日本人が気づいていない
ちょっとヘンな日本語
デイビッド・セイン、長尾昭子 著 アスコム 刊
1,050円 (税込)
著者の一人であるデイビッド・セイン氏は、アメリカ人の英語教師。来日して30年近く経つので日本語ペラペラの、いわゆる「日本通のガイジン」さんです。これまでに日本人の英語に関する本をたくさん書いていて、累計350万部というベストセラー作家でもあります。
本書はそんなセインさんが日ごろから感じている日本語の不思議について、外国人向けの日本語教師である長尾昭子さんと話し合いながら正解を求めていくスタイルの、肩の凝らない日本語の本です。巻頭カラーを含むオール2色刷りでA5サイズのワイド版ですが、お値段はとってもリーズナブル。出版社の意気込みが感じられます。
最初に出てくる日本語の不思議は、「結構です」はイエスかノーかという問題。「お茶いかがですか?」「結構です」の場合はノーなのに、「お茶でもどう?」「結構ですねえ」はイエス。「そんなの、ニンジャでなければ、わかりっこない!」とセインさんは音を上げます。
その次の問題は、「考えさせてください」が事実上のノーであるということ。「日本に来て日の浅い外国人だったら、考慮してくれると期待してしまう」とセインさんは言います。それに対して長尾さんは、「きっぱりと拒絶することで相手を傷つけることを心配する日本人のやさしさが原因」とフォローします。
そして例によって「コンビニ敬語」が槍玉に。コンビニで飲み物を買ったら「ストローは大丈夫ですか?」と言われた話から、コンビニ敬語がどこから来たかの起源を探っていきます。
外国人にとって不思議なのは、生き物ではないものが「来る」「いる」と表現されることだとセインさんは言います。「電話が来る」と聞くと、電話機に足が生えて歩いて来るイメージが浮かぶそうです。それに対して長尾さんの答えは、「話し手の位置に近づくものは、生物でも無生物でも『来る』が使える」というもの。また、「いる」に関しては、「自力で動けるものは『いる』、自力で動けないものは『ある』」と明解です。
また、「日本人は自分が悪くないのに『失礼します』とか『すみません』とか、謝ってばっかり」という意見に対しては、「相手のやすらぎの空間や時間を侵す可能性があることを認識して、あらかじめへりくだっている」のだと解説しています。このあたりは、日本人である我々もあまり考えずに言葉を使っている部分です。
日本人でさえ「めんどうくさい」と思ってしまう儀礼文に関しては、どんどんセインさんの突っ込みが入ってきます。「『よろしくお伝えください』と言われたら、何と伝言すればいいのか」「『よろしくお願いします』は何を頼まれたのか」といった答えにくい質問に、長尾さんがズバズバ回答していきます。
おもしろいのは、長尾さんが挙げる「外国人の惜しい日本語」の例です。「コップに熱い水を入れる」「花瓶の花が死んだ」「桜の花びらが落ちる」「今日は雨なので葬式日和ですね」「友人の結婚式で演説を頼まれました」「手に何かできたので、肌科のお医者さんに行ってきます」「おもしろい本を見つけたので、今度連れてきます」など、本当に「惜しい」例が続きます。
そして、読んでいて笑えなくなるのが「日本人にも多い日本語の誤用」。「『すべからく』は『すべて』ではない」に始まって、「けりをつける」「さわり」「しおどき」「号泣」「議論が煮詰まる」など、マスコミでも誤用されることの多い日本語表現が次々に出てきます。
デジタル時代ならではの誤用の一番は、「変換ミス」。「まっ茶色(抹茶色)」「台風一家(台風一過)」「ハロー注意報(波浪注意報)」「お食事券(汚職事件)」「カレー臭(加齢臭)」「不要家族(扶養家族)」など、うっかり通してしまいそうなミスが例示されます。
若者言葉のように、昔は間違いでも今はOKになっている日本語表現もたくさんあります。ただし厄介なのは境界線上の言葉。「全然OK」「夜ご飯」「普通においしい」「よく食べません」といった若者表現はどこまで許容されるのか。その線引きを長尾さんが示します。
日本語の英語的な表現については、セインさんが厳しくジャッジ。「NGがNo Goodの略なのは日本だけ」「GJがGood Jobとは英語圏の人には想像できない」「マイブームは英語ではありません」など、英語に関する著書同様にセインさんの辛口トークが飛び出します。
各章のうしろには、日本語クイズが付いています。ちょっと引用してみましょう。
◎次の言葉の意味で正しいのはどちらでしょう。
憮然
A 失望してぼんやりとしている様子
B 腹を立てている様子
煮詰まる
A 議論や意見が出尽くして結論の出る状態になること
B 議論が行き詰まって結論の出せない状態になること
煮え湯を飲まされる
A 信頼していた者から裏切られる
B 敵からひどい目に遭わされる
うがった見方をする
A 物事の本質をとらえた見方をする
B 疑ってかかるような見方をする
答えはすべてA。全問正解でない人は、本書を買った方がいいかもしれませんね。豊富なマンガやイラストで、楽しみながら日本語の知識を深めることができる一冊です。
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