「判断力」を強くする
正しく判断するための14の指針
藤沢晃治 著 講談社ブルーバックス
840円 (税込)
TVの人気番組『世界一受けたい授業』で講師として出演したこともある著者は、講演やセミナー講師として日本中を忙しく飛び回るコミュニケーション研究家。もともとは慶應義塾大学で管理工学を専攻し、大手メーカーに勤務していたエンジニアでしたが、在職中にプレゼン術に目覚め、「プレゼンの神様」と呼ばれるようになりました。現在、著者のホームページには、講演・研修実績として一流企業と官公庁の名前がずらりと並んでいます。
著者が最初に世に出した本は、同じブルーバックスの『「分かりやすい説明」の技術』シリーズ3部作。これが合計60万部を超えるベストセラーとなり、認知心理学を応用した、わかりやすく親しみやすいコミュニケーション技術の先生として脚光を浴びています。独学で英検1級、TOEIC900点、国家資格「通訳ガイド」、工業英検1級を取得し、日本人が英語をモノにする方法や、社会人のための勉強法なども教えるようになりました。
そんな著者が本書で読者に提案するのは、「ミスをしない判断」の方法です。人生は物心ついてから墓場に行くまで判断の連続ですが、多くの人は過去の「判断ミス」について後悔し、悩んでいます。判断ミスをしたのには理由があったはずですが、その結果が人生を大きく変えるというのは、残酷な事実です。そのことについて、著者は「はじめに」でこう述べています。
かくいう私も、人生のすべての分かれ道で正しく判断してきたならば、今頃は地中海に面した南フランスに豪邸を持っていたでしょう。毎日、豪華クルーザーに乗って高級シャンパンのグラスを傾けながら遊び暮らしていたはずです。しかし現実には、数々の判断ミスを重ね、セレブな生活とはほど遠い日々を送っています。たしかに、振り返れば「なぜ、あの道を選んでしまったのか!」と悔やまれる判断ミスがたくさん思い浮かびます。そうした過去の判断ミスから何らかの教訓を学び取りたいものです。そうすることで、これからはできるだけ正しい判断を下し、よりよい人生を歩みたい。--それが本書執筆の動機でした。
普通の人ならば、同じような判断ミスを際限なく繰り返し、「ああすればよかった」「こうすればよかった」と十年一日のような愚痴を振りまきながら墓場までの道のりを歩んでいくのでしょう。しかし、勉強家の著者は、同じようなミスを繰り返す自分が許せませんでした。そして独自の研究を進めた結果、「人はどんなところで判断ミスを犯すのか」を調べ上げ、判断ミスを避けるための指針をまとめ上げたのです。それが本書の内容です。
第1章は、「あなたはなぜ判断を誤るのか」というタイトルで、人がどうして判断ミスをするのかを分析しています。目次を転記しますので、その内容は類推してみてください。
私たちは常に判断を迫られている
判断ミスの共通原因
狭い範囲で考えている
選択肢を絞り込めない
先読みができない
思い込みをしている
目先のことに囚われる
優先順位を間違える
選択肢のデメリット面を見落とす
確率の小さな危険を過剰に恐れる
小さな確率に備えない
臨機応変な判断ができない
因果関係を間違える
単純化しすぎる
過去の経験に囚われる
他人の考えに流される
「疑う力」が不足している
冷静さを失っている
第2章では「判断とは何か」が論じられ、いよいよ第3章で「正しい判断のための14の指針」が示されます。
指針01 選択肢は多めに挙げよ!
指針02 ムダな選択肢は刈り込め!
指針03 最悪のケースも忘れるな!
指針04 因果関係を間違えるな!
指針05 何がもっとも緊急かを考えよ!
指針06 自分の「思い込み」を疑え!
指針07 情報の信憑性を疑え!
指針08 メリットとデメリットを天秤にかけよ!
指針09 生命の安全を最優先せよ!
指針10 「交通事故の確率」は無視せよ!
指針11 小さな確率に備えよ!
指針12 臨機応変に判断せよ!
指針13 他人の価値観に流されるな!
指針14 遠い昔の判断ミスを気にするな!
さらに第4章では「判断チャートで考えよう」という内容で、自分なりの判断チャートを作り、それに沿って正しい判断を導き出すための方法論が書かれています。なぜ判断チャートが必要なのかというと、複雑な問題を頭の中でモヤモヤと考えることで発生する見落としを防ぐためです。人生に起こるさまざまな判断ポイントを、「自分に選択権のある分岐点かどうか」で印を変え、評価点を出す局面を明らかにする。ただそれだけのルールで、どんな複雑な選択も明確化できます。
そして著者からの最大のアドバイスは、「自分に選択権のない分岐点では最悪のケースを想定し、自分に選択権のある分岐点では最善のケースを選べ」というものです。そのアドバイスに従って判断チャートを完成させていくと、「いま転職すべきか」「家業を継ぐべきか」といった大問題もすっきりと単純化されていきます。
巻末には、付録として14の指針にまつわるチェックリストが掲載されています。たとえば指針01の「選択肢は多めに挙げよ!」の場合は、以下のような項目が用意されています。
□ まったく別な選択肢が他にもないか検討したか?
□ 関連情報を十分に集めたか?
□ 最初に切り捨ててしまった選択肢を再検討したか?
□ 他人に助言を求めたか?
「自分で判断したことの結果について、後悔は絶対にしない」という人には必要ない本かもしれませんが、自分の判断力に少しでも不安がある人は、一読しておいた方がいいかもしれません。その結果、人生からひとつでも判断ミスが減らせるなら、それは素晴らしいことではないでしょうか。
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