オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

思わず話したくなる ロゴの秘密

高橋書店編集部 編 高橋書店 刊

1,260円 (税込)

本書を手に取ったとき、思わず心の中で「この本は買いだ!」と叫んでしまいました。版元である高橋書店は文京区にある出版社ですが、出版物だけでなく手帳と家計簿、カレンダーのメーカーとしてもよく知られています。そのせいかどうかわかりませんが、本書は著者を立てずに編集部内で非常にていねいに作られています。

まず表紙カバーですが、うっすらと掲載企業のロゴが見えていますね。これは半調でカラー印刷したわけではなく、カラーの表紙にモノクロ印刷したトレーシングペーパーのカバーがかかっているのです。カバーを外して表紙だけにしてみると、とても鮮やかな目を奪うデザインです。

本の大きさはA5判(148mm×210mm)。通常のビジネス書が採用する四六判(128mm×188mm)よりもひと回り大きいサイズです。そしてなんと、全ページフルカラー印刷! それでいて定価は1260円(税込)という安さで、大胆な価格設定と言えます。この説明だけでは不足の人は、出版社のサイトを見てください。ページ見本と目次が掲載されています。
http://www.takahashishoten.co.jp/book/978-4-471-19122-1.html

本書の構成はじつにシンプルで、日本でよく知られている有名企業90社を選び、そのロゴマークの解説と、会社の来歴、時代を彩った主要製品などを見開き2ページにまとめています。随所に「POINT」と表示された小さな丸囲みの註釈があり、必要な情報がコンパクトに掲載されています。

そのほか、各企業カテゴリーの末尾には「ひとくちコラム」があり、ロゴにまつわる興味深い情報が提供されます。たとえば「なぜ最近のロゴは大文字から小文字に変化しているのか」という問題については、「ものがなかなか売れない時代になり、顧客との関係性を構築するために、親近感が得られる小文字を採用するケースが増えている」と書かれています。

興味深いのは、やはり歴史のある企業の過去のロゴマークたちです。「へえ、こんなマークだったのか」と感心したり、「あ、懐かしい!」と思わず歓声を上げてしまったり。ひとりで読むだけでなく、数人で一緒に眺めても楽しい本です。

本書の巻頭には、「ロゴの秘密」「ロゴの変化」「ロゴの基本」とそれぞれタイトルがつけられたコラム集があります。まずここから読み始めて企業ロゴへの興味をかき立て、それから一気に読み進めるか、知っている企業のページを拾い読みするかしていくといいでしょう。

それでは、本書の各カテゴリーから1社ずつ選んでご紹介していきましょう。最初のカテゴリーは「機械」です。そして通し番号01番のトップバッターは「キヤノン」。内側にはねた「C」が印象的な現在のロゴマークは、半世紀以上前の1956年に完成しました。キヤノンレッドと呼ばれる独自の赤色に決まったのは、1974年のこと。創業当時の「千手観音像」と比べると、その洗練ぶりにあらためて感心させられます。

次のカテゴリー「生活」からは、花王を見てみましょう。1890年に最初の製品である「花王石鹸」を世に出したときから、花王のマークは月でした。さまざまなデザインの変遷を経て、現在の月のイラストになったのが1953年。そしてグローバル企業を目指すために2009年にロゴの文字が「花王」から「kao」に変わりました。ちなみに花王石鹸というネーミングは、洗顔石鹸を意味する「顔石鹸」から来たものだそうです。

3番目のカテゴリー「食品」では、キユーピーを見てみましょう。この会社の社名は、キヤノンや文化シヤッターと同じく、拗音が捨て仮名でなく大文字で表記されます。それは登記上の理由ではなく、ロゴデザインのバランスから。といっても、1950年代までは商品には欧文ロゴがつけられていました。

「外食/流通」カテゴリーからは、創業時から変わらないマークを使い続けている髙島屋をとりあげてみます。「○にハシゴ高」という髙島屋のマークは、1831年の創業当時からのもの。「髙」という異体字は今日でこそパソコンで表示できますが、以前は画像として処理するしかありませんでした。本書にはロゴの変遷ではなく、バラの包装紙のデザインバリエーションが掲載されています。

「レジャー/エンタテインメント」では美津濃のロゴの変遷が賑やかです。1906年の創業時は井桁に「日」のマーク。1910年は漢字の「美津濃」、1923年は井桁マークをデザイン的に加工したもの、1952年は欧文、1957年は再び漢字、1969年にまた欧文となり、2006年に現在の鳥のマークと欧文ロゴを組み合わせたものになりました。

「通信/IT/金融」のカテゴリーで異彩を放つのは、ソフトバンクです。あの欧文ロゴの横に添えられた2本の水平なグレーの線。あれが坂本龍馬の海援隊の旗だということをご存じの方は、どれくらいおられるでしょうか。本書には証拠として海援隊旗の写真が掲載されています。実物は赤とグレーでしたが、それをグレーのみにしたのが現在のソフトバンクのロゴマークなのです。

「運輸/建設/不動産」のカテゴリーからは、全日本空輸を選びました。1952年の創業時に使われたレオナルド・ダ・ヴィンチのヘリコプターをモチーフに、日の丸のイメージで赤と白と黒で描かれたかつてのマークは、今でも目に浮かぶ人がたくさんいるのではないでしょうか。現在のロゴはトリトンブルーを基調にした「ANA」の文字ですが、シンプルで力強いと好評のようです。

最後のカテゴリー「エネルギー/素材」ではブリヂストンがよい例と思います。欧文ロゴは少しずつ変化しながら洗練されていき、シンボルマークは創業当時から維持してきたキーストンマークを1984年に赤と黒の「B」に思いきって変更。現在のロゴマークは2011年に小変更のうえで策定されたものです。

90社の経営者や社員たちの「思い」や「夢」、「希望」などがページから浮かび上がってくるような、読んで参考になり、見て楽しい好著です。


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