オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

朝昼夕3つのことを心がければOK!
あなたの人生を変える睡眠の法則

菅原洋平・著 自由国民社・刊

1,400円 (税別)

自由国民社は『現代用語の基礎知識』を出している出版社です。同書の副産物として生まれた「新語・流行語大賞(2004年からは『ユーキャン新語・流行語大賞』)」は、第一生命の「サラリーマン川柳」や日本漢字能力検定協会の「今年の漢字」と並んで、その時々の世相を反映する指標として話題になっています。

自由国民社の創業は1928年(昭和3年)、当初は「サラリーマン社」という社名でした。戦後、雑誌「自由国民」の別冊として刊行した「現代用語の基礎知識」が大ヒットし、年刊雑誌として独立、現在に至っています。

同社のモットーは「知識の大衆化」ですが、「現代用語の基礎知識」はそれまでの「事典」の持つ高級感やアカデミズムといった敷居の高さを打破し、時事的な知識を大衆に広く知らしめる役割を果たしています。同社の出版界におけるランキングは73位です(紀伊國屋書店「2014年出版社別売上ベスト100」)。

さて、本書の話に移りましょう。著者の菅原洋平氏は作業療法士。ユークロア株式会社代表で、ブログ「あしたを変える『脳の話』」(http://ameblo.jp/activesleep/)の主宰者でもあります。2015年6月9日から、「cakes」で「思いつきで行動してしまう脳、考えすぎで行動できない脳」を連載開始しています
https://cakes.mu/series/3412)。

本書は睡眠を「脳を成長させるアクティブな活動」ととらえ、質の良い睡眠を取る方法を一般の人にも取り組みやすい形で紹介したものです。脳と睡眠の仕組みを知り、朝昼夕3つのことを心がけるだけで睡眠の質が上がり、自然に「やる気」が湧いてきます。著者はそれを「睡眠の法則」と呼んでいます。

それでは、いつものように目次の紹介から始めましょう。
第1章 やる気にはメカニズムがある
第2章 やる気の警告サインをキャッチする
第3章 朝5分--光の法則
第4章 昼5分--負債の法則
第5章 夕方5分--体温の法則
第6章 眠りの悩みを解決する

各章末にはコラムがついています。そのタイトルも列記しておきましょう。
・引き出しから頭痛薬が消えた!
・眠りが変わったら、仕事を溜めなくなった
・ちゃんと寝ているのに、なぜかやる気が出ないケース
・本当にかっこいい女性を目指すには
・徹夜が必要な人のために

それでは、本書の内容を紹介していきます。
第1章では、脳と「やる気」の関係をわかりやすく説明しています。まず著者は、読者に質問を投げかけます。「次のシチュエーションのうち、どれが最もやる気になりますか?」

(1)数年の付き合いがある取引先と、既存の事業について打ち合わせをする
(2)数年の付き合いがある取引先と、まったく新しい事業について打ち合わせをする
(3)初めて接する取引先と、まったく新しい事業について打ち合わせをする

多くの読者が(3)と答えるであろうと著者は予測していますが、そのとき引き出されている「やる気」は、脳が過剰に興奮した結果であるといいます。テンションが高まっているので、それが「やる気」だと錯覚しているというのです。

著者が言うには、最も「やる気」を引き出すことができるのは、(2)だそうです。50%は知っているが、50パーセントは未知の領域。これが「人が最もやる気になり、最も成長しやすいシチュエーション」であるそうです。これはロシアの心理学者レフ・ヴィゴツキーによって提唱された「発達の最近接領域」という理論がもとになっている考え方です。

著者はこんな例を挙げています。「子どもが新しいことに挑戦する場面を思い浮かべてください。例えば、洋服のボタンをはめようとしています。その子は、ボタンを穴に通すことは分かっています。ただ、ボタンを縦にすると穴に通せるということは知りません。そこで隣の子が、ボタンを縦にして通しているのを見ます。真似してみたら、ボタンをはめることができた! すると、次のボタンもはめてみたくなります」

これを著者は「50%の冒険」と呼んでいます。課題の50%が未知の冒険になるようにして、取り組む課題を設定すれば、常にやる気を出して課題に取り組むことができるというわけです。その配分が悪くて未知の領域が大きすぎるとストレスになり、小さすぎると退屈してしまいます。

ところで、「50%の冒険」に挑むためには、「50%の経験」が必要なのは言うまでもありません。「これはもう知っている」という記憶があるから、新たな50%に挑戦できるのです。その「50%の経験」が睡眠中に作られると言われたら、驚きますか? 著者は次のステップで、そう語りかけてきます。

「悩んでいても仕方がないから、眠って忘れよう」
「一晩眠って考えたら、決心がついた」
といった何気ない言葉の中に、ものごとの本質が隠されていると著者は言います。

記憶には2つのメカニズムがあります。最初に短期メモリーである「海馬」に記憶し、次に長期メモリーの「大脳」に移すというものです。耳で聞いた電話番号は海馬止まりなので電話が終わると忘れてしまいますが、学習した英単語の意味はしっかり覚えている。それは海馬から大脳へ記憶が移されているからです。

この「海馬から大脳へ記憶を移す作業」が、睡眠中に行われているのだそうです。睡眠中は脳に視覚や聴覚からの刺激が入ってきませんから、脳は邪魔されずにこの作業に集中できます。このデリケートな作業によって、脳は問題解決に有効な情報を持っている神経同士をマッチングさせ、不必要な情報を伝達している神経を消去しているわけです。そして記憶の量を変化させ、脳の空き容量を増やしています。

そしてこの作業を通じて、脳は記憶の質も変化させています。脳の中に蓄えられた資源をフル活用して、「ひらめき」と呼ばれる価値のある情報を生み出させているのです。「ひらめき」は「思いつき」とは違い、一見関係のない情報をヒントに、行き詰まった考えの打開策を与えてくれます。

このような脳の活動ですが、それは「睡眠の質」によって大きく左右されると著者は言います。睡眠の質とは、「ぐっすり眠る」「すっきりと目覚める」といった言葉に表されるようなもので、睡眠時間の長さとはあまり関係がありません。そして、この睡眠の質に重要なのは、夜よりも昼間であるというのです。

ここで、少し専門的な言葉が出てきます。「メラトニンリズム」「睡眠-覚醒リズム」「深部体温リズム」という睡眠を司る3つの生体リズムです。「眠くなる」というのはこの3つのタイマーが関係しているのですが、この3つがうまく同調しないと、心地良い睡眠は得られません。毎日リセットして、きちんとタイマーを同期させる必要があるのです。そのリセットが「朝、太陽の光を浴びる」ということです。

以下、著者はときに専門的な考え方も交えながら、わかりやすく睡眠と脳の「やる気」について解説していきます。オール2色刷りの本文はゆったりと組まれていて読みやすく、適切な図版もあります。きちんと眠って病気を防ぎ、毎日の「やる気」を維持していきたいのなら、ぜひお読みいただきたい1冊です。


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