オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

学術的に「正しい」若い体のつくり方
なぜあの人だけが老けないのか?

谷本道哉・著 中公新書ラクレ

820円 (税別)

「あ、この人の名前、テレビで見たことある!」と思われた方も多いのではないでしょうか。本書の著者である谷本道哉氏は、NHKの「おはよう日本」をはじめ、フジテレビ「ホンマでっか!?TV」など多数のメディアに登場している筋肉トレーニングや健康体操のオーソリティーです。

あらためて紹介すると、1972年生まれの静岡県出身で、大阪大学工学部を卒業後、東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了の博士です。現在は近畿大学生物理工学部人間工学科准教授という肩書きを持っています。専門は身体運動科学、筋生理学。『筋トレまるわかり大事典』(ベースボール・マガジン社)、『スロトレ』(共著、高橋書店)をはじめとする多くの著書があります。

本書がどういう経緯で書かれたかを推測するヒントが、巻末の「おわりに--いつまでも若くカッコよく! イキイキと充実した生き方を」にあります。著者たちの研究グループがテーマにしているもののひとつに、「高齢者の筋力トレーニングと生理学的応答」があります。その実験のために、被験者としてたくさんの高齢者に協力してもらっているのですが、困ったことがあるそうです。

それは、とても高齢者とは思えないほど元気で筋力の強いお年寄りが集まってしまうことです。「高齢者の」という実験なのに、高齢者の体ではない人ばかりが集まってしまうと、学問的に有意な実験ができません。

なぜそんなことが起きるのかというと、「筋トレの実験」というふれこみで募集をかけるため、「実験に協力すればタダで筋トレができて、自分の筋肉の状態を測ってもらえる」と思った運動大好き、健康志向の老人たちが殺到するからです。

実際にその人たちの筋力や筋肉量を測定してみると、平均で20歳ほど若く、中には20代の平均を超えている「ツワモノ」まで見受けられます。そして全体に言えるのは男性、女性に限らずスタイルが良く、若々しくてカッコいい人が多いことです。誰もが明るくイキイキしていて、肉体だけでなく生活も充実していることがうかがえます。

そういう高齢者をもっと増やしたい。それが著者の願いです。本書はそのために作られました。「見た目が若い・老けている、イキイキしている・していない」といった差は、年を取ってから突然出てくるものではありません。30代から少しずつ現れ始め、40代、50代と年齢を経るに従ってどんどん増大していくものです。

クラス会など同年齢の人が集まる会に久しぶりに出たりすると、若々しい人と老けて見える人の差に驚くことがあります。アンチエイジングをしているとか、白髪を染めているとかの差だけではなく、明らかに若さに違いが生じているのです。とくに病気をしたり、不健康な生活習慣に染まっていたりすると、いきなり見た目が老けてしまうようです。

本書は全6章構成。それにコラムがちりばめられています。では目次を紹介しましょう。
はじめに--定年延長時代を元気にカッコよく生き抜くために
序章 運動でカッコよく若々しくなれると分かっていても
コラム(1) 「煙草は体に悪くない」というインチキ統計
1章 「メタボ」、それは突然死のプロローグ
コラム(2) 過去の運動経験は貯金できない
コラム(3) 動ける人に「車椅子」は不要です
2章 「メタボ対策」--「理想的」&「現実的」な運動基準でトライ!
コラム(4) 地方の人ほど肥満率が高い理由
コラム(5) 颯爽とした身のこなしこそ、真のオシャレです
コラム(6) リュックサックで歩行速度を上げよう
コラム(7) 猫背矯正の便利グッズ
3章 「ロコモ」は30代から始まっている
コラム(8) 30代を過ぎれば骨密度は減る一方、というのは間違い
コラム(9) 男らしい(?)筋トレが招いたもの
コラム(10) プロサッカー選手と膝関節
4章 ロコモ対策--今日の「10分」が未来のあなたを救う
コラム(11) 恥ずかしい? 町で見かけたプチ筋トレ
コラム(12) ダンベル体操の古い歴史
コラム(13) 筋肉痛が怖い? いや、大丈夫!
最終章 老けない、病気にならないための食事のコツ
コラム(14) 食事に気をつけている、なんて“当たり前”
コラム(15) 外食が悪いわけではなく、問題は選び方
コラム(16) 運動と認知症--運動は頭にもよい!?

「はじめに」は定年70歳時代の話題からスタートしています。破綻が目に見えている年金の給付開始年齢をさらに引き上げるために、企業や公務員の定年を70歳にしようという動きがあり、ほぼ確実にそうなるという話題です。もしそれが実現したら、70歳まで働ける体を維持しないと、経済的に自立できないことになります。

著者はこの定年70歳について、「いいことだ」と言っています。仕事をしていれば必然的に活動量が増えるので、体力が落ちにくくなり、気力も充実すると思われるからです。体力と気力の充実は疾病のリスクを減らし、健康への気配りも行き届くでしょう。だから定年70歳は、日本人の健康寿命を延ばすチャンスといえるわけです。

本書では「メタボ」と「ロコモ」を撲滅対象としてとらえています。メタボについてはみなさんもよくご存じでしょう。メタボリックシンドロームの略で、心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病といった生活習慣病に罹患しやすい体の状態のことです。とくに心筋梗塞と脳梗塞は「突然死」の原因ですから、メタボであるということは、突然死予備軍であることにほかなりません。

もうひとつの「ロコモ」については、初めて耳にした人もいるでしょう。これはロコモティブシンドロームの略で、筋力や関節機能の低下などにより、自力で体を支え、動かすことが困難になる状態のことです。こちらは高齢期以降に頻発する健康に関しての問題です。

メタボもロコモも加齢によってリスクが高まりますが、どちらも自分の努力次第で回避することが可能です。加齢は避けることができませんが、体の処理能力が低下する老化は、自分次第でどうにでもなります。簡単に言えば、禁煙と節度ある飲酒、適切な運動とバランスのよい食事。これだけが要素です。

本書の特徴は、タイトルにもあるように「科学的」な健康書であることです。世の中にはともするとオカルトまがいの健康書や、ニセ科学をまとったインチキ健康書が出回っていて、それらに出会ってしまうことがありますが、本書は違います。随所に掲載されているグラフや図がそれを示しています。

また、著者は「続かない健康法では意味がない」と言っています。とても実現できない理想論では、いくら立派なことを言っても机上の空論でしかありません。健康法は何より読者が健康になってはじめて価値を持つものですから、継続して実行できてこそ意味があります。

したがって本書は、手軽に実行できそうなレベルから、段階的にレベルアップしていくようにトレーニング方法が紹介されていて、石玉サコさんによるシンプルで暖かみのあるイラストが、運動のやり方をわかりやすく教えてくれます。「運動しなくちゃいけないと思っているんだけど……」という人すべてにオススメの1冊です。


Copyright (C) 2004-2006 OCHANOKO-NET All Rights Reserved.