オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

8時間睡眠のウソ。
日本人の眠り、8つの新常識

川端裕人・三島和夫 著 日経BP社 刊

1,400円 (税別)

日常生活でごく当たり前のことなのに、いろいろと謎の多い「睡眠」。そもそも「睡眠の定義って、何?」と聞かれて、すらすらと答えられる大人はほとんどいないでしょう。一応、模範解答を示しておくと、「生理的に周期的に繰り返される意識を失う状態のことで、体の動きが止まり、外的刺激に対する反応が低下して意識も失われているが、簡単に目覚める状態のこと」だそうです。

本書は、国立精神・神経医療研究センターの精神生理研究部長で、睡眠の科学を研究されている三島和夫氏の話を、ドキュメンタリー作家の川端裕人氏が聞き取って本にした形になっています。従来のこの手の本は、表向き専門家が書いたことになっていながら、じつはゴーストライターが聞き書きをしていることが多かったのですが、この本のスタイルは正直で無理がありません。

この2人の出会いは、川端氏が「ナショナルジオグラフィック日本版」の記者として、三島氏を取材したことに端を発しています。その取材の中で、川端氏は「30分間に2発、頭をガツンと殴られた」そうです。

そのひとつは、「今の日本の社会で、睡眠の問題は非常に大きな広がりと深まりがあり、ちょっと無視できない水準だ」ということ。つまり、睡眠の質が悪いことでさまざまな悩みを抱えている日本人が多くなっているという事実です。

もうひとつは、睡眠の科学が今、変革期にあって、非常におもしろいこと。これまで人々が睡眠について素朴に信じていた常識が、次々と打ち破られつつあるというのです。

本書では、最先端の睡眠の科学によって発見された新しい「事実」を、「新常識」としてまとめています。たとえば次のようなものです。
・日本人は世界屈指の睡眠不足
・「深い睡眠」が「良い睡眠」とは限らない
・睡眠時間は人それぞれ。年齢でも変化する
・シフトワークは生活習慣病やがん、うつ病のリスクを高める
・日本人の体内時計は平均で24時間10分
・眠くなるまで寝床に向かってはならない
・「不眠=不眠症」ではない
・こま切れ睡眠はNG

本書の冒頭には、「睡眠の疑問10連発!」と題して、睡眠に関するさまざまな質問をQ&A方式で並べています。ちょっと紹介してみましょう。

Q:ビジネスパースンは何時間眠ればいい?
A:簡単に「○時間」とは言えません。本書をよく読んで理解し、自分に合った睡眠を探してください。

Q:睡眠はこま切れでも大丈夫?
A:こま切れはよくありません。脳は深い睡眠の間によく冷えるため、こま切れに睡眠を取ると、冷却の効率が悪くなって脳がしっかり休めません。また、深い睡眠の間に出る成長ホルモンも減ってしまいます。

Q:働くママの子どもは何時までに寝かすべき?
A:寝る時刻が10時を過ぎると、子どもは寝不足になりがちです。寝不足の子どもは学習障害に類似した症状を呈したり、情緒不安定から多動状態になったりします。コミュニケーションやテレビ視聴を犠牲にしても、子どもは10時までに寝かすべきです。

Q:病気にならない睡眠法はある?
A:メジャースリープといわれる、まとまった睡眠のかたまりを崩さないようにすることが大切です。つまり、規則正しく、睡眠不足にならない時間だけまとまって眠ること。交代勤務の人は、糖尿病、高血圧、脳卒中、心筋梗塞などの生活習慣病、乳がんや前立腺がん、うつ病にかかりやすいことが明らかになっています。また、夜まとまって眠れないと、免疫系の働きも低下するので、感染症などのリスクも高まります。

Q:睡眠時間で寿命は変わる?
A:百万人以上を対象としたアメリカのデータでは、一般的に睡眠時間が7時間台の人がいちばん長生きであることがわかっています。そして、睡眠不足が影響する糖尿病や高血圧、うつ病などに関する調査でも、7、8時間前後の睡眠時間の人が、罹患率が最低になります。睡眠は短くても、長すぎても寿命を縮めることになります。

