オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

40歳からの人生を変える
心の荷物を手放す技術

名越康文 藤井誠二 著 牧野出版 刊

1,575円 (税込)

本書は精神科医・名越氏と、ノンフィクションライター・藤井氏の共著ですが、精神科医の専門知識をプロのライターが読みやすくしたという、ありがちな共同作品ではありません。なぜなら、藤井氏自身がパニック障害の患者で、名越氏はその主治医だったからです。

2008年に原因不明の発作に襲われた藤井氏は、それがパニック障害であることを突き止めます。「飛行機や電車で過呼吸発作におそわれるのは、パニック障害の典型的な症状だ。それも『死』の予感をともないながら。また発作が起きたらどうしようという『予期不安』。そして『この状態や場所からしばらく動けないから、助けを求めることができない』という乗り物や閉鎖的空間への『広場恐怖症』からそれは引きおこされる。思えば、デカい発作は2度とも新幹線の駅だった」

パニック障害とは、ある日突然、めまい、心悸亢進、呼吸困難といった自律神経の嵐のような症状とともに激しい不安が発作的に起こる病気です。医師の診断を受けても身体的に異常は発見されず、他の病気と間違えられることが多いそうです。その原因は、脳内不安物質の伝達異常などとされていますが、根本的な原因は特定されていません。

そこで藤井氏は、自分の心と正面から向き合ってみることを決意します。「自分の中にもぐるためにはツールが必要だ。たとえばそれは書物であったり、映画であったりするわけだが、最適なのは自分の姿がうつるような人物と言葉を交わすことだろうと思う。ぼくにとってはそれが名越さんとの対話だった」

そういう意味では、本書は藤井氏が名越氏に受けたカウンセリングの記録でもあるわけです。名越氏はその点をこう書いています。「本書はぼくの友人のノンフィクションライター・藤井誠二氏が45歳の時にパニック障害という精神疾患を経験し、ぼくが彼の治療に関わっていく中で、不安や焦燥感、孤独感といった、中年男性の心の葛藤について対話を重ねていくうちに生まれた企画です」

本書は、藤井氏が当事者として経験した問題を提示し、名越氏が臨床的な知見から実践的なアイディアを提案していくという、対話形式で展開していきます。藤井氏の「経験と実感」と、名越氏の「確信と見解」を突き合わせることにより、私たちが持つ不安や絶望感の正体を突き止めて解きほぐすことを目的としています。

毎日をそれなりに生きていても、「どこか違うな」という漠然とした不安にさいなまれている人はたくさんいます。だからこそ、書店の自己啓発書コーナーに多くの本が並んでいるわけですが、それらの本をすべて読破してみたところで、本質的な解決にたどり着く人は多くはありません。

名越氏はこう言います。「人生がプラスに転じるためには、不安や怒りを手放して、『心が晴れ晴れとした状態』になっていることが前提条件です。これは、ほとんどのビジネス書や自己啓発書には書かれていないことですが、ぼくが26年以上精神科医をやってきて、強く実感していることなのです」

ではどうすれば心を晴れ晴れとした状態に保てるのか。名越氏はその条件を「自分の人生に実感と自信を持つこと」だと指摘しています。自分の人生を生きているのは、どこのだれでもない、ほかならぬ自分自身であるということをしっかり認識することが、漠然とした不安から抜け出すための近道なのだということです。

それができたら、次は瞬間瞬間で心の荷物を手放し、心をプラスに持っていくメソッドを実践していきます。その方法論を、とくに中高年の男性に向けてレクチャーしたのが本書なのです。構成は、次のようになっています。

序章 今までのやりかたじゃ、マズい?
第1章 心身の「変化」に気づく
・自分への思い込みを手放す
・毎日、自分の心をモニタリングする
・体力の衰えを受け入れる
・無自覚に受けるストレスを自覚する
第2章 閉ざしていた「感覚」をひらく
・世界観をアップデートしていく
・毎日「ピンと来る」感覚を大切にする
第3章 「孤独」を手放す
・アイデンティティを「分散」させる
・相談上手になろう
・善友と付き合う
・「居場所」を増やす
・リスペクトする力を磨く
第4章 人生の「軸」を再発見する
・人生に対する実感を持つ
・自分のルーツを確認する
・いのちの循環を肯定する

各章の最後には、見開きページの「To Do List」がついています。たとえば第3章の「To Do List」はこんな感じです。
・SNSに振り回されない。ときには見ない日をつくる
・イヤなヤツがいたら「一時敵対しているだけだ」と考える
・どんな相手にもリスペクトを忘れない
・「話したい!」という衝動を解放しよう
・目的論的な会話から離れて、無駄話を楽しんでみる
・悩みや問題は、抱え込まずに話す
・最初の相談相手を見極める
・相手の「精神=主義主張」ではなく「心」と付き合う
・善友と付き合い、相手の善友になる
・趣味のコミュニティに参加してみる

中高年男性の自殺者は年間3万人を超え、もはや社会問題化しています。その背景には、孤独感や弱みを見せることへの恐怖心など、本書で取り扱われているテーマが大きなウエイトを占めているといわれます。交通事故死の3倍にも達する自殺者を1人でも減らすために、本書は広く読まれるべきでしょう。


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