冒頭で「見た目と聞きやすさが印象の大部分」と申し上げましたが、見た目は自分でもある程度改善できます。鏡を見て姿勢やファッションを点検すればいいし、親しい人にアドバイスを求めることもできるでしょう。しかし、「話を聞いてもらえる声」や「聞きやすい話し方」はどうやってトレーニングしたらいいのでしょうか。その答えが本書です。
著者は「声・話し方コンプレックス解消ボイストレーナー」「話下手改善スピーチコンサルタント」の肩書きを持つ女性です。株式会社ボイスクリエーションシュクルの代表取締役であり、話し方スクール「シュクル声磨きサロン」の代表も務めています。都立王子高校のボイス・スピーチトレーニング講師でもあります。
普通、こういう本の著者でしかも女性というと、若いときからアナウンサーなどの話し方のプロとしての経験を積んできた人を想像しますが、著者はちょっと違います。40歳までは主婦業をこなしていた人物で、夫の海外勤務に従って13年間を海外で過ごしました。
著者が「声」に注目するようになったのは、パリで暮らしてからです。パリのおばあさんたちの声がなんとも魅力的なのに気づき、「声は目に見えない履歴書なんだ」と思うようになりました。そして帰国後40歳でアナウンススクールに入学。その後地方ラジオ局の局アナを経て、ボイストレーニングを仕事にするようになりました。都立王子高校では5年間、ボイストレーニングの講師を続けています。
その著者によれば、「声は呼吸が命」なのだそうです。たとえば緊張すると早口になる人がいますが、その理由は呼吸が速くなっているから。声は呼吸に乗って伝えられるため、緊張したことによって呼吸が速まると、言葉もそれにつれて速くなってしまうわけです。
それでは、いつものように目次から見ていきましょう。
声を磨いて、人生を好転させよう!……まえがきに代えて
プロローグ 声を磨けば人生が変わる!
1 声を磨けば「お客様」が増える
2 声を磨けば「商談」が成功する
3 声を磨けば「友達」が増える
4 声を磨けば「婚活」も成就する
5 声を磨けば「おなか周り」がスッキリする
6 声を磨けば「フェイスライン」もスッキリする
7 声を磨けば「猫背」も直る
8 声を磨けば「心」も軽やかリフレッシュ
第1章 いつも聞き返されてへこんでしまう人のための発生・滑舌トレーニング
ケース1 「声が小さくて聞こえないぞ!」と上司にいつもいわれる
解決への近道1 口呼吸を鼻呼吸に変える腹式呼吸トレーニング★
ケース2 居酒屋さんでいつもオーダーをスルーされる
解決への近道2 通りの良い安定感のある声になる声のベクトルトレーニング★
ケース3 モゴモゴ・ボソボソした声なので明瞭に聞き取ってもらえない
解決への近道3 口の中の空間づくりトレーニング★
ケース4 だらしない話し方のせいでいつも電話対応のクレームになってしまう
解決への近道4 母音の口の形状記憶トレーニング★
ケース5 予期しないところで噛んでしまって話が途切れてしまう
解決への近道5 クイックトレーニング★
ケース6 マイクを使っているのに、かえって聞きづらいといわれてしまう
解決への近道6 呼吸を一定にコントロールするロングトーントレーニング★
第2章 悪い印象を与えていると思い込んでいる人の声を変えるための表情・視線・姿勢トレーニング
ケース7 怒ってもいないのに「怒ってるの?」や「不機嫌なの?」とよく聞かれる
解決への近道7 フェイスストレッチトレーニング★
ケース8 ぶっきらぼうで怖いといわれる
解決への近道8 語尾トリートメント★
ケース9 低い声で男性と間違われる
解決への近道9 笑声トレーニング★
ケース10 褒めているのに相手は褒められた気分になっていない
解決への近道10 超大盛りの思い盛りトレーニング★
ケース11 頼りない感じで重要なことを任せてもらえない
解決への近道11 アイコンタクトトレーニング★
ケース12 声が悪いのは姿勢が悪いから!?
