突然ですが、みなさんは「ユーチューバー」という言葉をご存知でしょうか? カタカナではなく、横文字にするとピンとくるかもしれません。「YouTuber」…これでどうでしょう。
ユーチューバーとは、YouTubeに動画を投稿して人気者になったり、お金を稼いだりしている人たちのことです。「えっ、YouTubeってお金が稼げるの」とびっくりした方は、今すぐ本書を読む必要がありそうです。
本書の著者は「ジェット☆ダイスケ」というユーザー名で2006年からYouTubeに投稿しているビデオブロガーです。インターネットの動画作成に15年ほど関わり、今では動画収益ビジネスのパイオニアと呼ばれています。
2013年2月13日、著者はNHKの「クローズアップ現代」にゲストコメンテーターとして出演しました。この日のテーマは「収入源は動画投稿~急増 アマチュア映像作家~」というもので、YouTubeなどへの動画投稿で生計を立てている人たちに焦点を当てたものでした。
番組内で著者は「日本国内で動画投稿により完全に生計を立てている人は数十人レベル、主たる収入にインパクトを与えるくらいの副収入になっている人は数百人レベル」と話しています。もちろん、その手の活動の本家はアメリカですが、日本はアメリカに次ぐ世界第2位のYouTube動画再生回数があります。
本書の構成は、以下の通りです。
第1章 どうやって動画でお金を稼ぐのか?
第2章 ユーチューバーとは何者か?
第3章 私とクリエイティブとネット動画
第4章 「動画の置き場」から「人」主体のメディアへ
第5章 動画サイトがビジネスのプラットフォームになる
第6章 まったり発信から始めよう
第1章では、どうやってYouTubeへの投稿でお金を稼ぐのかがシンプルに語られます。ただ動画を作ってYouTubeに投稿しただけではお金は得られず、まず「YouTubeパートナープログラム」に登録することが必要であるという解説があります。YouTubeのビジネスモデルは親会社のGoogleと同様に広告収入モデルであり、YouTubeで投稿された動画を見る人が埋め込まれた広告を閲覧すると、その回数や視聴時間に応じて動画投稿者に報酬が支払われるというしくみです。
YouTubeパートナープログラムは2007年に始まり(日本では2008年)、今では世界30カ国、合計100万人以上の人たちが、動画投稿によって報酬を得ているそうです。以前はGoogleから人気のある動画投稿者にプログラムへの招待メールが送られてくるという「招待制」のシステムでしたが、今では誰でも参加できるようになっています。
YouTubeで表示される広告には4種類あります。関連動画リストの上などに表示されるバナー広告の「ディスプレイ広告」。動画再生中に動画に重なって表示される半透明の広告「オーバーレイInVideo広告」。そして動画再生の前、中、後に再生される動画広告には2種類あり、「TrueViewインストリーム広告」は開始後5秒経つとスキップできますが、「標準インストリーム広告」はスキップができません。
YouTubeパートナーは、自分が投稿した動画1本ごとに、これらの広告の表示/非表示を管理画面で選択し、どのタイミングでどんな広告を表示するかを設定します。それらのコントロールは専用の管理画面によって行われます。
報酬額は変動しますし、公表してはいけない決まりになっているそうですが、おおよそ1再生あたり0.1~0.3円といわれています。つまり、100万回再生されて10万~30万円の収入になります。したがって、独立して生計を立てているユーチューバーは、数百万回の再生回数を記録していることになります。
収入を増やすためには、「Googleアナリティクス」とよく似た「YouTubeアナリティクス」が必須になります。これはチャンネル運営状況を把握するために提供されているツールで、再生回数や推定総収入などのパフォーマンスに関する情報や、高評価・低評価をつけた人の数およびコメント数、お気に入り数などの視聴者の反応などが示されます。
これらのアクセス解析を分析して、投稿者は「再生回数の多かった動画の人気の秘密」を知ろうとし、次の投稿に生かそうと考えます。そして同時に視聴者の属性を把握し、より好感を持ってもらえる作品を作ろうとします。YouTubeアナリティクスでは視聴者の年齢や性別、再生された地域を知ることができます。
このほか第1章では人気の出る動画作品のポイントが教示されています。長さはどのくらいが適当か、タイトルとサムネイルは重要か、脚本は必要か、などです。著者の作品を例に挙げた写真が掲載してあるので、話が具体的でとてもわかりやすくなっています。
第2章では、3人のユーチューバーへのインタビューを交えて、ユーチューバーの実像に迫ります。インタビューの相手は、日本で一番人気のあるユーチューバー「HIKAKIN」、炎上狙いのヒールキャラで、本職の格闘家でもある「シバター」、新しいドラマの形を生み出した「劇団スカッシュ」です。このインタビューはとても示唆に富む内容で読み応えがあり、このためだけに本書を購入してもいいくらいです。
第3章では著者の映像制作にまつわる歴史が語られます。MSXでのビデオ編集、マルチメディアとの出会い、ブロードバンド時代の到来、ブログの登場とパーマリンクの効用、GoogleによるYouTube買収、iPhoneの衝撃といった興味深い話が並びます。
第4章では「ニコニコ生放送」「YouTubeライブとハングアウト」「ツイキャス」「6秒ショートムービーVine」「ハイクオリティなVimeo」「動画の引用と著作権の問題」といったテーマの後に、「MEGWIN」「アリケイタ」へのインタビューが続きます。
第5章のテーマは「企業の動画活用」です。ここでは事例として、YouTubeで新たな販路を開拓することに成功したAppBankへのインタビューが掲載されています。YouTubeを何らかのビジネスに利用している人は、必見の記事です。
最後の第6章は、「YouTubeで稼ぐ」ということを目的にしない人へのアドバイスです。インタビューは「カレー」キュレーターとしてまったり発信を続けている「飯塚敦」。著者は最後に「YouTubeで大きく稼ぐというのは違う」と述べています。むしろYouTubeは社会のセーフティーネットであったり、個人の可能性を大きく広げるツールであるとして、本書を結んでいます。
YouTubeを単なる動画置き場として認識していた人にとっては、目からウロコが連発の1冊でしょう。