オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

G-SHOCKをつくった男のシンプルなルール

伊部菊雄 著 東洋経済新報社 刊

1,575円 (税込)

G-SHOCKが何であるかご存じない人はほとんどいないと思いますが、念のためにまとめておきます。G-SHOCKとはカシオ計算機が開発・販売している腕時計のブランドで、「G-ショック」と表記されることもあります。1983年に最初の製品であるDW-5000が発売され、現在までに3000以上のモデルが生まれています。

G-SHOCKの最大の特徴は、それまでの腕時計の常識を越えた堅牢性にあります。開発メンバーの1人で設計を担当した著者は、高校の入学祝いでもらった腕時計を落として壊してしまったことから、落としても壊れない腕時計を作ろうと思い立ちます。それまで「精密機械は落とせば壊れるもの」というのは常識でしたが、せっかくもらった時計が壊れてしまったショックから、その常識を打ち破る発明が生まれたわけです。

G-SHOCKの研究開発は1981年に始まりました。その研究開発の目標は「トリプル10」。落下強度10m、防水性能10m、電池寿命10年と3つの「10」を並べました。そして最初の製品以来、すべてのG-SHOCKがこの性能をクリアしています。

G-SHOCKは世界ブランドに成長しましたが、そのきっかけは「アイスホッケーのパックの代わりに使っても壊れない」というアメリカにおける広告コピーが「誇大広告ではないか」と批判されたことです。テレビ番組の中でプロのアイスホッケー選手が実際にG-SHOCKをスティックで叩いてシュートすることになり、壊れないことが証明されてから、アメリカで人気に火がつきました。

さらに、軍人たちから「コンバットカシオ」の愛称で親しまれたことも人気に拍車をかけました。米国海軍特殊部隊のネイビー・シールズに採用されたほか、世界の特殊部隊の多くでG-SHOCKが使用されているそうです。軍関係以外でも、パイロットや警察特殊部隊で使用され、国際宇宙ステーションISSの宇宙飛行士にも愛用者がいました。

その後、G-SHOCKは多くのモデルに分化していきました。電波時計モデルや太陽電池内蔵モデル、さらに過酷な状況に耐えるモデル、ファッション性を重視した女性向けモデル、価格が50万円を超える限定モデルなどです。女性向けモデルの「Baby-G」は、これまた大ヒット商品になり、G-SHOCKの裾野を大きく広げることに貢献しています。

ところで本書は、そうしたG-SHOCKの「開発秘話」では終わっていません。タイトルを見ればわかるように、G-SHOCKを開発した1人の人間が体験してきた「仕事のやり方」を、広く読者に公開しようというのが本書の目的です。G-SHOCK開発のエピソードは盛り込まれていますが、そこから一歩進んで、読者の仕事に役立つ内容にしようと工夫されているのです。

著者はG-SHOCKの構造開発に携わった後、商品企画部に異動になります。それまで、著者は「あがり症」で、話がヘタであることが幼少期からのコンプレックスでした。しかし商品企画部では、自分が考えた商品企画を人前でプレゼンすることが仕事です。そのために、著者は「どうしたら、自分の考えをうまく人に伝えることができるのか」「どうしたら、うまくプレゼンができるのか」を真剣に考えるようになりました。

日々の模索の中で、著者は次第に答えを得ていきます。そしてある日、「仕事とはコミュニケーションそのものである」という事実に気がつきました。そこから考えを進めていくうちに、コミュニケーションが次の3つに集約されることもわかってきました。その3つとは、「まとめる」「ととのえる」「伝える」です。

「まとめる」とは、自分が言いたいことが何なのかをコンパクトに凝縮することです。これができていないと、コミュニケーションが散漫になってしまいます。
「ととのえる」とは、自分の言いたいことを相手にわかりやすいように編集、加工することです。これができていないと、いくら力説してもエネルギーの無駄遣いになってしまいます。
「伝える」とは、相手の興味を惹きつけながら、自分の言いたいことを手渡していく作業です。前の2つが完璧でも、これがおろそかだとコミュニケーションはうまくいきません。

設計部門にいたころの著者は、コミュニケーション能力の不足を実感することはありませんでした。なぜなら、設計の世界には「図面」という共通言語があるからです。ところが商品企画部では「言葉」で言いたいことを伝えなければなりません。そこでは「伝える」という作業が仕事の要になっていました。

著者はプレゼンの上手な人の話を真剣に聞き、どこが自分と違うのかを分析します。その結果わかったのは、プレゼンの上手な人は伝えたいことをたった1つに絞り込み、その1つをあらゆる手を尽くしてていねいに相手に伝えているということでした。伝えたいことを1つに絞ることを、著者は「まとめる」と呼んでいます。

そして大切なのは「伝える目的」であると著者は言います。ビジネス上の話には、「報告」「情報伝達」「提案」の3つがあり、逆に言うとそれ以外の要素は存在しません。自分が1つに絞った「伝えたいこと」がこの3つのどれかであるかを正確に認識することが、うまく伝えるポイントの1つです。

3つのどれであるかによって、チェックすべき要素が変わります。
「報告」であれば、OK、NGの結果と次のアクションが明確になっているかどうか。
「情報伝達」であれば、ただの伝達なのか、対策が必要なのかが明確になっているかどうか。
「提案」であれば、一言でアイデアの魅力を伝える言葉になっているかどうか。

「提案」の例として、著者は自分たちがかつてG-SHOCKのアイデアを企画書にまとめたときのエピソードを披露しています。その企画書のテーマ欄には、「落としても壊れない丈夫な時計」というただ1行の言葉が書かれているだけでした。構造案も実験スケジュール案もなく、常識的には不完全な企画書でしたが、会社はその企画書にOKを出したそうです。それほど、この言葉に魅力があったということでしょう。

本書の巻末には「G-SHOCK開発物語」というストーリーが18ページにわたって掲載されています。G-SHOCKのファンなら、ここを最初に読んでから本書に取り組むと理解が早いかもしれません。

「仕事のやり方」でヒントを得たいと思っている人にうってつけの1冊です。


Copyright (C) 2004-2006 OCHANOKO-NET All Rights Reserved.