「ありがとう」があふれるお店の新米店長のノート
福島雄一郎 著 ディスカヴァー・トゥエンティワン 刊
1,365円 (税込)
本書は2009年に同じ出版社から刊行された『ぼくが教えてもらった「仕事で大切なこと」』を改題・再編集したものです。出版社は「おかしいなあ。いい本なのにどうして売れないんだろう」と本気で思ったとき、こういうことをやります。ですから、「前にも同じジャンルの本を買ったな」と思ったら、レジに行く前によく確かめる必要があります。目次の後や奥付の前に、その旨の表記があります。
この種の本はコンサルタントの手による自己啓発書が多いのですが、本書は現場の人による実体験をもとにして書かれています。うまく編集すれば、説得力のあるリアルな本になりますが、へたをすると素人臭いものになりかねません。その点、丁寧な編集で知られる出版社であるディスカヴァーは、いい仕事をしました。
前にも紹介しましたが、ディスカヴァー・トゥエンティワンは取次を通さない直接取引で書店に本を置いている出版社です。個々の書店に直に本を配送し、返品を引き上げる作業があるため、営業部門の負担が大きくなりますが、取次マージン(だいたい定価の10%)が抜けるため、それを販促費にあてることが可能になります。
インターネットが普及するまでは、この方式で全国をカバーするのは容易ではありませんでしたが、アマゾンで買う読者にとっては何の問題もありません。アマゾンが勢力を伸ばすにつれて、出版社のありかたも変わってきているという実例の一つです。創業社長の干場弓子氏はTwitterでの発言が多く、フォロワーが2万5000人ほどいます。出版社の社長としては、最多ではないでしょうか。https://twitter.com/hoshibay
さて、本書の紹介ですが、まずは著者の経歴を見てみましょう。カバーの袖には次のように書かれています。
1978年1月27日、広島生まれ。18才のとき自転車で日本を一周し、『自転車日本一周旅の日記』を自費出版。その後営業や配送の仕事を経て、22才で脱サラ。飲食店を始めるも失敗し、経営の難しさを知る。2000年、大手通信会社に派遣社員として入社。ドコモショップ配属となり、厳しい指導者のもと現場のスタッフ経験を積み、派遣社員から2年という異例のスピードで店長昇進。これまで7つの店舗を任され、いずれも大幅な業績向上を実現。仕事を通じて「働く意味」を考えるマネジメントを自ら実践しながら、現在も現役ドコモショップ店長として、某地方都市の現場で活躍をしている。詳しくはWEBで「現役ドコモショップ店長」と検索。
著者は本書の特徴を、「まえがき」で次のように表現しています。
…この本は、どこにでもあるような街の携帯電話ショップで、私がこれまで経験してきたエピソードを紹介しながら「仕事の意味」について考える、ちょっと変わったビジネス書です。…店長の厳しいアドバイスや、ときに同僚や部下のなにげないひとことから、「何のために働くのか」ということについて、たくさんの気づきがありました。そして、その「気づき」をたくさんの人に分かち合いたい! そんな気持ちが、本書を執筆する動機となりました。
本書は3章で構成されています。第1章は「働くって何?」、第2章は「教えるって何?」そして第3章は「理想の職場って?」。巻末には付録として「新米店長のノート」がついています。これは文中に挿入されている34本のコラムをまとめたものです。
それぞれのコラムは、その前に書かれていた本文を受けていますから、この「新米店長のノート」をさらっと眺めれば、本書の内容が概観できます。
【新米店長のノート1】あなたは部下に、コミュニケーションという水を与えていますか?
・挨拶ひとつでも、目と目を合わせて行えば立派なコミュニケーション。毎日欠かさず、習慣化しよう。
・生産性を上げる唯一の方法は、社員のやる気を高めること。
【新米店長のノート2】あなたは「自分ができていればいい」と思っていませんか?
・競争よりも、助け合いにより共に成果を出す方が100倍価値がある。
・その成功体験は自分だけで得たものではない。すべては周りの手柄でよい。
【新米店長のノート4】あなたの言ったこと・やったことは周囲に良い影響を与えていますか?
・人の話を聞くときは、耳でなく心で聞く。人と話をするときは、口でなく心で話す。
・「情熱」と「冷静」を兼ね備えた人に、人はついていく。
【新米店長のノート8】「職場を良くしたい」という視点で、不満を提案に変えていますか?
・仕事で不要なことは、愚痴・泣き言・言い訳。
・新しいことを始めるには、不要なことをやめること。
・良いアイディアは、清い心から生まれる。
【新米店長のノート12】あなたはスタッフに「考えながら仕事をする」場を与えていますか?
・個を高めるとは、自分で意思決定できる人を育てること。
・意思決定できる人とは、自分で考え、行動できることのこと。
【新米店長のノート16】スタッフがやりがいを感じる業務を与えていますか?
・無謀だからこそ、仕事は面白い。
・任せることで、チームとしての結果を出せる。
・存在価値が上がれば、評価も上がる。価値が変わらなければ評価はできない。
本書の最後の項目は「今日もありがとう」というタイトルです。
…私も、「自分のまわりには、気がつかないところで自分の仕事を支えてくれる仲間がいるんだ。一人で働いているわけじゃないんだな」と気づかされて、胸が熱くなりました。…そう思うと、同じ職場で働いている同僚や部下のことが、とても大切に感じられてきます。「今日も一日ありがとう」。このとき以来、私は仕事を終えて退社するスタッフに、そう声をかけてあげるようになりました。
平易な表現ながら、チームで働く接客業の奥深い機微に触れた本です。軽い気持ちで読み始めても、きっと何か一つは新しい気づきが得られるでしょう。
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