オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

文房具図鑑
その文具のいい所から悪い所まで最強解説

山本健太郎・著 いろは出版

1500円 (税別)

「小学6年生が書いた!」ということで話題になった本です。あちこちのテレビや雑誌で紹介されたので、ご存じの方も多いでしょう。

しかし、本書のすごいところは、「小学6年生が書いた」という点ではありません。「小学6年生が大人でもできないことをやった」というところが注目されたのです。A4判100ページすべてが著者である山本健太郎くんの手書きで、168点もの文房具が原寸でイラスト化され、切り口鋭いコメントがついています。

たとえばパイロットのボールペン「アクロボール」についてはこんな感じ。
(絵が変になってしまったクソ!!!)
手汗をかいてもしっかりグリップするラバーグリップ
かわきがおそい
パイロットの高級ボールペンなどにも使われていることも多い「アクロインキ」の本丸。0.7も書きやすいが、0.5の書きやすさもスゴイ。1.0のしっかりした書きごこちも最高。しかしクリップが弱く、すぐにおれた。

それに対して欄外にはメーカー担当者からのコメントが記載されています。
「アクロボール」
なめらかなアクロボールで、スイスイいっぱい書いてくださいね。0.5や1.0を褒めていただいてありがとうございます。アクロボールのなめらかさ、みなさんにもぜひ、知ってほしいです!(パイロット)

この本のテーマは「文房具愛」です。
本書を通読すれば明らかになりますが、山本健太郎くんは筋金入りの文房具マニアです。文房具の基本的知識はもちろんのこと、専門用語も駆使して短く簡潔に記事をまとめています。しかも、自分で使い倒していなければわからない視点で書いているので、世の中のどんな文房具カタログよりもユーザーフレンドリーです。

それに対する各メーカーのコメントも、これまた文房具愛にあふれています。読めば読むほど、「この人たちは文房具が大好きなんだなあ」と思わせてくれます。しかも、誰一人として山本健太郎くんを子供扱いしていません。文房具が大好きな「仲間」として、きちんとリスペクトしていることがはしばしに感じられます。そこがまたすごい。

もうそうなると、本書を編集した出版社と編集者の「企画力の勝利」と言わざるを得ません。しかもそれが、老舗出版社ではなく、京都で平成15年に設立された新興出版社の手によるものであるところがポイントです。

版元である「いろは出版」の公式サイト(http://hello-iroha.com)には、「他社の二番煎じをするような出版社ではない」という思いが詰まっています。社長挨拶を見てみましょう。

いろは出版の目的と挑戦
うちの会社の一番の目的は
社員一人ひとりが幸せを感じて生きる中で
社員一人ひとりがやりがいを感じて働く中で
失敗しながらも成長して
苦しいことがあっても喜びに変えて
基本的に一人ひとりが楽しく頑張って
基本的にみんなで力を合わせて楽しく頑張って
いろんな人に笑顔であったり、新しい気持ちであったり
そういう何かすてきなものを届けることで
いろんな人がいろんなありがとうをいただいて
さらに社員一人ひとりが幸せを感じて輝くことが一番の目的です
そして、
社員一人ひとりが輝くということは会社が輝くということ
会社が輝くということは社員一人ひとりが輝くということ
一番大切な人が幸せの好循環を生む会社をみんなでつくり続けて
なんのために会社があるのかということを
今日を生きる全ての人に、働く全ての人に伝えれる
21世紀の一番星と言ってもらえるような新しい会社をつくり続けることが
2001年創業のいろは出版の一番の挑戦です。
みなさま
これまでもこれからも、うちの会社を愛してやってください。
代表取締役 きむ

本書は最初から出版を目的として作られた本ではありません。山本健太郎くんが秋にお母さんから白紙の本をプレゼントされ、そこに大好きな文房具のことを書き始めたのが発端です。それから1年近くかけて100ページを埋め、学校の宿題である夏休みの自由研究として提出しました。

それを健太郎くんが近所の文房具店に見せに行きます。それを見たお店の人が「これはすごい」と驚き、知り合いの文房具ライターである「きだてたく」氏に連絡。きだて氏も「本当にすごい」と感心し、ネットメディアに記事を書きました(http://portal.nifty.com/kiji/151020194854_1.htm)。それが話題になってテレビに取り上げられ、ネットの記事を見たいろは出版の担当者がきだて氏に連絡して出版の運びとなりました。

いろは出版から出して良かったと思うのは、本書がほぼ原稿通りに作られていることです。たとえば表4(裏表紙)に健太郎くんが冗談で書いた「定価本体3兆円+税」という表記がありますが、正規の定価表記とともにそれも残されています。

老舗出版社は「こういうことをすると、取次が文句を言う」と自粛して、こういう部分を削ろうとするのですが、「そんなの、見れば冗談とわかるでしょ」とばかりに押し通す気概が感じられます。

同様に、表4には健太郎くんの「嘘の奥付」もあります。
「2015年8月発行 発行人・山本健太郎 編集人・山本健太郎 発行所・山本健太郎の家」
ちなみに本物の奥付はこうなっています。
「2016年3月31日第1刷発行 著者・山本健太郎 発行者・木村行伸 発行所・いろは出版」

原作にはない特典は、前述した各ページにあるメーカー担当者のコメントのほか、「特別付録」として巻末にまとめられている「文房具メーカーの方々より」「文房具仲間の方々より」「よく行く文房具屋さんより」「家族より」「学校の友達・先生より」のコメント、編集担当者の「編集後記」、「掲載商品一覧」、さらには健太郎くんのお母さんからの「謝辞」、そして原稿用紙に手書きされたままで掲載されている健太郎くんの「あとがきのあとがき」です。

出版界の沈滞ムードですが、斜陽の原因は出版社が柔軟性を失っているところにあります。大胆に斬新な企画を出して世に問うことをせず、リスクを取りたくないあまりに二番煎じ、三番煎じの企画に甘んじる。そうした姿勢が読者離れを生んでいるのです。いろは出版の姿勢は、日本の出版界全体に対する新鮮な刺激となったはずです。

もっとも、本書は単純に文房具好きの心をくすぐる名著です。アマゾンで文具関係の本の1位であるというのは、その証明でしょう。


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