成功する会社はなぜ「写真」を大事にするのか
一枚の写真が企業の運命を決める
大谷和利 著 講談社 刊
1,575円 (税込)
ファッションやデザインに流行があるように、書籍のタイトルにもブームがあります。ひと昔前は「○○力」という言葉が流行りましたし、「もしドラ」ブームにあやかって「もし○○が××だったら」というタイトルも横行しました。「×0代までに~すること」というタイトルもよく見ますが、これはアメリカのビジネススクールで使われた本のマネですね。
本書もそういうパターンのタイトルで、「○○はなぜ××を~するのか」というタイトルの亜流です。昔だったら、サブタイトルの「一枚の写真が企業の運命を決める」がメインタイトルになっていたでしょう。おそらく講談社でもいろいろな意見があって、テイストの違う2種類のタイトルを両立させたのではないかと想像できます。
おもしろいのは、「写真が大事」とタイトルでうたっていながら、表紙カバーに写真が使われていないことです。写真どころかイラストもなく、真ん中に赤い四角があるだけ。しかも表紙カバーは2色印刷です。なぜこういうシンプルな表紙デザインにしたのか、本書の内容と合わせて考えてみてもおもしろいでしょう。
本書の著者は1958年生まれのテクノロジー・ジャーナリストです。スティーブ・ジョブズやビル・ゲイツへのインタビュー経験があり、「AERA」「DIME」「日経コンピュータ」などの雑誌メディアに多数の記事を寄稿してきました。著書としては『アップルの未来』『iPadがつくる未来』(ともにアスキー新書)、『電子書籍制作ガイドブック』(インプレスジャパン)などがあります。
内容について見ていく前に、目次を引用しておきましょう。
・はじめに ビジュアルを制する者はビジネスを制す
・第1章 日本企業のウェブサイトはなぜお粗末なのか
・第2章 中国の女優はなぜ海外で人気があるのか
・第3章 群れから抜け出した会社のビジュアル戦略
・第4章 視覚イメージを武器に躍進する日本企業
・第5章 一枚の写真が会社の運命を決める時代
・おわりに 個人も企業も「出る杭」が伸びていく
筆者は「はじめに」の中で、非常に重要なことを語っています。「日本と海外の新聞を比べると、写真の数と役割が大きく異なっている」と。日本の新聞写真は数が少なく、記事の文章を補足するものであるのに対して、海外の新聞写真は数が多く、写真が記事の主役であって、文章はそれを補足しているというのです。つまり海外の新聞は「まずビジュアルで惹きつけ、その後に語るべきことを言葉で表現する」という順序になっているのに、日本の新聞は言葉の見出しで惹きつけ、詳しい内容も言葉で語っているというわけです。
その理由のひとつとして、著者は日本人の識字率の高さを挙げています。読者の誰もが言葉を理解するのだから、ビジュアルに頼る必要はないというわけです。そこで本書のタイトルに話が移ります。「成功する会社は写真を大事にする」--すなわち、「成功したければ、ビジュアルを重視せよ」となります。そしてそれが、第1章につながっていきます。
著者は「日本の企業は写真を添え物扱いしている」と警鐘を鳴らします。「百聞は一見に如かず」ということわざが浸透している国とは思えないと切り捨てます。たとえば立派なカタログを作りながら、会社概要のページで経営者の写真がお粗末だったりする会社は、「美しく飾り付けがなされたデパートで社員専用通路のうら寂しさを見た時のような残念な光景」というわけです。
著者がビジュアル要素としての写真を重視する理由は、それがブランディングに重要な役割を果たすからです。日本の企業はブランディングのためにロゴや店舗デザインにはお金をかけますが、ブランドはそれらだけで維持されるものではありません。むしろ、ロゴや店舗デザインは短期的効果しか生まず、長期にわたってブランドイメージを支えるのは、良質な視覚イメージなのだというのが著者の主張です。その一例として、コカ・コーラやBMWの公式ウェブサイトにある役員紹介ページが挙げられます。
それらの企業の役員紹介ページは、明らかにプロのカメラマンが撮影したとわかるクオリティのポートレートが掲載されています。それぞれの人物の人柄までわかるような表情豊かな写真です。コカ・コーラの場合は、ショートムービーや過去のインタビューまで用意されています。ひるがえって日本企業の役員紹介ページはどうでしょうか。写真どころか、名前が文字で羅列されているだけというのがほとんどでしょう。
そして著者は、「日本の会社はもっとストックフォトを利用するべきだ」と言います。ストックフォトというのは、さまざまな写真をカテゴリー別に整理して検索しやすいようにストックし、利用者のリクエストに応じて貸し出すフォトサービスのことです。これを使えば、いちいちプロカメラマンに撮影してもらわなくても、用途に即した高品質の写真が利用できます。
本書によれば、地球上では毎日3000万回のパワーポイントによるプレゼンテーションが行われているそうですが、その半分は見るに堪えないものだといいます。「デス・バイ・パワーポイント」、すなわち情報の整理不足で伝えたいことが伝わらない状態になっているからです。「伝えたい『違い』は何か」がはっきりしていれば、1枚のスライドには1点の写真と要約されたひと言があれば充分。それが著者が本書で言いたいことのキーポイントです。
誰かに向けて効果的アピールをする必要のある人すべてが読むべき好著です。
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