なぜか評価されないあなたへ 心に刺さる耳の痛い話
小笹芳央 著 日経BP社 刊
1,470円 (税込)
手に取るとちょっと厚めで「300ページくらいあるのかな」と思いましたが、実際は232ページ。この手の本としては普通のボリュームです。厚く感じたのは用紙が「ラフ」と呼ばれる圧縮率の低いものだから。そのために、ややページがめくりにくい本になっているのが残念です。
気を取り直して本書を見ていきましょう。著者はリクルート人事部出身で、現在は人材コンサルティング会社であるリンク・アンドモチベーションの会長として活躍されている人です。既刊の著書は『「持ってる人」が持っている共通点』(幻冬舎新書)、『1日3分で人生が変わるセルフ・モチベーション』(PHPビジネス新書)など。
本書は2010年4月からビジネス雑誌である「日経ビジネスアソシエ」に「耳の痛い話」というタイトルで連載された記事をまとめたものです。仕事へのモチベーションを高めるための基本的な考え方や、ピンチへの向き合い方、仕事を上手に進めるノウハウ、対人スキルの向上法などが中心になっています。
著者は巻頭の「はじめに」で、次のように言っています。
--本書を手にしてくださったあなたに深く感謝申し上げます。そして、あなたのビジネスパーソンとしての今後の成長をお約束します。なぜ、そんなことが言えるのか。その理由は、あなたが「耳の痛い話」というタイトルの本書に向き合う“意欲”を持っているからです。--
たしかに、前向きではない人は、「耳の痛い話」という表現を見た瞬間に、引いてしまうでしょう。誰しも、できればイヤなことは聞きたくありませんから。にもかかわらず本書に手を伸ばすということは、その背景に「今の自分に満足していない」「もっと成長したい」という気持ちがあるからかもしれません。
著者によれば、最近は部下を叱れない上司が増えているそうです。多くの会社組織で個人主義や事なかれ主義が蔓延しており、部下としっかり向き合おうとする上司が減ったためだといいます。しかし、「部下のやる気を高めること」と、「部下を正しい方向に導くこと」は両立させることができる、というのが著者の主張です。その目的をかなえるために、本書には「嫌われることを恐れて上司や先輩たちが言わなくなった耳の痛い話」が満載されています。
成長への意欲がある人材は、正しい考え方や方法論さえ習得すれば、確実に「デキる人材」へと変貌する--と、著者は断言しています。問題は、どうやって正しい考え方や方法論を学ぶか。本書はそのための参考書だというわけです。
では目次を順を追って見ていくことにしましょう。
第1章 働くための「心構え」を作り直そう
第2章 成長に効く「ツボ」を押さえよう
第3章 折れない心の作り方
第4章 「組織」とどう向き合うべきか
第5章 仕事の「基礎体力」を鍛える
第6章 「できる」と思わせる対人スキル
第1章の「心構え」は、「何のために働くのか」をもう一度考え直し、モチベーションの土台を固めるパートです。著者は「人は自由を獲得するために働く」と言い切っています。少しずつ実績を積み重ねることで任される部分を増やし、最終的な「究極の信頼」というゴールに近づく。そして人や資金を集め、自分の事業を成功させる。そのためには、目先の小さな自由に逃げ込むことなく、心の中にある「信頼残高」の預金通帳を増やし続けなければなりません。
第2章の「ツボ」は、簡単ではないが「できたらすごいだろうな」と思わせるテーマが並んでいます。「約束は口に出し、必ず守る」「停滞期は腹をくくって耐え抜く」「失敗と向き合って法則を導き出す」「長所と対極にある能力を磨く」「仕事のセンスをトレーニングで鍛える」などです。
第3章の「折れない心」は、心を病む人の多い現代にあっては必読の章でしょう。「ピンチをチャンスに変える呪文」とは、「ちょうどよかった。これをきっかけに○○○をしよう!」というもの。ピンチに遭って「なんで自分が?」と思うのは受け身ですが、「ちょうどよかった。○○○をしよう!」と思うのは自発です。受け身が自発に変わった瞬間に、ピンチはチャンスに変身するのです。
「不幸を選ぶクセをやめる」とは、習慣や無意識の選択を見直し、自分で考えて行動を選択するように人生を変えるというもの。「何をやってもうまくいかない」と思う人は、たいていこの部分に病巣が潜んでいます。仕事帰りに習慣的に飲みに行ったり、パチンコをしたりするのを見直し、読みたかった本を読んだり、有意義なサークルに参加したりする。それだけで毎日が変わってきます。
「つもりの自分から脱却する」とは、「自分はこうなんだろうな」と思い込んでいる自分像と、実際に他人が見ている自分の姿のギャップを埋める作業です。そのためには自分のスピーチを録画して見直したり、周囲に自分の評価を聞いて回るなどの作業が必要です。録音した自分の声を聞くと、思っていた声とは違って驚きますが、自分の行動やしぐさもそれと同じ。「人から見える自分」を正確に把握することは、必ず成長につながります。
第4章の「組織との向き合い方」では、会社と自分を両立させるためのコツがたくさん書いてあります。
・客観的な人事評価はない。自分を買いかぶるべからず
・利益至上主義の「イヤなヤツ」とどうつき合う?
・“投資家”の意識を持って効率よく働こう
・職場は舞台、社員は演者。“役作り”を忘れるべからず
・トラブルは“血行障害”。犯人探しは全く無意味
第5章の「仕事の基礎体力を鍛える」には、次のようなことが書かれています。
「話がつまらない人から脱皮するには」→
どこがつまらないのか、ダメ出ししてもらう
「自己紹介をスマートにするには」→
相手のことを調べ、相手に合わせたネタを仕込む
「会議をリードするには」→
会議の目的を考えて優先順位をつけ、議論の舵取りをする
「成果につながる数字の読み方は」→
分布や内訳などの隠れた数字にも目を向ける
第6章「デキると思わせる」にも、さまざまなテクニックが紹介されています。
・小さな「1番」を取りにいく(ハロー効果)
・スタートダッシュだけ他人の倍働く
・「ポジティブ陰口」のすすめ
・「先回りの相談」で頼れる部下になる
・コミュニケーション力は要素分解で得られる
・クレームを「処理」していては成長できない
ページをめくるたびに「なるほど」と納得できる自己啓発書です。 |