オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

引き算する勇気 会社を強くする逆転発想

岩崎邦彦・著 日本経済新聞出版社

1,600円 (税別)

このタイトルで、ごてごて飾り立てた表紙カバーだったら笑ってしまいますが、どことなく無印良品を思わせるシンプルな装丁。おもしろいのは帯とカバーのデザインがほとんど同一で、帯にプラスされているのは「シンプルは、パワフル!」という1行のコピーだけです。ここに掲出したのは帯付きの表紙画像ですが、アマゾンのと比べてもらえばよくわかります。

ちなみに、出版社が帯付きの表紙画像を登録しても、アマゾンは帯なし画像に差し替えてしまいます。これは、アマゾンが「帯なし画像を基本とする」という大方針を守っているから。どうしても帯付き画像を読者に見せたい場合は、「その他画像」として登録するしかないそうです。これは著者サイドでも可能で、「著者セントラル」からの操作になります。

日本の出版物は帯があるとないとでは情報量の差が大きく違います。おそらく「帯」という習慣のないアメリカ本社の決定に日本のアマゾンが従っているのでしょうが、これは文化の問題ですからローカライズしてほしいものです。

さて、あちこちの書評でも取り上げられている本書ですが、著者はマーケティングの先生。国民金融公庫、東京都庁、長崎大学経済学部助教授などを経て、現在は静岡県立大学経営情報学部教授・地域経営研究センター長。著書には『小さな会社を強くするブランドづくりの教科書』『小が大を超えるマーケティングの法則』(ともに日本経済新聞出版社)、『スモールビジネス・マーケティング』(中央経済社)、『緑茶のマーケティング』(農文協)などがあります。

経営に引き算の考え方をもちこもうとしたのは、著者が最初ではありません。試みに「会社経営と引き算」という検索ワードでGoogle検索をかけてみると、トップは本書ですが、いろいろな人のコラムがヒットします。

いわく、「スティーブ・ジョブズは引き算経営だった」「iPhoneもウォークマンも引き算から生まれた」「孫正義も引き算経営者」「良いときは未来から引き算をし、悪いときは過去に足し算をする」…などなど。

それだけ「引き算」は耳に心地良い言葉なのです。まあ、「断捨離」と同じ痛痒さという感じでしょうか。

私たち本作りの専門家は、「マーケティング」「引き算」といったキーワードを与えられると、「よっしゃ。もう構成案はできたも同然。著者に会いに行って半年後には出版だ!」とお手軽に考えてしまいがちなテーマなのですが、本書はしっかりと作り込んであって好感が持てます。

本書のどこがすごいか。まず、内容が細切れであることです。一般的に本を作るときには、「テーマ」→「章立て」→「大見出し」→「中見出し」→「小見出し」→「本文」という順序で構成を考えていくことが多いのですが、それだとストーリーありきの予定調和になりがちです。

本書は、著者の頭の中にあるテーマをざらっとテーブルの上にぶちまけて、とりあえずそれを順序づけて並べ、無理してくっつけようとせずに構成しているのが特徴です。本を手に取ってパラパラめくってみるとすぐわかるように、活字がぎっしりと詰まっておらず、かなり隙間がある印象です。

最近の本は、とにかく隙間が多くなりました。改行、空行をなるべく多くして、見た目の圧迫感を減らすのが流行です。活字も大きくなる一方なので、同じページ数の本を比べると、数十年前と今とでは情報量が半分くらいになっています。

その原因のひとつには、読者の活字読解力が低下したということがあると思われますが、もうひとつは「本のページをビジュアル的に認識する」という流れからでしょう。Webの普及により、「文字情報もレイアウトされていないと飽きてしまう」人々が圧倒的多数になっているのです。

そういう認識を持って本書を見てみると、飽きさせない工夫がいろいろと凝らされているのがわかります。「最初から最後まで40字詰め15行」といった活字本の固定レイアウトではなく、図表の存在に応じて本文の字詰めが柔軟に変化するページが多数あります。図表類は凝ったものではなくシンプルですが、たくさん配置されているので本文の理解を助けます。

そういう編集上の工夫がなされているので、本書は頭から読んでも、途中から拾い読みしても理解しやすい本になっています。280ページありますから、薄い本ではないですが、一気に読めばそれほど時間は必要ないでしょう。

それでは目次の紹介です。
はじめに--今なぜ、引き算なのか--
PART 1 「押す力」から「引く力」へ、「足す価値」から「引く価値」へ
CHAPTER 1 引き算にひかれる消費者--シンプル志向の高まり
CHAPTER 2 なぜ、足し算に陥ってしまうのか?--足し算のワナ
CHAPTER 3 足し算企業は、なぜ沈むのか?
CHAPTER 4 引き算の思考方法

PART 2 シンプルは、パワフル
CHAPTER 5 引き算企業は、本当に強いのか?
CHAPTER 6 引き算をすると、なぜ強くなるのか?
CHAPTER 7 「良い引き算」と「悪い引き算」
CHAPTER 8 引き算の条件--シンプルに至る道は、シンプルではない
CHAPTER 9 引き算する勇気
CHAPTER 10 99.7%のための引き算戦略--小さな企業ほど、引き算で伸びる

PART 3 いかに引き算をするか、いかに人を引きつけるか
CHAPTER 11 品ぞろえの引き算--何を売らないか
CHAPTER 12 ターゲットの引き算--誰に売らないか
CHAPTER 13 引き算の商品開発--「引く価値」を形にする
CHAPTER 14 サービス業の引き算--何をやらないか
CHAPTER 15 「あたりまえ」を引き算する
CHAPTER 16 引き算が、地域を元気にする
CHAPTER 17 引き算して、掛け算する--モノで絞り、コトで広げる

「引き算企業」の例としてとりあげられているのは、グーグル、アップル、スターバックス、無印良品、CoCo壱番屋、QBハウス、スーパーホテルなど。イノベーションを起こした会社は、みな大胆な「引き算」を実行したということがよくわかります。

本書を通読してわかるのは、安易に流れると足し算になり、リスクをとって勝負をすると引き算になるということ。バブル以降の日本経済が低迷しているのも、名だたる大企業がぱっとしないのも、みな「引き算」ができないからなのですね。

ビジネスの世界に身を置く人すべてが読んでおくべき良書です。


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