督促OL 修行日記
榎本まみ 著 文藝春秋 刊
1,208円 (税込)
以前、小欄でコールセンター小説を取り上げたことがありましたが、今回は小説ではなく実話。それもアウトバウンド(こちらから電話をかける)の現場で滞納者に入金を督促するという、コールセンターとしては最もストレスが多そうな仕事に従事するオペレーターご本人が著者です。
「今からお前を殺しに行くからな--」
これは本書の「はじめに」冒頭、1行目です。すごいインパクトですが、著者の職場ではお客様からこんな言葉を聞かされるのは日常茶飯事。「お金がないから払えない」と居直る相手を説得したり、逆ギレして怒鳴りつけてくる相手を闘牛士のようにさばいたり、とにかく普通の神経の人では1日たりとも我慢できそうにない仕事です。
「気弱で引っ込み思案。相手が悪くても文句を言えない」
これが新卒としてこの職場に配属された著者の性格でした。ただでさえコールセンターに向かなそうな性格なのに、ましてアウトバウンドで督促とは。だれがこんな配属を考えたのでしょう。
実際、著者は半年で体重が10キロ減り、顔中ストレス性のニキビでひどいありさま。なんとかストレスを解消しようと、カウンセリングやセラピー、病院の門を片端から叩き、ストレス解消グッズを次から次へと試していきました。
「このままでは時間の問題--」
だれもが著者をそう見ていた頃、著者の心の中にひとつの決意が形作られます。それは、「人を使い捨てにする職場は正しくない。ストレスを溜め込まずに仕事の目的を達成する方法を誰かが研究するべきだ」という思いでした。
この思いが著者を駆り立て、まったく成果を出せなかった身から、300人のオペレーターを指揮し、年間2000億円の債権回収を実現するまでに成長させました。本書はその成長記録であるとともに、あらゆる接客業で役立つ「ストレスを溜めずに目的を達成する」ためのノウハウ本でもあります。
ノウハウ本といいながら、本書が売れている理由はその「明るさ」にあるのでしょう。全体の基調が明るく、ユーモアに溢れているのです。それはおそらく、著者が督促の仕事をマスターする上で身につけた処世術に違いありません。
本書は著者が書き続けてきたブログ(http://ameblo.jp/tokusokuol/)から生まれたものです。「督促OLの回収4コマブログ」というタイトルからもわかるとおり、著者みずからのヘタウマイラストが掲載されています。が、このイラストが「癒し効果」満点なのです。本書にも一部掲載されていますので、購入された方はもれなくご覧になれます。
本書にはオマケがもうひとつ。それは、各章の間にあるコラムで、タイトルは「頼みづらいことを頼む、断りにくいことを断る! 督促OLのコミュ・テク!」です。以下はそのラインナップです。
その1 約束日時は相手に言わせる
その2 「お金返して!」と言わずにお金を回収するテクニック
その3 いきなり怒鳴られた時に相手に反撃する方法
その4 厳しいことを言うときのツンデレ・クロージング
その5 クレームには付箋モードで反撃
その6 「誤ればいいと思ってんだろ!」と言われない謝り方
その7 「ごめんなさい」と「ありがとうございます」の黄金比
その8 声だけ美人になる方法
このコラムはまさに今すぐ使える特効薬。不特定多数を相手にセールスをしている人などは、間違いなく成績アップのツールになるはずです。また、接客が苦手と思っている人は、弱点克服のカギがこの中に隠されているかもしれません。とにかく、このコラムだけでも本書を購入する価値があります。
でもひとつだけ、コラムの内容を紹介しちゃいましょう。その5の「付箋モード」ですが、これはいろいろな「決め台詞」を書いた付箋のこと。コールセンターのオペレーターは、よどみなくお客様との会話をするために、決め台詞を書いた付箋を目の前にいくつも貼っていることが多いのですが、この付箋は別の時にも役立つという話です。それは、お客様が怒鳴り続けた時。まともに聞いているとストレスになるだけですが、その間にこの付箋を順番に読んでいると、冷静に対処できるということです。
ストレスフルな現代を生きる人たちにうってつけの好著です。
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