もう終わっている会社
古我知史 著 ディスカヴァー・トゥエンティワン 刊
1,575円 (税込)
「あの店、今日もガラガラだったよ」
「ああ、もう終わってるね」
「なんだ、まだあの客先を追いかけてるのか。もう終わってないか、あの話」
「終わってますよ、あの会社。在庫管理システムが、MS-DOSベースなんです」
「本当か? そりゃ、終わってるな」
「終わっている」とは、「もう何をやってもダメ、追いかけるだけムダ」な死に体の状態を指す言葉として、おもに若いビジネスマンや学生の間で使われます。もう少し細かくニュアンスを調べてみると、「見かけはまだ大丈夫そうに見えるが、じつはもう中が腐っている」という感じが込められている場合が多いようです。
本書は、そんな刺激的なタイトルを掲げながらも、サブタイトルではこう主張しています。「本気の会社改革のすすめ」と。著者はベンチャーキャピタリストとしてこれまでに50社以上の起業や事業開発、投資育成の現場に直接参加してきた、企業の問題を解決するプロです。これまでに『戦略の断層~その選択が企業の未来を変える~』(英治出版)、『アリストテレスの言葉』(東洋経済新報社)、『問題をつぎつぎ解決する人の5つの口癖』(あさ出版)などの著書を上梓しています。
本書で著者が言いたいことは、「間違った経営戦略を捨てて、本気で『終わらない会社』を作ろう」というものです。では、著者の言う間違った経営戦略とは何か。それは何と、「選択と集中」「中期経営計画重視」「顧客至上主義」の三種の神器だそうです。これはタイトル以上に刺激的です。いまや当たり前とされている経営戦略の根幹にいちゃもんをつける、いわば「ちゃぶ台返し」なのですから。
そして著者は、「もう終わっている会社」のチェックリストを掲げています。次の各項目にひとつも該当しなければ、その会社は大丈夫だとのことです。
・コア事業にすべての経営資源を集中投下している
・中期経営計画(いわゆる中計)をしっかりつくっている
・「お客さまの声を聞け!」と必死になっている
・新規事業など新しいプロジェクトを常に真面目に検討している
・あいまいさを許さない内部統制とコンプライアンスに一所懸命である
本書は、それらのリストに該当する部分のある会社の経営者と社員、あるいは関係者が読むべき本だと著者は言います。そして次のメッセージが続きます。
「早速にこの本の結論のひとつだが、会社を変えるのはやはり一人ひとりの『個人』だ。その個人がフォーマルな(つまりカチッとできあがった)会社の枠組を(気持ちのうえで)ぶっ壊して、ナナメヨコにつながるインフォーマルな(つまり原始的な好き嫌いのお付き合いの)組織(のような集まり)で、根こそぎ会社を変えていくのである」
では、いつものように目次を紹介します。
・ちょっと戦闘的な? プロローグ
・序章 終わらない会社にあなたが変える
・第1章 選択と集中の戦略と決別せよ
・第2章 中期経営計画などやめちまえ
・第3章 顧客至上主義を捨てよ
・エピローグ 最後の遠吠え
第1章では、金科玉条のごとくもてはやされた「選択と集中」を槍玉に挙げています。なぜ日本企業は選択と集中をやめるべきなのか。それは、日本人が選択と集中を真面目にやってしまうから。真面目に今の時点で多数の目から見て有望そうなものだけを残し、そこに真面目に仕事に取り組む人たちを集中配置する。そういう会社はすぐに終わる、と著者は言います。選択しなければならないのなら、思い切り変なものを選択し、変なことに集中できる社員だけを優遇して、あとの人たちは窓際に追いやってしまう。そうすればまだ生き残れる可能性が出てくるというのです。
これ以上は丸ごと引用になってしまうので、断片のみ箇条書きにします。
・ジャック・ウェルチが手本を見せたリストラ
・日本人と日本の会社の大きく決定的なふたつの思い違い
・日米の「選択と集中」の進み方はこんなにも違った!
・選択と集中は、勝手わがままがいい
・世の中は不連続。サプライズが大きな変革を起こす
・集中すべきは商品ではなく、それを生んだ会社の能力
・不連続な変化の中での特異点に手を打て
・いかがわしきものに賭ける
・辺境と周辺に宝は眠る
・理解ある組織がイノベーションの種をつぶす
・イノベーションはカイゼンの延長線上にはない
同様に、第2章では「中期経営計画の策定をやめろ」と主張しています。なぜか。「3年先に世の中がどうなっているのか、わかりそうで全然わからないのに、どうして計画が詳細に立てられるのか。それを疑わないことが、そもそも非常識だ」と著者は言います。以下、ポイントになりそうな部分を紹介します。
・新社長の経営マニュアル「中計」は何のためにある?
・今の日本企業が発表する中計の多くは、現状肯定の楽観的予測の砂上の楼閣
・組織の変化を阻止する、官僚主義の三種の神器
・強い会社は現状とゴールに断層をつくる
・中計を廃し、未来への魂胆を持て
第3章では、「顧客の言うことを聞かない」というのがテーマです。著者は言います。「会社の絶対譲れない想いや信念があるだろう? あなたとあなたの会社のアイデンティティ、自分たちの存在する意味を明確に証明してくれる何かをもって、顧客を洗脳すべく、顧客に対してクソ真面目に主張することだ。会社と会社想いのあなたの心底にある魂からの叫びであれば、あなた自身も会社も、そしてお客さまにも、それは伝わる。希望をお客さまにお届けしようじゃないか」。以下、ポイントになる部分を列記します。
・「顧客を囲い込む」という幻想
・しょせん、顧客は浮気者
・古くからの顧客を捨て、新しい顧客にアタックせよ
・好きなようにシナリオを描いて、顧客を巻き込め
・非の打ちどころのない商品は開発するな
・顧客至上主義あらため、自己チュー主義でいこう!
・顧客に迎合しないで、顧客を導く信念を持て!
刺激的なビジネス書を読みたい方に、うってつけの清涼剤です。
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