オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

申し訳ない、御社をつぶしたのは私です。
コンサルタントはこうして組織をぐちゃぐちゃにする

カレン・フェラン 著 神崎 朗子 訳 大和書房 刊

1,600円 (税別)

白を基調にしたイラストも写真もないカバーに、派手なタイトルとサブタイトル。さらに赤文字でキャッチコピーやリード文が配され、文字ばかりのカバーになっているのですが、それでも書店店頭ではしっかり目立ちます。

最近の書籍は通称「腰巻き」と呼ばれるカバーにかけられた帯が幅広になのが流行ですが、本書の腰巻きの幅は14cm近くもあります。計算してみると、本書を平で置いた時の腰巻きの面積は、カバー全体の72%。もう「帯」ではなく「カバー上のカバー」と呼べるかもしれません。

タイトルは思い切り刺激的ですが、赤文字で表記されたキャッチコピーとリード文もなかなか鋭いものになっています。「前代未聞! 気鋭のコンサルが内幕を暴露した全米騒然の問題作!」「マッキンゼー、デロイト……コンサルの持ち込む理論もチャートも改革も、じつは何の意味もなかった--」

では帯を外したらどうなるか。やってみたら赤文字がなくなるだけで、タイトルとサブタイトルの表記は同じでした。これでは通勤電車で立って読んだ場合、前にコンサルタントの人が座っていたら睨まれそうです。ではカバーも外したらどうか。参考までに写真を用意しましたが、表紙には小さく英文の原題と著者名があるだけで、真っ白な本に見えます。残念ながら、背文字は派手な日本語のタイトルなのですが。

本書は「角背(かくぜ)」と呼ばれるスタイルのハードカバー本です。角背の本は、背が湾曲している「丸背(まるぜ)」のハードカバーと比較すると、めくりにくくなるという短所があるのですが、端正な外観になるため、好む人がたくさんいます。写真集や絵本のような、本文用紙が厚くて重い本の場合は、丈夫な背に本文が密着して固定される角背が多く用いられます。

本書の著者は、30年のキャリアを持つ女性経営コンサルタントです。マサチューセッツ工科大学(MIT)および同大学院を卒業し、デロイト・ハスキンズ&セルズ(現在はデロイト・トウシュ・トーマツ)、ジェミニ・コンサルティングなどの大手コンサルティングファームで戦略、オペレーション、組織開発、IT分野の経営コンサルタントとして活躍しました。

その後、製薬大手のファイザーに転職して研修部門を立ち上げ、コンシューマー部門のアジア太平洋地域IT担当マネージャーを担当。さらにジョンソン・エンド・ジョンソンに移籍してコンシューマービジネス部門のオンライン担当マネージャーを務めました。現在はオペレーティング・プリンシパルズ社の共同設立者となり、経営コンサルタントとして活躍しています。

現場と経営理論の両方で要職にあったという貴重な経験を活かし、彼女は官僚的な人事制度を廃し、対話と人間関係と職務適性を重視したシンプルで効果的な人材マネジメントを提唱しています。家族は夫と2人の息子で、米国ニュージャージー州在住とのことです。

本書の内容を紹介するには、まず帯の裏表紙側に記載されている文章を紹介するのがいいでしょう。2行のキャッチコピーと目次だけのシンプルな内容なので、そのまま転載します。

コンサル業界の仕事の実態、表から裏までぜんぶ語ります。
はじめに 御社をつぶしたのは私です
イントロダクション 大手ファームは無意味なことばかりさせている
第1章 「戦略計画」は何の役にも立たない
--「画期的な戦略」でガタガタになる
第2章 「最適化プロセス」は机上の空論
--データより「ふせん」のほうが役に立つ
第3章 「数値目標」が組織を振り回す
--コストも売上もただの「数え方」の問題
第4章 「業績管理システム」で士気はガタ落ち
--終わりのない書類作成は何のため?
第5章 「マネジメントモデル」なんていらない
--マニュアルを捨てればマネージャーになれる
第6章 「人材開発プログラム」には絶対に参加するな
--こうして会社はコンサルにつぶされる
第7章 「リーダーシップ開発」で食べている人たち
--リーダーになれる「チェックリスト」なんてない
第8章 「ベストプラクティス」は“奇跡”のダイエット食品
--「コンサル頼み」から抜け出す方法

