本書は幻冬舎メディアコンサルティングが発行し、幻冬舎が発売しているものです。幻冬舎メディアコンサルティング(いささか長い社名なので、以下幻冬舎MCと略します)は幻冬舎の子会社で、「企業出版」と「自費出版」を担当する部門です。以前は企業出版は幻冬舎MC、自費出版は幻冬舎ルネッサンス(同じく幻冬舎の子会社)と守備範囲が分かれていたのですが、さきごろ両社は合併し、現在の体制になりました。
「企業出版」といっても、何のことかピンとこないかもしれません。要するに、企業の商品やサービス、ビジネスを本の形で世に広めるお手伝いのことで、本の企画、制作、流通、販促がワンパッケージになったものです。平たく言えば「企業向け自費出版」なのですが、著者である企業が費用をどのくらい負担するかはケースバイケースといわれています。この本のように著者が有名人の場合は、リスクを出版社側が取ることもあります。
ご存じの方も多いと思いますが、著者の山岸義浩さんは高知県須崎市で老舗の竹材業を経営する人物です。屋号は「竹虎」。山岸さんは4代目の経営者となります。つまり、創業者は山岸さんのひいお祖父さんです。
山岸さんの商材は竹製品全般とその関連商品ですが、目玉になるのは特産の「虎竹」を使った商品です。「虎竹」は正式名称を「土佐虎斑竹」といい、竹の表面に虎のような縞模様があることからそう呼ばれています。「虎竹」と命名したのは世界的植物学者として有名な牧野富太郎博士です。牧野博士は高知県出身で、命名は1916年(大正5年)のことでしたが、地元でははるか以前から知られていました。
「虎竹」が生えるのは、高知県須崎市安和のごく小さな谷間だけです。地元では江戸時代、年貢の代わりとして土佐山内家に献上していました。なぜ虎の模様ができるのかは、大学の研究者などがさかんに調べていますが、いまだに理由がわかりません。おそらく土中の細菌によるものだろうという説が有力なようです。
そんな特産品の「虎竹」は、伐採しただけでは使えません。表面を高熱であぶり、吹き出してくる油分をていねいに拭き取ってやる必要があります。それによって、はじめて独特の虎模様が浮かび上がってくるのです。
山岸さんのひいお祖父さんが創業したのは1894年(明治27年)のことでした。最初の屋号は「竹亀」でしたが、虎竹ばかり扱うようになり、自然に「竹虎」へと変化していきました。当時は生活必需品として竹細工の需要が多く、竹細工職人や竹材商は珍しい職業ではありませんでした。
山岸さんのひいお祖父さんが高知県須崎と縁を持ったのは、虎竹の希少性に目を付けたためでした。「伐採してきた虎竹はすべて私が現金で買う」と山主たちを説得し、独占的な商売をはじめました。この「すべて現金で買う」というルールは、今も大切に守られているそうです。
やがて戦争が終わり、「竹虎」は山岸さんのお祖父さんによって株式会社山岸竹材店となりました。商売も竹材の商いだけでなく、竹製品の製造へと広がっていきます。竹製品の展示即売場も整備し、折からの清流・四万十川ブームで来場者も好調でした。著者はその好景気を、子どもの目でしっかりと見ています。
しかし著者が社員として働くころには、竹製品の販売に陰りが出ていました。安価な輸入品との競争に加えて、日本人の生活習慣そのものの変化があったためです。若かった著者はデパートの祭事やダイレクトメールを使った通販に活路を見出そうとしますが、すべて失敗。最盛期に80人近かった社員は20人ほどに激減し、「倒産」の2文字が著者の脳裏にちらつくようになりました。
そんなとき、著者はインターネットに出会います。会社にやってきた同級生が、インターネットを使って特産品の土佐文旦(「ぶんたん」別名は「ザボン」「ボンタン」)を月に100万円売った人の話をしてくれたのです。1996年(平成8年)のことでした。
パソコンのことを何も知らなかった著者が「インターネットで売る!」と決意したのは、同じ高知県の経営者が、特産品を売るのに成功したからでした。これが東京や大阪の話だったら「高知は田舎だから…」と尻込みしたに違いありません。おそらく自分と同じように情報も何もない中で手探りで始めて成功したのに違いない。そう思ったからです。
1997年、著者は最初のホームページを立ち上げます。ネット回線への接続は奥さんに手伝ってもらい、写真撮影は安いデジカメを購入して見よう見まね、サイト構築はホームページビルダーです。しかしカート機能もない素人のホームページで買い物をしようと思う奇特な人は少なく、売り上げは3年間でわずかに300円。著者は「竹がインターネットで売れるわけがない」という周囲の声に飲み込まれようとしていました。
そんな著者を踏みとどまらせたのは、生命保険会社主催の講演会がきっかけでした。演台に立った経営コンサルタントの「これから大切なのは『本物』『女性』『IT化』だ」との話を聞き、目が開いたのでした。自分たちの扱っている虎竹は本物中の本物、竹製品のお客様は茶道をしている人など女性が多い、そして自分が今手がけているネットショップはITそのものだ!
一念発起した著者は、大嫌いだった勉強会に参加することにしました。ちょうど高知県産業振興センターがインターネットの勉強会として「高知e商人養成塾」を立ち上げたというタイミングもぴったりでした。塾長はかの有名な「京都イージー」の岸本栄治さん。Tシャツのインターネット通販で大成功を収めた、日本のネット販売のパイオニアです。
その岸本塾長は、初対面の著者にこう言いました。「竹? 売れるに決まっとるやんけ」。ネット販売を始めてから3年、初めて著者に「売れる」と言ってくれた人が現れたのです。塾での目標は「月商100万円」。それをクリアすれば、担当者一人が食べていける金額です。著者はそれを達成するのに1年半かかりました。
ここまでが本書の1、2、3章で、4章からは著者の快進撃が語られます。そこはぜひ本書をじかにお読みになって感動していただきたいと思います。以下、本書の目次を掲載しておきます。
第1章 日本唯一の竹「虎竹」と、老舗「竹虎」
第2章 「竹屋」の大変さを知る
第3章 インターネットとの出会い
第4章 竹虎四代目の「逆襲」
第5章 竹虎流・インターネットビジネスの極意
第6章 いま「竹虎四代目」として
著者は「おわりに」で、次のように語っています。
「もうこれ以上、虎竹で商売を続けていくのは無理だ。どんどん下がり続ける売り上げと借金の閉塞感の中、どうしようもなくなった時、たまたま出会ったインターネットの可能性を知った時は、まるで翼が生えたように思いました。自分の伝えたいこと、伝えたい人に直接お話しできる素晴らしさ、自由さは革命でした。自分が生まれ育った、この日本唯一の虎竹の里の話をしていこう。ここにしか成育しない不思議な竹のことを話していこう。竹に関わる大好きな人たちの話をしていこう。そうやって、一つずつ自分たちのことを見つめ直していくことが地域資源の再開発につながり、ささやかではありますが独自のブランド力に気づくことにもなりました」
サブタイトルの「田舎×インターネット×老舗」は、どうすれば自分たちの持つ価値を再発見し、それをブランドに変えていくことができるかを端的に言い表したものです。本書は大げさでなく、すべてのネットビジネス関係者が座右に持つべきバイブルであると思います。