解決への近道12 シュクルラインを知る★
第3章 とにかく緊張してしまう人のための呼吸コントロール法
ケース13 声が震えて、足もガクガク
解決への近道13 完璧主義からの離脱宣言
ケース14 なぜか早口になって突っ走ってしまう
解決への近道14 呼吸を制する者は喋りを制す
ケース15 喉が詰まった感じになって、声が出にくい
解決への近道15 脱力「あくび喉」★
ケース16 顔がこわばってうまく話せなくなる
解決への近道16 表情筋の応急処置「唇ほぐし運動」★
ケース17 頭が真っ白になって何を話しているか分からなくなる
解決への近道17 視線で空間スキャン
第4章 伝わっているかいつも不安を感じている人のための必ず伝わるコツ
ケース18 いつも話がまとまらず「で、何がいいたいの?」といわれる
解決への近道18 話は聞けたら締める「話のフレームワーク」
ケース19 原稿がないと話ができない
解決への近道19 脳内スクリーンを実況中継する
ケース20 話が相手の心に残らない
解決への近道20 大切なところは2音上げて、音色を付ける★
ケース21 「ママはキンキンガミガミうるさいよ!」と思春期の子供に無視されてショック
解決への近道21 粒ぞろい声トレーニング★
ケース22 こちらの怒りが伝わらない
解決への近道22 いざという時の切り札声を磨く
声のチカラで世界を元気に!……あとがきに代えて
滑舌練習チャート
「★」がついているトレーニング項目は、インターネット上に動画が用意してあり、目次に掲載されている二次元バーコードをスマホで読み取るか、URLをパソコンに打ち込めば、本書を読みながら音声付き動画を見ることができます。最初の1本以外を見るためには名前とメールアドレスの登録が必要ですが、無料です。この動画を見れば、論より証拠、著者がしっかりと相手に伝わる声を出していることがわかります。
著者は「通りのいい声は鼻呼吸から生まれる」といいます。息を鼻から深く吸って口からまっすぐに吐く。そのとき自分にとって一番出しやすいところで安定して声を出す。そのトレーニングをふだんから繰り返していると、しっかりと相手に伝わる声が出せるそうです。
また、テレビなどでよく話題になる「滑舌」は、口をはっきり開いて発音することで改善されます。「あいうえお」の5つの母音をはっきりと発音することで、言葉が明瞭になり、聞き取りやすくなります。
相手にちゃんと話を聞いてもらうには、逆に「相手の話をしっかり聞く」というプロセスが欠かせません。会話は言葉のキャッチボールだからです。このとき、平板な調子であいづちを続けてはいけません。相手が退屈して不安になるからです。あいづちの声の高さをときおり変えるだけで、相手が安心します。
「話にまとまりがない」といわれている人に対して、著者は「PREP法」というフレームワークのテクニックを教えています。PREPとは「Point(結論や要点)」「Reason(理由や背景、根拠)」「Example(事例、仮説、あるいはReasonの補足)」「Point(改めて結論」)の頭文字のことです。
PREP法はプレゼンテーションの基本といわれていますが、同時にビジネス文書の基礎的な構成方法でもあります。最初に結論を持ってくることで相手をイライラさせず、その後の話の内容に興味を持ってもらうことができます。そして具体例で説得力を持たせ、最後にもう一度結論を述べて趣旨を深く印象づけます。
著者は「ビジネスパーソンの約8割が人前で話すことに苦手意識を持っている」といいます。その理由は、日本の基礎教育に「作文」はあっても「話し方」はないからです。人前で話す訓練を受けないまま社会人になって、ぶっつけ本番で経験を積んでいく。これでは苦手に思う人が続出するのも仕方ありません。
著者は13年間の海外生活で、「英語教育よりもコミュニケーションスキルのほうが大切だ」ということを身を持って学びました。「沈黙は金」なのは日本だけで、外国では寡黙は美徳ではないからです。それどころか、自分を表現しないのはずるいこと、無能の証明とされてしまうこともあります。
本書は日本人全体のコミュニケーションスキルを底上げしたいと願っている著者の、2冊目の本です。本書が気に入ったら、ぜひもう1冊の『たった15秒で好感度が上がる声の磨き方・話し方』(KADOKAWA刊)もチェックしてください。