Q:お肌にいい睡眠法は?
A:女性誌などでは夜10時~深夜2時を「ゴールデンタイム」や「シンデレラタイム」と呼んで、この時間帯に眠るのが美容にいいと言っていますが、それは間違いです。成長ホルモンは深い睡眠の間に出ますが、何時から何時までというリズムは関係ありません。

Q:寝不足は太るって本当?
A:本当です。ただし、寝不足だけでなく寝すぎの人も太ります。寝不足の人が太るのは、睡眠時間が短いほど食欲を増すホルモンの分泌が増え、同時に食欲を抑えるホルモンの分泌が低下するためです。寝すぎの人が太るのは、ホルモンではなく、寝ている時間が長いため、運動不足になりやすいからではないかと言われています。

Q:頭のよくなる睡眠法はありますか?
A:朝勉強して8時間後にテストをするのと、夜勉強して8時間寝てからテストをするのとでは、睡眠を挟んだ場合のほうが成績がよくなります。だから、記憶をするなら眠る前に覚えるようにしたほうがいいでしょう。

Q:受験生の「四当五落」は本当?
A:「4時間睡眠なら合格、5時間寝ていると不合格」と言われる難関校の受験。この言葉は多分に精神論なのですが、1時間の学習効果と睡眠不足1時間の弊害を秤にかけた話と考えれば、ただ迷信と笑うわけにはいきません。しかし、最適な睡眠時間は個人によって異なるので、一概に「4時間」「5時間」と決めるのは科学的ではありません。

Q:なかなか寝付けない時はどうしたらいい?
A:寝付きやすい時間というのは、その人の体内時計によって決められていますから、個人差があります。寝付けないときは自然に眠くなるまで夜更かしするか、光のコントロールで体内時計を調節するかのどちらかしかありません。

第1章の「眠らなくなった日本人」では、日本人の睡眠時間が先進10カ国中で最低であることが示されます。また、日本人の5人に1人が睡眠に問題を抱えていることが明らかにされます。なぜ日本人は睡眠不足なのか。その答えは、生活環境の変化にありました。夜になっても明るい環境があり、逆に昼間でも外光の入らないビルで働く日本人は、体内時計が狂ってしまい、寝つきが悪くなって睡眠不足になっているというのです。

第3章の「『8時間睡眠が理想』もウソだった」では、みんなが漠然と信じている「8時間睡眠理想論」がデタラメであることを暴きます。じつは「8時間が理想」という話には裏付けとなる論文がなく、誰がいつ言い始めたことなのかも不明なのです。信頼できるデータによれば、8時間以上の睡眠が必要なのは個人差を考えても10歳以下の子どもだけで、15歳以上の人は年齢を重ねるごとにどんどん必要な睡眠時間が少なくなっていきます。

「8時間睡眠が理想」がウソであるなら、8時間を基準とした睡眠時間の過不足は根拠を失います。とくに高齢者が8時間ぐっすり眠れないからといって「自分は不眠症なのではないか」と心配になるのは、まったくのナンセンスです。基礎代謝が下がる(燃費が良くなる)高齢者は、若い人のようにたくさん眠らなくても十分な睡眠が取れているのです。

最後に、第6章にある「健やかな睡眠のための12の指針」を掲げておきましょう。
1.睡眠時間は人それぞれ。日中の眠気で困らなければ十分
2.刺激物を避け、眠る前には自分なりのリラックス法を
3.床につくのは眠たくなってから。入眠する時刻にこだわらない
4.同じ時刻に毎日起床
5.光を利用。目覚めたら日光を入れ、夜の照明は控えめに
6.規則正しい3度の食事、規則的な運動習慣
7.昼寝をするなら、午後3時までの20~30分。長い昼寝はかえってぼんやりの元
8.眠りが浅い時は、睡眠時間を減らし、遅寝・早起きにしてみる
9.激しいいびき、呼吸停止、足のぴくつきやむずむず感などは要注意
10.十分眠っても日中の眠気が強い時は専門家に相談
11.睡眠薬代わりの寝酒は不眠の元
12.睡眠薬は医師の指示で正しく伝えば安全

睡眠の科学の最先端が、わかりやすく理解できる1冊です。


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