紀伊國屋書店の発表した「2014年出版社別売上ベスト100」によると、出版社の1位は講談社。僅差でKADOKAWAが続き、少し差が開いて集英社、僅差で小学館、また差が開いて学研マーケティングというのが日本の出版上位5社の現状です。
「KADOKAWAって何? 角川書店なら知ってるけど」と思われた方も多いと思いますが、KADOKAWAは角川書店が角川ホールディングス、角川グループホールディングスを経て2013年に社名変更したものです。有力なグループ会社を吸収合併したため、連結売上高は1500億円を超えました(2014年3月期)。
中経出版は1968年創業のビジネス書出版社でしたが、2008年に角川グループの一員となり、2013年に吸収合併されました。本書の初版発行は2011年ですから発行所は中経出版ですが、2013年以降の増刷分はKADOKAWAに変更になっているはずです。
本書を手に取って気づくのは、帯がないこと。一見帯かと思うようなデザインになっていますが、緑の帯は印刷で、紙が巻いてあるのではありません。最近はこういうデザインが増えてきましたが、立ち読みで帯が傷むことの多い書店からは歓迎されているようです。
その帯状の部分には、文章力の鍛え方の一例として、次のようなものが書かれています。
□中づり広告を言い換えてみる
□メールは箇条書きで伝える
□会議の発言は1分でまとめる
これは何でもないことのようですが、非常に効果的なレッスンです。「自分は文章が苦手だ」と思っている人の多くは、「文章表現のスキルが不足している」と考えて谷崎潤一郎や三島由紀夫の『文章読本』を買ってしまったりするものですが、それらは小説家を目指す人のためのもので、メールやパワーポイントにおける文章表現を磨くものではありません。
伝わりにくい文章の特徴は、たいてい以下の項目が複数あてはまるものです。
・文章が長く、何を言いたいのか明確でない
・同じ表現が繰り返され、読む人が飽きてしまう
・難しい漢字が使われ、表現が固い
・文脈がスムーズでなく、大意がつかみにくい
・話が飛んでしまい、読者がとまどってしまう
・稚拙な誤変換や同音異義語の選択ミスが目につく
「中づり広告を言い換えてみる」というのは、ワンパターンの同じ表現に陥ることを防ぐレッスンです。ひとつのことを多数の言い方で表現できるようになっておくと、言い回しに変化を付けることで、読者が飽きてしまうのを防ぐことができます。
「メールは箇条書きで伝える」というレッスンの目的は、伝えたい内容を箇条書きにすることで優先順位を正し、余分な内容をそぎ落とし、文脈をスムーズにすることにあります。これに慣れれば、箇条書きに起こす工程を省いて文章を書くことができるようになります。
「会議の発言は1分でまとめる」という練習は、文章に限らず思考を柔軟にして情報発信力を高める目的があります。たとえば自分の言いたいことを1分、3分、5分、15分、30分、45分、90分で展開することができれば、その人は同様に100字、200字、400字、1200字…の原稿にまとめることもできるようになっているはずです。
本書は65の項目を4つのパートに分けて解説しています。目次を紹介しましょう。
論0 はじめに――文章力がメキメキつく方法
PART 1 文章力とは何か? それがわかれば文章や会話は組み立てられる
論1 感じたことの根拠を明確にする
論2 決めつけずに掘り下げて考える
論3 まず口に出して言ってしまう
論4 A型とB型で話をする
論5 「そうとはかぎらない」という視点をもつ
論6 「あの人ならどう考えるか」と想像する
論7 正しい文章の第一歩は主語述語
論8 一文を短くすることを意識する
論9 「~だろうか、たしかに…しかし…、なぜなら…、したがって…」を口癖にする
論10 最初に「理由は三つある」と言ってみる
論11 社会とのつながりを考える
論12 言葉の「定義」をしてみる
論13 起きている「現象」を整理する
論14 どうなるか「結果」を考える
論15 「理由・背景」を掘り下げていく
論16 「歴史的状況」を調べてみる
論17 「地理的状況」を比べてみる
論18 「定義」から「対策」にたどりつく
論19 イエス・ノーの両方を考える
論20 見た映画を1分で説明する
論21 上手な文章の書き出し方
論22 スポーツで勝負の分析をする
論23 乱暴すぎる「仮説」を考える
論24 意識して上手に質問する
論25 会議の発言は1分でまとめよ
論26 「笑わせる」努力をする
論27 会議では必ず反論か補足を行う
論28 自分の立場が正しいと考える
PART2 「描写力」と「表現力」 日々の生活の中で鍛えるヒントをつかむ
論29 目に見えたものを描写する
論30 中づり広告に反論する
論31 中づり広告を言い換える
論32 1日に一つ、面白い話をする
論33 新聞は投書欄を読む
論34 文章を書くのが苦手な人へ
論35 投書の内容を正確に読み取る
論36 文章が反対しているのは何かを読み解く
論37 投書に賛否の両方を唱えてみる
論38 書評欄の読書のすすめ
論39 記事を100字以内でまとめる
論40 マンガやお笑いを説明してみる
論41 ブログに反論してみる
PART3 「意見」を考える 立場と矛盾から論理力を磨く
論42 討論番組にツッコミを入れる
論43 ミステリーの矛盾点を見つける
論44 ドラマのテクニックを利用する
論45 バラエティー番組を見破る
論46 基本的に黙読、ときどき音読
論47 ビジネス書は飛ばし読み
論48 受け売りをしてみる
論49 小説を途中から書いてみる
論50 簡単な英語の本を訳してみる
論51 古典から文学の原点を汲み取る
PART4 心に届く文章 頭で考えるのではなく実際に書いてみる
論52 メールは箇条書きで伝える
論53 手紙には思いっきり心を込める
論54 クレーム文は実益のある修行
論55 出さなくてもラブレターを書く
論56 小論文と作文を、理解して書く
論57 小論文と作文の例
論58 小論文の書き出しはワンパターンに
論59 転用術を身につけて論を深める
論60 エッセイも四部構成で書ける
論61 表現を豊かにする方法
論62 臨場感を出す方法
論63 大げさに表現してみる
論64 読みたくなるタイトルのつけ方
論65 終わりに
著者は多摩川大学教授。小論文・作文の通信添削を行う「白藍塾」の塾長(http://www.hakuranjuku.co.jp)でもあり、「小論文の神様」として、小学生から社会人までを対象とした文章の書き方の指導に携わっています。『頭がいい人、悪い人の話し方』(PHP研究所)は大ベストセラーになりました。
本書は最近の実用書によく見られる「本文中の重要な箇所を太字にする表現」を採用していますが、本書のテーマからいうとちょっとお節介かもしれません。というのは、「文中の重要な箇所に傍線やマーカーを引く」作業そのものが、文章力向上のための鍛錬になるからです。
著者は「文章表現力は才能ではない。訓練の賜物である」という姿勢を取っています。つまり、文章表現が苦手な人というのは、単に適切な訓練を受けていないだけだということです。本書は、そんな人たちに向けた簡単でやさしく、今すぐできる問題集です。
文章力が上がると、考える力が増します。思いを伝達するのが楽しくなるので、力のある仲間が増えます。仕事がどんどん面白くなるので、事業成績もアップします。そんないいことづくめの文章力鍛錬、やらない手はありませんね。