5年後、メディアは稼げるか
佐々木紀彦 著 東洋経済新報社 刊
1260円 (税込)
サブタイトルは「Monetize or Die ?(マネタイズか死か?)」という刺激的な言葉です。そもそも本書のタイトルは、日本のメディアが暗黙のうちにタブーにしていた「稼ぐ」という言葉が入っていて、それだけでもマスコミに近い人たちは興味を覚えるはずです。
日本の新聞、テレビ、出版などの人たちは、大手に所属する人ほど「お金」のことを話題から遠ざけていました。「自分たちの稼ぎについて語るのは下世話なことであり、できれば避けて通りたい」という気持ちがあったのだと思われます。
しかし、情報革命でマスメディアが過去の繁栄を謳歌し続けることがむずかしくなると、そんなことは言っていられなくなりました。新聞、テレビ、出版がそろって右肩下がりのマイナス成長となり、高給取りがうようよいた業界に寒風が吹いています。
しかし、「ではどうするのか?」という問いに正面から答える企業はまだありません。すでにアメリカのメディアは血みどろの生存競争を繰り広げていますが、大胆な試行錯誤が繰り返されている割には、いまだに「正解」と思われる解決策が出ていません。「新しい時代に対応しながら、今までと同様に稼ぐ」というのは、並大抵なことではないのです。
本書は、「東洋経済オンライン」編集長の著者が「メディアの今後」について考察したものです。ご存じない方のために付記しておくと、著者が現職に就いて「東洋経済オンライン」をリニューアルしてから4カ月で、同サイトは月間5301万ページビューを記録、「ビジネス誌系サイトNO.1」の称号を獲得しました。それとともに著者は「ネットメディアの時の人」として注目されています。
本書の内容をご紹介するには、カバーにちりばめられたコピーを列挙するのが手っ取り早いでしょう。
・8~9割のメディア人はデフレに
・テクノロジー音痴のメディア人は二流
・日経以外の一般紙はウェブで全滅する
・有料課金できるメディアの条件
・起業家ジャーナリストの時代がくる
・最後のガラパゴス業界が激変する
・欧米メディアの"血みどろ"の戦い
・これからはコンテンツとデータが王様
・5年でデジタルは端役から主役に
・一番偉いのは、新しい"稼ぎ"を創る人
・新時代のカギを握るのは、30代
・"のっぺらぼうメディア"の終わり
・ウェブと紙の6つの違い
・紙の本はそのまま残る?
・雑誌が紙である必要はあるか?
・次世代ジャーナリストの10の生き方
・記者は没落、編集者は引く手あまた
・ウェブメディアの8つの稼ぎ方
・どうすればネット広告は儲かるか?
・サラリーマン記者・編集者の終わり
著者は「今後5年、メディア業界は100年に一度といってもいい激震を経験する」と予言しています。「100年に一度」ということは、大正の初めから現在までに経験したこともない大変化がやってくるわけです。
日本のメディア業界は体質が古く、「最後のガラパゴス業界」と呼ぶ人もいます。古い制度を数多く抱えていて、自己矛盾が限界に達しています。そういう古い世界が、グーグル、フェイスブック、アップル、アマゾン、ツイッターといった世界最先端の新しくてダイナミックな企業と戦うことを余儀なくされている……それが今後5年のメディア業界の運命です。
著者はこう警告しています。「一刻も早くウェブ時代の新しい『稼ぎ方』を見出さないと、日本のメディア業界は"焼け野原"になる」。それを裏付けるのがアメリカのメディア業界で、ウェブの大波に襲われた結果、過去12年で雇用者数が3割減ったそうです。
著者は本書の序章で「メディア世界で起きる7つの大変化」を予測します。
(1)紙が主役→デジタルが主役
(2)文系人材の独壇場→理系人材も参入
(3)コンテンツが王様→コンテンツとデータが王様
(4)個人より会社→会社より個人
(5)平等主義+年功序列→競争主義+待遇はバラバラ
(6)書き手はジャーナリストのみ→読者も企業もみなが筆者
(7)編集とビジネスの分離→編集とビジネスの融合
第1章では「ウェブメディアをやってみて痛感したこと」というタイトルで、「東洋経済オンライン」躍進の秘密を分析しています。ちょっと抜き書きしてみましょう。
・紙の編集部とネットメディアを切り離した
・ウェブオリジナルの記事を大拡充した
・読者ターゲットを紙やライバルサイトと異なる30代に設定
・スマホへの最適化を実施
・ヤフーニュースへの配信本数を10倍に
・速報よりもクオリティの高い第2報を
・紙よりも10倍、タイトルを重視
・理性よりも感情にアピールする記事作り
第2章は「米国製メディアは稼げているのか?」です。アメリカにおけるメディアの血みどろの戦いを紹介しながら、マネタイズにおけるダイナミックなトライ&エラーの事例を見せています。
第3章は「ウェブメディアでどう稼ぐか?」です。日米の新聞、雑誌の違いを見たあとで、日本の主要雑誌の部数変化をまとめています。驚くのは、主要雑誌の中でこの5年間に部数をアップしたのが、「週刊現代」と女性誌の「BAILA」だけだということです。雑誌の販売売上げと広告売上げを足した市場はこの5年で半減しており、著者は「雑誌の販売が浮上することは二度とない」と断言しています。
この章の中で、著者は現在知られているマネタイズの方法8つを紹介しています。
・広告
・有料課金
・イベント
・ゲーム
・物販
・データ販売
・教育
・マーケティング支援
第4章は「5年後に食えるメディア人、食えないメディア人」というタイトルで、これからのメディアで生き残っていくための条件を紹介しています。
・媒体を使い分ける力
・テクノロジーに関する造詣
・ビジネスに関する造詣
・万能性+最低3つの得意分野
・地域、国を越える力
・孤独に耐える力
・教養
「おわりに」で著者は福沢諭吉が創刊した「時事新報」について語っています。「時事新報」は政党の御用新聞ばかりだった1882年に生まれ、「不偏不党」を理念として部数を伸ばしました。このとき、福沢諭吉は大胆な新機軸を打ち出しています。
・広告収入の拡充
・イベントの充実
・コミュニティの形成
・海外報道の充実
・書き手の多様化
・コンテンツのエンタメ化
・デザインへの配慮
・テクノロジーへの先進性
・データ情報の充実
・コンテンツの二次利用
・ジャーナリズムの独立
つまり、福沢諭吉のようなイノベーターが、日本メディア界にとっての救世主になるわけです。そんな人材がどれだけ生まれるかで、日本のメディアの未来が決まります。
時代の変化に直面した産業がどう生まれ変わればいいかを教えてくれる1冊です。 |