オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

日本の大和言葉を美しく話す --こころが通じる和の表現--

高橋こうじ・著 東邦出版・刊

1,400円 (税別)

「大和言葉(やまとことば)」が今、静かなブームです。

大和言葉とは、漢語、外来語とともに日本語を構成する要素のひとつですが、輸入された言葉である漢語や外来語と違い、日本民族固有の土着の言葉であるために、日本人の心に直接響くという特徴があります。

たとえば「感動する」は漢語ですが、同様の意味を持つ大和言葉は「胸に迫る」「ぐっとくる」です。どちらが情感を持った言葉であるかは、明らかでしょう。ということは、ビジネスやセールスの現場でも上手に大和言葉を利用すれば、相手の心に響く語りかけができるわけです。

「妥協する」ではなく「折り合う」、「想像する」ではなく「思いを馳せる」、「対戦する」ではなく「お手合わせを願う」。そんなふうに言葉を選ぶことができたら、味気ないメールが印象的なメッセージに変わるかもしれません。

大和言葉はロジックではなく、感覚的に心に響きます。漢語の「故郷(こきょう)」は単語として意味が理解できますが、大和言葉の「ふるさと」は「ふ」「る」「さ」「と」の一音一音が心に響きます。

しかし、大和言葉は漢語や外来語に押されて、あまり使われなくなっています。漢語は高い造語能力があるため、次々と新語が造れます。外来語はそのままカタカナ表記すれば使えるので、新しい言葉がすぐに利用できます。でも大和言葉にはそのような機動性がありません。

たとえば自動車の部品や運転操作を大和言葉で説明しようとすると、どうなるでしょうか。自動車のことは「くるま」でいいですが、ハンドルは何と言えばいいのでしょう。ブレーキは、アクセルは、パワーウインドウは、カーナビは。それが大和言葉が衰退した大きな理由です。

でも、人生に潤いをもたらすのは効率ではありません。美しい言葉、心に響く表現こそが、人生を豊かに、充実したものにするはずです。本書はそのために、大和言葉を再発見し、日常会話やメール、スピーチに活かそうという意図で作られました。

本書の著者はシナリオライター。言葉のプロです。そして「言葉とは何か」をテーマにしたシナリオ「姉妹」で、第10回読売テレビゴールデンシナリオ賞の優秀賞を受賞しました。現在は言葉と会話を巡る人間心理の研究に力を注いでおり、『言いにくいこともスラリと言える話し方88のアイデア』(主婦の友社)、『クイズで楽しむ日本語のふしぎ』(薪水社)などの著書があります。

本書の構成は章立てではなく、「語らい」「もてなし」「手紙」「言挙(ことあ)げ」「言伝(ことづて)」「恋」「交(ま)じらい」「装い」「住まい」「味わい」「眺め」「学び」「遊び」「そぞろ歩き」「あめつち」「生きもの」「性(さが)」「思い」「つとめ」「時」「魂(たましい)」という21の項目に分けて、それぞれ著者が選んだとびきりの大和言葉を提示しています。

最初の「語らい」で登場する大和言葉は、「このうえなく」「いたく」「こよなく」「お買い被(かぶ)りを」「おからかいを」「お戯(たわむ)れはもうそれぐらいで」「恐れ入ります」「楽しゅうございました」「嬉(うれ)しゅうございます」の9つ。それぞれ使い方の解説や使うときの注意点が簡潔にまとめられています。

次の「もてなし」で出てくるのは、「ようこそお運びくださいました」「お待ちしていました」「お上がりください」「ごゆるりと」「お心置きなく」「お口に合いますかどうか」「ほんのお口汚しですが」「どうぞお付き合いください」「お言葉を賜(たまわ)る」「今宵(こよい)」「言祝(ことほ)ぐ」の11の言葉です。そういえば東京オリンピック誘致のときに流行語となった「お・も・て・な・し」も大和言葉でしたね。

続いて「手紙」に使う大和言葉です。改まった手紙は「拝啓」や「謹啓」で始まり、「敬具」や「恐惶謹言」で終わりますが、今の日本人には堅苦しさしか伝わりません。それよりも略式でいいので和の優雅な香りが漂う手紙を書いたほうが、読む人には喜ばれるでしょう。「日ましに春めくこのごろ」「夏も早たけなわ」「ひとかたならぬお世話に」「お心にかけていただく」「お引き立ていただく」「幾重(いくえ)にもお願い申し上げます」「お酌(く)みとりください」「お身体をお厭(いと)いください」といった言葉が紹介されています。

次の「言挙(ことあ)げ」は意味がわからない人もいるでしょう。言挙げとは、思っていることをはっきりと口にすることです。著者はここで紹介する項目を、スピーチやプレゼンの武器にどうかと提案しています。「いみじくも」「まさしく」「つまるところ」「いやがうえにも」「むべなるかな」「あまつさえ」「いささか」「たまさかに」「惜しむらくは」「なかんずく」「よしんば」「言わずもがな」のうち、意味がわかるのはいくつありますか?

「言伝(ことづて)」は短い文で表現される書き置きや簡単な報告のこと。短い文だからこそ、そこに使われる言葉が引き立ちます。「しばしお待ちを」「概(おおむ)ね」「あらましは次の通りです」「続けざまですみません」「遅ればせながら」「いましがた」「思いのほか」「鑑(かんが)みて」「私事(わたくしごと)ですが」「お手すきのときに」「ゆるがせにしない」「心待ちにしています」といった言葉たちが登場します。

「学び」の項目では、勉強に関する大和言葉が並びます。そもそも「勉強」と言うより「学び」と言ったほうが楽しそうに感じられるのはなぜでしょうか。「暗記する」よりも「そらんじる」、「予習」よりも「下読み」、「復習」よりも「おさらい」のほうが、より身につくように感じられますね。「テンプレート」ではなく「雛形(ひながた)」という言葉を使うと、知能指数も高そうに見えます。

「あめつち」の項目、すなわち自然や気象は大和言葉の真骨頂です。四季のある日本列島で培われた言葉は、多彩な天気を豊かに表現しています。ここでは「日和(ひより)」「雲足が速い」「霧が立ちこめる」「篠突(しのつ)く雨」「月が冴える」「上(のぼ)り月」「鼓星(つづみぼし)」「星月夜(ほしづきよ)」「黄金(こがね)」「巌(いわお)」「出で湯」などが代表として挙げられています。

コラム(1)の「大和言葉の響きを楽しむ」では、大和言葉の音の特徴を解説しています。発音の響きが美しい言葉も列記されていて、「卯(う)の花腐(はなくさ)し」「雪明かり」「澪標(みおつくし)」「ゆくりなく」など音読を楽しむことができます。

コラム(2)は「言霊(ことだま)の幸(さき)わう国」。古代の日本人が信じていた、言葉の持つ霊的な力について解説しています。結婚式での「別れる」「割れる」などの忌み言葉も、言霊信仰から来ているものだそうです。

ちなみに本書はオールカラー。といっても、派手さで目を引くものではなく、しっとりとした美しさで読みやすさを第一にデザインされています。大判のA5サイズで184ページもあってこの値段なら、お買い得といえるでしょう。

言葉づかいにひと工夫したいと思っているなら、必読の一冊です。


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