オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

図解 論理学のことが面白いほどわかる本

平尾始 著 中経出版 刊

1,200円 (税別)

版元である中経出版は、日本の出版社の中では珍しい、ダイナミックな沿革を持つ会社です。1968年創業と、比較的歴史は浅いのですが、「歴史読本」を出していた1952年創業の新人物往来社と、同じく1952年創業の翻訳文学専門である荒地出版社を吸収してグループにしたかと思ったら、2009年に角川グループ入り、2013年にはKADOKAWAに吸収合併され、会社としては消滅してしまいました。現在は、角川グループのブランドカンパニーとして存続しています。

中経出版の得意分野は、ビジネス書と語学書といった、いわゆる実用書です。読みやすい軽装本のみのラインナップで、1999年に出版した『経済のニュースが面白いほどわかる本』は、日本のビジネス書として初めて100万部を突破しました。ほかに、『本当に頭がよくなる1分間勉強法』(50万部)、『たった1分で人生が変わる片づけの習慣』(30万部)といったヒット作があります。

この出版社の特徴は、いくつもの人気シリーズを抱えていることで、ロングセラーとなるタイトルを多数刊行することにより、シリーズ累計で大きな部数となっています。たとえば本書が含まれる「~が面白いほどわかる本」をはじめとして、「あらすじで読む日本の名著」「さわりで覚えるクラシック」「センター試験○○の点数が面白いほどとれる本」などがあります。

本書は上記シリーズの一角をなすもので、姉妹本として「哲学」「心理学」「宗教」「社会学」がラインナップされています。また、本書のテーマに関連する本としては、『論理的な話し方が面白いほど身につく本』『論理的な考え方が面白いほど身につく本』『論理的な文章の書き方が面白いほどわかる本』といった類書が、この出版社から刊行されています。

「論理学」というと、日常生活とは無縁の学問のように思ってしまいますが、「ロジカル・シンキング」という流行語を思い出してみると、少し印象が変わるでしょう。論理学は英語では「ロジック」といい、ロジカル・シンキングとは、論理的な考え方という意味です。この言葉が広まったのは2001年の『ロジカル・シンキング』(照屋華子・岡田恵子著/東洋経済新報社)からで、おもにコンサルタントの人たちによって流布されました。

本書の初版が発刊されたのは、奥付によると2003年のことです。おそらく、ロジカル・シンキング・ブームにあやかって発刊が決められたのでしょう。しかし2013年には第6刷を出していますから、典型的なロングセラーです。このことから、ブームに乗るだけでなく、ちゃんと実用書としてのツボを押さえた本作りをしていることがわかります。

なぜロジカル・シンキングがブームになったかといえば、それ以前に「日本語は論理的な記述に向いていない」「日本人は論理的な思考が苦手である」といった俗説が流布していて、そこに経営コンサルタントたちが欧米流の分析手法やツールを大量に持ち込んだとき、「ロジカル・シンキングを身につけなければビジネスの競争に勝てない」と煽ったからです。

ただし、この言い方にはコンサルタントの人たち独特の我田引水があります。というのは、本来の論理学は思考法とは無関係の学問だからです。論理力とは考えをきちんと伝える力であり、伝えられたものをきちんと受け取る力のことで、ある種のテクニックです。ロジカル・シンキングは、まるで魔法のひらめきのように伝えられましたが、実態はそうではありません。

ただし、論理力があるとないとでは大違いです。本書のカバーには、こんなことが書いてあります。「論理学を知っている人は…アヤシイものに騙されない、理路整然と考え話すことができる、わかりやすい文章が書ける、試験や面接を突破できる、仕事・恋愛・日常生活のクヨクヨした悩みを解決!」

著者の平尾始氏は1954年神戸市生まれの早稲田大学講師。専門は哲学で、中でも分析哲学、論理学、言語哲学に関わる分野を得意にしています。そのことからも、論理学が哲学の一分野であることがわかります。早稲田のほか、武蔵野美術大学でも論理学を教えていますが、ユニークなのは大学院在学中から代々木ゼミナールで受験生を指導していることでしょう。「大学受験ラジオ講座」でも、6年間講師をつとめています。

