなものであったにせよ、人生のラストランを輝かしくしてくれるものが必ずあると思う。私たち老夫婦にとって、それは"土"であった」 とくに自然から離れて暮らしている人たちにオススメです。


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