ワンクリック
ジェフ・ベゾス率いるAmazonの興隆
リチャード・ブラント 著 井口耕二 訳 日経BP社 刊
1,680円 (税込)
本書のタイトルである「ワンクリック」は、みなさんよくご存じのアマゾンが誇るビジネスモデル特許の通称名です。アマゾンと創業者ジェフ・ベゾスについて語る本のタイトルとして、これ以上ふさわしいものはないでしょう。
ワンクリックのほかに、アマゾンが開発した特徴的な技術として、レコメンデーション機能とアフィリエイトがよく知られています。顧客の好みを分析しておすすめ商品を表示するアマゾンのレコメンデーションは、世界最先端であるといわれており、現在もさらに磨きがかけられています。アフィリエイトはアマゾンが発明したものではありませんが、その普及に最も寄与したのはアマゾンです。
ところが、世界最大のネットショップについて知られているのはそれくらいで、創業者のジェフ・ベゾスについては、たとえばアップルのスティーブ・ジョブズやマイクロソフトのビル・ゲイツに比べると、驚くほど情報がありませんでした。その理由は、本人がマスコミに登場するのを避けていたからです。
本書の著者は、『ビジネスウィーク」などに寄稿してきたベテラン・ジャーナリストで、これまでにIT企業関連の著書を多く出しています。本書は、数多くのエピソードを読みやすく並べ、謎の多い創業者の半生を描き出したもので、おそらくアマゾンとジェフ・ベゾスに関する、現時点で最も読みやすいノンフィクションでしょう。
ジェフ・ベゾスは1964年に、父テッド・ヨルゲンセン、母ジャッキー・ヨルゲンセンの間に生まれました。当時の名前はジェフリー・ガイズ・ヨルゲンセンです。ベゾス姓になったのは、母親が亡命キューバ人と再婚したためで、彼は名前から連想されるヒスパニック系の人ではありません。
ベゾスの性格に大きな影響を与えたのは、母方の祖父です。この人はアメリカ原子力委員会の西部地区責任者を務めたエンジニアでしたが、引退してからは家業であった農場経営に戻りました。ベゾスは6歳から16歳までの夏休みを、この祖父の農園で過ごしています。「農場ではなんでも自分でやるしかない。とても自立心が養われる。祖父はでかいおんぽろのトラクターを買ってきて自分で修理した。われわれは車体からひと抱えもあるばかでかい歯車を下ろすのにクレーンを自作した」とベゾスは回想しています。
子どものころは考古学者になりたかったベゾスですが、プリンストン大学では電気工学とコンピュータ科学を専攻します。そして夏休みにはエクソンやIBMでプログラミングのアルバイトをして、頭角を現します。そのため卒業時にはインテルやAT&Tのベル研究所といった名門企業から勧誘されましたが、すでに将来の起業を決めていたベゾスはそれを断ります。そしてビジネスの勉強のためにニューヨークの投資会社に入社しました。
そこで金融システムのためのコンピュータ通信ネットワークの開発を担当したベゾスは、やがてD.E.ショーというヘッジファンドにスカウトされます。ここで上級副社長に抜擢されるとともに、コンピュータネットワークの開発責任者を任されます。今でこそコンピュータネットワークという言葉は当たり前に使われていますが、90年代初頭の時期にその開発責任者であったということは、ベゾスの人生で大きな意味を持ちます。
1994年にインターネットの商用利用が解禁され、最初のブラウザーである「モザイク」が登場しました。このとき、コンピュータネットワークは専用回線を介したものから、インターネットへとシフトしたわけです。ベゾスはその商機を見抜き、何を販売すべきかを考えました。「一物一価で手に取らずとも購入できるもの」を模索した結果、たどりついたのが書籍でした。
1994年7月、ベゾスは「オンラインで本を売る会社を始める」と宣言してD.E.ショーを退職します。そして作った会社は「カダブラ」という名でしたが不評で、のちに「アマゾン」へと社名を変えます。カダブラは、「アブラカダブラ」から取られた社名だったのですが、死体を意味する「カダバー」と音が似ていたために変更することとなったそうです。
1995年7月16日、アマゾンは正式サービスを開始します。そして1997年にはNASDAQに上場、初値は1株18ドルでしたが、翌年にはなんと105ドルに跳ね上がります。1999年にはユーザーが累計1000万人を突破し、ワンクリック特許も認められます。有名なバーンズ&ノーブルとの特許戦争もこの年に起きています。
そのあとは、みなさんもよくご存じの快進撃が続き、キンドルやPOD書籍といった新たな出版や、出版以外の品目への展開で、アマゾンは拡大を続けます。現在の登録顧客数は1億5200万人、従業員は5万1300人。アメリカ国外でも9カ国に展開し、ローカルでサイト運営をするまでになりました。最後に、目次を紹介しておきます。
第1章 ワンクリックではまだ不満
人間の介入は必要悪
出版社からの見返りも顧客情報も駆使するしたたかさ
使いやすさのためならなんでもする
特許論争に10年かける執念
第2章 生い立ち
キューバ系の養父に育てられる
生まれながらのオタクなアントレプレナー
新聞に取り上げられた初めての事業
高校時代からの宇宙へのあこがれ
第3章 就職
ウォールストリートでキャリアを積む
26歳でバンカース・トラスト最年少の副社長に就任
ベゾスは善意の火星人
第4章 ベゾス、インターネットを発見する
フローチャートで本販売を選び出す
オタクの「後悔最小化理論」
第5章 ガレージの4人組
シアトルを目指す
アマゾン・ドット・コムを立ち上げる
第6章 優れた書店の作り方
地球最大にして世界最小の書店
初めは信頼性が低く簡素なシステムから
チャンスと試行錯誤に満ちた立ち上げ
第7章 苦労の波
値引きとヤフー効果で注文殺到
リアル書店にはできない「カスタマーレビュー」
アソシエイトプログラムでネットを味方に
第8章 軍資金の調達
強気に徹して大量の資金を調達
上場後、1年で株価は10倍に
第9章 成長
ベゾスが集めた最高の人材
ブレーンストーミングは「ピザ2枚で足りる人数」で
推進力は巨大な倉庫
ウォルマートがいち早く気づいたアマゾンの将来性
第10章 書店とは誰のこと?
書籍、CD、DVDと事業拡大
米国の外にも飛び出す
オークションも、マーケットプレイスも
第11章 クラッシュ
株価90%下落の衝撃
大リストラ後の黒字化
第12章 ベゾス、キンドルに賭ける
元アップルの開発者が集まる謎のプロジェクト
ベゾスvs出版社
キンドルはタダになる?
第13章 アマゾンは書店を駆逐しつつあるのか?
低価格戦略に反発する出版業界
小さな書店はアマゾンと共存
第14章 おかしな笑い方をするクールな男
おふざけでクールなCEO
アマゾンカルト
第15章 では、ベゾスはどういうマネージャーなのだろうか
技術に明るいショーマン
第16章 頭をクラウドに突っ込んで
自由な実験場を用意する
アントレプレナーの夢の仕組み
4年越しのザッポス買収
第17章 一歩ずつ、果敢に
ベゾスの哲学で宇宙へ
ネットショップ運営者は、読んでないとまずいでしょうね。
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