1泊4980円のスーパーホテルがなぜ「顧客満足度」日本一になれたのか?
山本梁介 著 アスコム 刊
1,470円 (税込)
出張の多い人なら、「スーパーホテル」の名前は聞いたことがあるでしょう。1泊4980円という超低料金で、沖縄から北海道までに100軒以上のビジネスホテルを展開し、快進撃を続けているホテルチェーンです。
ただ安いだけのホテルは他にもあるのですが、ここのすごいところはサービスが高品質であること。その結果として「稼働率90%、リピート率70%」という驚異的な数字を残しています。本書はそんなホテルチェーンの創業者で現会長が著した、成功のためのノウハウ集です。
発行元であるアスコムは、数年前に一度倒産を経験しています。地獄を見た後、社員数を大幅に絞り、ビジネス書、健康書にフォーカスして「売れる本」を目指す編集に特化しています。ただ活字を並べて本を作るのではなく、読書の苦手な人にも読みやすいように重要箇所を太ゴシックにしたり、巻頭にビジュアル要素を駆使したまとめページを配したりしています。それが功を奏してか、『医者に殺されない47の心得』はベストセラー街道を突っ走り、もうすぐ100万部に届きそうな勢いです。
本書も巻頭にビジュアルページが設けられています。まずホテル外観の写真とともに、次のようなリード文が。
「サービス産業生産性協議会の顧客満足度指数調査でスーパーホテルは、2009年度、2010年度と2年連続でビジネスホテル部門で第1位。シティホテルを含めたすべてのホテルの中でも第1位、全業種でも12位と高い評価を得ました。」
続いてホテル内部の印象的な写真とあわせて、読者にに対する問いが投げかけられます。
(1)なぜ、低価格で高い顧客満足度を実現できたのか?
→答えは40ページ
(2)なぜ、リピート率70%、キャンセル待ちまでするお客さまがいるのか?
→答えは22ページ
(3)なぜ、徹底して「睡眠」にこだわるのか?
→答えは28ページ
(4)なぜ、「天然温泉」にこだわるのか?
→答えは49ページ
(5)なぜ、「自動チェックイン」「ノーキー・ノーチェックアウト」にしたのか?
→答えは40ページ
(6)なぜ、客室に電話がないのか?
→答えは40ページ
「気になる人は本を買ってください」と書くと、「ケチ!」と叱られそうなので、答えをバラしてしまいましょう。宿泊料金を安く設定しても利益を出すためには、固定費を抑え、稼働率を上げなくてはなりません。自動チェックインやノーキー・ノーチェックアウトは人件費および手間を削減するための知恵です。客室に電話がないのもそのためで、「ほとんどの人が困らないようなサービスは切り捨てる」という方針が貫かれています。
天然温泉にこだわるのは、お客さまに喜んでもらうとともに、客室の浴室を使わないでもらうためです。温泉大浴場に行ったお客さまは、部屋の浴室は使いませんから、水道代と燃料費が浮きます。顧客満足とコスト削減が両立するアイデアというわけです。
「睡眠」はスーパーホテルの一番のウリで、「ぐっすり眠れなければ、宿泊代は全額お返しします」という大胆な施策を実行しています。そのために、シングルルームでもアメリカンサイズのセミダブルベッドが用意され、予約時に硬さが選べるようになっています。枕は硬さやサイズ、素材の違うものを7種類、フロントに用意して選んでもらいます。
なぜスーパーホテルが「睡眠」にフォーカスしたかというと、お客さまのホテル滞在時間のうち、70~80%が睡眠時間だからです。だから、他の時間は犠牲にしても、睡眠の質を提供できれば競争に勝てると考えたわけです。
すごいのは睡眠の質に対するこだわりで、大阪府立大学健康科学研究所に協力を依頼して「ぐっすり研究所」を設立したほどです。お客さまにぐっすり眠ってもらうために、ベッドや枕だけではなく、あらゆる部分を見直しました。たとえば防音に関しては、部屋のドアや壁を防音構造にしたことで、室内は40デシベル以下という図書館並みの静けさを実現。冷蔵庫もほとんど音のしないものを採用しています。
物理的な障害を排除するだけでなく、心理面でもぐっすり眠れるような施策が用意されています。ホテルの玄関は0時でロックされ、暗証番号を知らされているお客さま以外は出入りできなくなります。客室には空気清浄機が設置されていて、天井には調湿・消臭効果のある珪藻土が使用されているので、変な匂いが気になることもありません。
こうした徹底的なこだわりが評価され、「家にいるよりよく眠れる」「1泊のつもりだったが連泊したくなった」というお客さまの声が上がるようになりました。それが70%のリピート率、90%の稼働率につながっているわけです。ちなみに、「ぐっすり眠れなければ、宿泊代は全額お返しします」というキャンペーンですが、当初こそ月額200万円ほどの返金が発生したものの、最近では月額20万円ほど。売上に対する比率は0.00013%に過ぎないといいます。
もちろん、スーパーホテルの人気の秘密は、こうしたハード面だけではありません。むしろ、ソフト面にこそ顧客満足度日本一の要素があるはずです。本書は2つの章で「顧客満足度を高めるための従業員教育」についてくわしく解説しています。
お客さまにいつも満足してもらえるサービスは、マニュアルからは生まれません。著者はこれについて、以下のように記しています。
「大切なことはお客さま一人ひとりが何を求めているかを感じとり、どうすればお客さまが喜んでいただけるかを考える『心の装置』、またそれを『実行するスキル』を従業員が自分のなかに生み出すことです」
スーパーホテルに到着すると、フロントから「お帰りなさい」という挨拶が投げかけられます。これは天王寺店の支配人が考え出したもので、すぐにスーパーホテル全店で使われるようになりました。いまでは同業他社にも浸透しているそうです。なぜ「お帰りなさい」なのか、またどうやってすみやかに全店に浸透させたのか。そのあたりはぜひ本書でご確認ください。
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