扉ページをめくると、いきなり「はじめに--御社をつぶしたのは私です」という見出しが目に飛び込んできます。新人経営コンサルタントだった「私」のおかしたミス。それは実社会での経験がないのに、論理的な分析を行い、さまざまなモデルや理論を駆使して新たなモデルや理論を構築したことでした。

見た目には明快で論理的で絶対的に思えるモデルや理論。しかし経営理論の多くは正しさが証明されたものではなく、個々の事例にあてはまるに過ぎなかったのです。著者は30年のキャリアでそれに気づき、自分が適用していた経営理論の多くが間違っていたことを確認しました。そして、本書を発表したのです。

次の「イントロダクション」には、「コンサルは『芝居』で商売している」という物騒な見出しがあります。著者はこう言います。「私がこの本を書いたのは、経営コンサルタントとして30年も働いてきて、いい加減、芝居を続けるのにうんざりしてしまったからだ」

どういうことかというと、たとえばコンサルタントが「この在庫管理システムを導入すれば、問題は解決します」と高価なシステムを買わせても、実際に問題解決に寄与したのは、サプライチェーンの部門間の信頼関係構築だったりするということです。本当は関係者の連携を強化するだけでほとんどの問題が解決するのに、そう言ってしまってはお金をもらえないので、コンサルタントは芝居をするというわけです。

そうして偉そうな芝居をするコンサルタントたちを見ているうちに、世の中の人々はビジネスが論理的なものであり、すべてが数字で管理できると思い込んでしまいます。どこかにあるモデルや理論を適用すれば、成功への道筋が示されると信じています。その結果、職場から人間性が奪われ、従業員は使い捨ての機械のように酷使されるようになってしまいました。

著者が本書で主張したいのは、一部のコンサルタントが歪めてしまったビジネスへの見方を正常な状態に戻さなければならないということです。そのために著者は、コンサルタントがよく使う経営理論を次々と論破し、ただの飾りであることを訴えかけます。こむずかしいモデルや理論は捨て、社内のみんなが腹を割って話し合う。それでビジネスはうまくいくというわけです。

第1章で最初に俎上に乗せられるのは、マイケル・ポーターの『競争の戦略』です。1980年の出版で、80年代から90年代にかけて全盛期を迎えた戦略コンサルタントのバイブルです。この本で提唱される「競争優位性」「5つの競争要因」「3つの基本戦略」は、キーワードとして重用されました。

しかしこの理論を実践するには、大量の情報を収集し、分析する必要があります。十分な量の情報を集めることが、そもそも不可能なケースもままあります。そして、情報処理に明け暮れているうちに、ビジネスのチャンスは失われていくのです。著者はみずからの所属していたコンサルティングファームの末路を語りながら、そのことを示しています。

第2章では、どこの職場でも見かけるような問題が語られます。そこで働く誰もが問題を自覚しているのに、経営者がそれを解決できないというものです。著者は「一部にメスを入れても意味がない」「流行のメソッドを次々と使っても解決しない」と、事例を紹介しながら説いていきます。

このような調子で世に蔓延する「コンサル信仰」を打ち砕きながら、第8章の最後には2つの表が掲げられています。「コンサルタントが役に立つとき、役に立たないとき」「危険なコンサルタントの見抜き方」。この2つの表のためだけでも、本書は購入する価値があるのではないでしょうか。さらに巻末には「正しい方法を見分ける真偽判断表」と「科学的方法を生かす4つのステップ」という付録もついています。

出版元の大和書房(だいわしょぼう)は1961年、青春出版社から大和岩雄(おおわいわお)氏が独立して設立した出版社です。1963年に発刊した『愛と死をみつめて』は140万部の大ベストセラーとなりました。その他、1983年の山田太一『ふぞろいの林檎たち』、1989年の小林カツ代『アッという間のおかず』、1995年の小此木啓吾『あなたの身近な「困った人たち」の精神分析』、1999年の大原照子『少ないモノでゆたかに暮らす』、2002年の斎藤茂太『グズをなおせば人生はうまくいく』などのベストセラーがあります。

コンサルタントという職業の裏面を知ると同時に、「経営は人任せではいけない」という当たり前の真実を再確認するために好適な1冊です。


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