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起業工学 新規事業を生み出す経営力

加納剛太 編著 幻冬舎ルネッサンス 刊

1,470円 (税込)

幻冬舎ルネッサンスという出版社は幻冬舎の企画出版部門で、自費出版や協力出版など、通常の出版物とは違う生い立ちの本を手がけるところです。そして本書は、大阪電気通信大学がスポンサーとなり、パナソニックグループと駐大阪・神戸アメリカ総領事館の後援によって生まれました。

「起業工学」という言葉は、編著者が今から15年前に高知工科大学大学院の「起業家コース」を担当した時に作ったものです。英語の名刺に「Entrepreneur Engineering(アントレプレヌール・エンジニアリング)」と表記したところ、スタンフォード大学の教授陣を初めとしたシリコンバレーの人たちに絶賛されたので、それを逆輸入して「起業工学」と呼称するようになりました。

本書は大阪電気通信大学の創立70周年と新学舎竣工を記念して設けられた「起業工学講座」を活字化してまとめたものです。同講座はパナソニックグループの協賛により、内外から14名の講演者を招いて行われました。筆者の顔ぶれは次のようになっています。

監修者:福田國彌(大阪電気通信大学理事長、京都大学名誉教授)、水野博之(元松下電器産業株式会社副社長、大阪電気通信大学副理事長)=第2講筆者
編著者:加納剛太(元松下電子工業株式会社乗務、大阪電気通信大学客員教授)=プロローグ、第14講筆者
第1講、第13講筆者:リチャード・ダッシャー(スタンフォード大学教授)
第3講筆者:古池進(元パナソニック株式会社副社長)
第4講筆者:ジェームス・ハリス(スタンフォード大学教授)
第5講筆者:杉山一彦(元松下電器産業株式会社副社長)
第6講筆者:河崎達夫(元松下電子工業株式会社専務)
第7講筆者:成瀬淳(大阪電気通信大学監事、元株式会社日立グローバルテクノロジーズ社長)
第8講筆者:桑野幸徳(元三洋電機株式会社社長、大阪電気通信大学理事)
第9講筆者:松波弘之(京都大学名誉教授)
第10講筆者:カルロス・アラウジョ(コロラド大学コロラドスプリングス校教授、シンメトリックス社長)
第11講筆者:中村修二(カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授)
第12講筆者:ラリー・ウエバー(元松下電器プラズマコ社長)

肩書きを見ただけで蒼々たる顔ぶれであることがわかります。この人たちが自分の輝かしい経歴に隠された努力と苦悩の歴史を明かしながら、それぞれ自分なりの起業家論を展開していきます。特に、シリコンバレーにおける起業の背景や哲学は、日本人の多くがこれまで知らずにいたものでしょう。

たとえば、リチャード・ダッシャー教授は堪能な日本語で日本とアメリカの起業の違いを指摘します。最も大きく違うのは起業のゴールで、日本の起業家はやみくもにIPO(株式上場)を目指しますが、シリコンバレーではIPOは圧倒的少数派で、ほとんどの場合が大手企業による買収により、創業者が莫大な資金を手にするところで幕を閉じます。ダッシャー教授は、「日本の起業家はゴールに至るシナリオを持たずに起業している」と言っています。

青色発光ダイオードの発明者、元日亜化学の中村修二教授の半生記は、抱腹絶倒です。駐車場に立ててもらった掘っ立て小屋を研究室にして、毎週1回は大爆発を引き起こしていたとか、必要な機材を買ってもらえず、スクラップを集めて自分で作ったとか。彼は欲を出して会社を訴えたように思われていますが、実は濡れ衣を着せられて訴えられたため、やむにやまれず反訴した結果があの報道だったと述べています。

元三洋電機社長の桑野氏は、みずから開発したアモルファス太陽電池を自宅の屋根に取り付けて実証実験を行いました。氏の展開する、「世界中のエネルギーを太陽電池でまかなう」計画は、超伝導送電線を使うものですが、原子力発電などよりはるかに安全で健康的です。電卓や腕時計に太陽電池が取り付けられたのは、氏の功績です。

ラリー・ウエバー氏の起業物語は、ある意味では日本人よりもずっと人間くさくて親近感が持てます。会社の資金が足りなくなって家の貯金を取り崩す時、奥さんに「このお金は多分戻ってこないと思う。だけど、このお金で自分が正しいことを証明したいんだ」と告げます。徹夜の連続で作り上げた新製品が発表会で動かなくなった話や、役員会に内緒で新製品を開発した話、綱渡りのような資金繰りの末の松下との提携。会社経営に携わった人なら、だれでも共感するエピソードにあふれています。

300ページ近い大作でありながら、読み始めると次々と読み進んでいくことができます。理系の筆者ばかりなので、多少は専門用語が出てきますが、読み飛ばしても問題はありません。


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