オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

雑談力が上がる話し方
30秒でうちとける会話のルール

齋藤 孝 著 ダイヤモンド社 刊

1500円 (税込)

「この本はいくらだろう?」と、ひっくり返して裏表紙を見ると「定価(本体1429円+税)」との表記。これですぐに「ああ、税込み1500円か」とピンと来る人は、出版界で値付けに慣れているか、暗算の達人のどちらかでしょう。

書籍や雑誌などの出版物は、再販制度で定価販売が許されている商品ですが、価格の表記は書籍と雑誌とで異なります。書籍は前述のように本体価格が表記され、「+税」として定価表示をしていますが、雑誌は「定価:1500円(本体1429円)」という定価表示です。(実際の本体価格は丸括弧ではなく□囲み)

なぜ書籍と雑誌とで定価表示が異なるのか。それは書籍が息の長い販売をおこなう商品だからです。雑誌は一定の販売期間が過ぎると必ず返品されますが、書籍は新刊委託期間が過ぎても、常備在庫や再搬入、あるいは注文取り置きの形で書店の棚に長く置かれることがあります。また、出版社や取次店が「まだ売れる」と判断した本は、倉庫に在庫させられます。その間に消費税率が変わっても、書店が混乱しないように、外税表記になっているわけです。

ただし、書店がレジで販売時に引き抜いてしまう「短冊」と呼ばれる伝票がありますが、あそこには税込み価格が表示されています。ですから、来年春に消費税が上がると、出版社は在庫しているすべての本の短冊を差し替えるという大作業をしなければなりません。雑誌のバックナンバーには、シールが貼られることでしょう。

さて、前置きが長引きました。本書は出版界において知らない者のない大ヒットメーカー、明治大学の齋藤 孝教授による「コミュニケーションの基礎力を高める本」です。「雑談力」というと暇つぶしの会話術みたいに思えるかもしれませんが、そうではありません。音楽でいえばイントロ、料理でいえば前菜、火薬でいえば導火線にあたるのが雑談力なのです。どんなに爆発力の大きな火薬でも、導火線がなければうまく爆発させられません。それと同様に、人と人とのコミュニケーションを円滑に進め、メインテーマのディスカッションをやりやすくするのが雑談力ということです。

著者の齋藤 孝氏は、明治大学文学部教授で教育学者です。たくさんの著書がありますが、中でも『声に出して読みたい日本語』は代表作といわれ、250万部を超える大ベストセラーとなっています。「古典に学べ」という教養主義者でもあり、テレビの教育番組制作に関わったり、ラジオの人生相談に回答者として出演したりと、各方面で大活躍中です。

本書の発刊は2010年と少し古いのですが、2013年7月には20刷を記録しています。この著者なら初版部数は1万部を超えるでしょうから、累計部数は軽く10万部を突破していると推測できます。これは、ふつうの著者であれば「ベストセラー!」と大喜びしている部数です。ちなみに、印税率10%で1500円の本が10万部だと、著者の収入は1500万円になります。参考までに申し上げると、『声に出して~』の印税は、単純計算で3億円です。

ロングセラー書らしく、本の帯は出版社の企画「私が薦めるこの1冊」のものに取り替えられています。そこには営業部・山本修一郎氏の言葉が載っています。引用してみましょう。 「英会話には何万円もお金をかけるのに、なぜ日頃の会話を磨かない? あなたを引き立たせるのは雑談力。すぐ身に付いて一生モノ。読めば誰かと話したくなる!」

本書の「はじめに」で、著者は雑談の効用を述べています。
・「沈黙は怖いが、雑談は苦手」という現代人が増えている
・多くの人は雑談のことを誤解している
・話し上手と雑談上手は違う
・必要なのは会話力ではなくコミュニケーション力
・「中身のない雑談は時間のムダ」ではない
・30秒の雑談でその人のすべてが見破られる
・雑談力があれば人間関係も仕事も一気に開ける

第1章は「トークや会話術とは違う、雑談の5つのルール」です。その5つとは、以下になります。
(1)雑談は「中身がない」ことに意味がある
(2)雑談は「あいさつ+α」でできている
(3)雑談に「結論」はいらない
(4)雑談は、サクッと切り上げるもの
(5)訓練すれば誰でもうまくなる

第2章は「これで気まずくならない!雑談の基本マナー」です。たくさんあるので、抜粋してご紹介します。
・目の前の相手の、「見えているところ」をほめる
・「いや」「しかし」はNG。まずは肯定・同意から
・口下手でもできる、相手の話に「質問」で切り返す術
・雑談のベストバランスは、相手8対自分2
・「で、何の話をしてたんだっけ?」が理想形
・机にコーヒーカップがあるだけで、一気に話しやすくなる
・一問一答は拒絶と同じ。「一問二答以上」が返しのルール
・悪口は、笑い話か芸能ネタにすり替える

第3章は「すぐにできる、雑談の鍛え方&ネタの仕入れ方」です。
・相手との「共通点=具体的なフック」をひとつ見つける
・今が旬のリアルタイムな話題は、仕入れたらすぐに使う
・日々の疑問は、そのまま雑談ネタになる
・「誰々が言ってた話」も、有効なネタになる
・タクシーは雑談ネタの仕入れと練習ができる、最高の場所

第4章は「ビジネスに使える雑談力」です。このあたりは実利に直結するので、みなさん興味があるのではありませんか?
・面接の雑談で、柔軟性と切り替え力が試される
・ニュートラルな人は雑談がうまい
・組織での評価も人望も、つまるところムダ話ができるかどうか
・企画会議は飲み会のように、飲み会は企画会議のように
・「私語禁止」より「ながら雑談」
・社長の仕事は雑談と決断

第5章は「人、マンガ、テレビ。あらゆる達人からテクを学ぼう」です。
・「課長バカ一代」に学ぶ、バカ話の心地よいテンポ
・大阪人に学ぶ、リアクション雑談術
・落語に学ぶ、つかみと本題の切り換えテク
・イチローのヒットを支える、グリフィーのくすぐり

最後の第6章は「雑談力は雑草力。厳しい時代を『生きる力』そのもの」です。
・雑談で、つながりを確認する
・私たちの中にある、「甘え上手」を取り戻す
・人は誰もが、本当は話したがり屋
・大人は若者のムダ話を聞きたがっている
・知らぬ間に私たちは、雑談に影響されている
・集中力を高めるために、あえて雑談タイムを入れる
・雑談でデトックス、雑談でガス抜き

「おわりに」で、著者はこう締めくくっています。
「雑談力、それは雑草の持つ生命力のようなものです。…コミュニケーションのもっとも土台となるのが日常の他愛のない会話であり、日々の何気ない雑談なのです。…雑談力は生命力でもあるんですね。そして、少しだけカッコよく言えば、雑談は人生のすべてです」

雑談が生きる力そのものであることに気づかせてくれる好著です。


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