著者のもう一つの顔は、「小論文の鉄人」です。著者は予備校やインターネット(http://www2.biglobe.ne.jp/~shoron/)で小論文の指導をしており、受験生や大学生が「うまく論文が書けない」ということを悩みにしていることを知っていました。作文と違って、論文は論理的に構成しなければ評価してもらえませんが、日本の基礎教育では論理学を教えていませんから、論文が書けない人が続出してしまうのです。

そこで著者は、実践的な論理学の本を書こうと思い立ちました。そうやって生まれたのが本書です。なお、本書は若い人たちだけではなく、ビジネスマンや高齢者など、社会のあらゆる人たちに向けて書かれています。そのあたりのことを、著者は「はじめに」に次のように書いています。

「論理の実践」というと難しく聞こえますが、実はとても日常的なことです。たとえば会社の会議や営業の交渉で「いつも言い負かされてしまう」という人はいませんか? または「訪問販売を断れず、不要なものを買わされてしまう」という人はいませんか? 要するに、相手の論理を見抜けないために有効な議論・反論ができず、そうなってしまうのです。「論理的な議論の仕方」さえ身につければ、だれでも強く自己を主張することができ、相手を説得することができます。試験では、出題者の要求に的確に答えて合格できます。

著者は続けて、論理のテクニックを身につけることにより、生きていく上で直面するさまざまな悩みを上手に解決することができると言います。出口がないように思えた深い悩みも、論理のテクニックを使えば問題を単純化してわかりやすい形に解きほぐすことができるので、「なんだ、こう考えればよかったのか」と自力での解決が可能になるわけです。

さらに、論理的にものを考えるクセをつけることにより、ボケ防止の効果も得られます。脳は放っておくとすぐに怠ける性質があるため、脳をよく使うクセをつけておかないと、どんどんボケやすくなってしまうのだそうです。論理的思考法が習慣になっていれば、漫然とテレビを見ているときも、自然に脳を働かせるようになり、いつも脳は活性化します。

でも、どんなに便利な学問でも、それを習得するためのハードルが高かったら、みんな途中で脱落してしまいますね。そのために本書は、「勉強」という雰囲気を取っ払い、「頭の健康診断・頭のシェイプアップ」という感じの内容になっています。まるで興味深いパズルを解くような気分で、どんどん論理学の真髄を学ぶことができるように作られているのです。

本書の第1章は、「論理学の世界にようこそ」というタイトルの、いわばイントロダクションです。ここでは「日本人は論理的な思考が苦手」という迷信を吹き払い、日本語でもちゃんと論理の筋道が伝えられることを説明しています。また、「論理的とはどういうことか」「どうしたら論理的思考が身につけられるか」といった本質的な部分にもあっさりと斬り込んでいます。

第2章は、「三段論法の論理」です。論理的な筋道の代表とされる三段論法をくわしく解説し、読者が簡単に三段論法を使うことができるように訓練してくれます。このあたりは、さすが予備校講師と思わせるわかりやすさです。「どうして三段なのか」「三段論法が正しくないこともある」「ひと目でわかるビジュアル三段論法」といった、興味が尽きないテーマにもふれられています。

第3章は、「もしもの論理」です。ここで論理学の真骨頂である「必要条件・十分条件」を学び、「条件」を使った論理の筋道をマスターしていきます。「色即是空・空即是色の意味は?」となどといった禅問答的な項目もあり、読者を飽きさせません。以下、第4章「癒し系の論理」、第5章「コンピュータの論理」、第6章「ミステリーの論理」、第7章「パラドクスの論理」、第8章「おかしなおかしな論理学」と続きます。

勉強が苦手な人でも、楽しみながらいつの間にか論理学がきっちりと学べる好著です。


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