オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

働きながら、親をみる
自分の人生をあきらめない介護

和田秀樹・著 PHP研究所

1,400円 (税別)

著者の和田秀樹氏は、大阪府出身の受験アドバイザーで精神科のお医者さん。臨床心理士、国際医療福祉大学大学院の教授でもあります。ほかにも、映画監督、小説家、評論家といった肩書もあります。

とにかく著書の多い人で、2015年の1年だけでも本書を含めて14冊の著書を発刊していますが、多い年は40冊近い発刊を記録しています。どうやってそんなに本が書けるかというと、ゴーストライターが執筆しているからで、著者の仕事は内容を話して、上がってきた原稿に赤字を入れるスタイルです。今、多くの著者がその形で本を出しています。

ご参考までに、2015年に発刊された本書以外の13冊を挙げておきましょう。
『だから医者は薬を飲まない』SB新書
『自分が「自分」でいられるコフート心理学入門』青春出版社
『精神科医が語る熱狂の広島カープ論』文芸社
『人生は「どうなるんだろう」でなく「どうなりたいか」だ』新講社
『孤独と上手につきあう9つの習慣』大和書房
『焦らなくなる本 生きるのがラクになる』新講社
『英会話は時間のムダ! 大人の英語は「読み書き勉強法」でうまくいく』ゴマブックス
『溜め込まない技術 嫌な感情・人間関係・仕事 「フロー人間」のススメ』大和出版
『だから、これまでの健康・医学常識を疑え!』ワックWAC BUNKO
『アドラーと精神分析』アルテ
『もしも精神科医が営業マンだったら 営業のための実践的心理学』バジリコ
『人と比べない生き方 劣等感を力に変える処方箋』SB新書
『今の仕事だけでいいのですか?人生を「多重化」するすすめ』ロングセラーズ

著者が有名人になったのは、受験勉強のハウツー本が立て続けにベストセラーになったからですが、そもそも著者の勉強法は、難関校として有名な灘中在学時代に開発されたものです。東大在学中は、中学受験に失敗してやる気を失っていた弟に勉強法を教え、みごと東大合格にこぎ着けました。その弟は今や最高検察庁の検事です。

余談ですが著者は灘中時代、いじめられっ子だったそうです。いじめていたのは同級生だったコメンテーターの勝谷誠彦氏。掃除用具入れに閉じ込められ、授業時間中ずっとその中にいたというエピソードは両者が認めていることです。そのおかげで著者の「見返してやる!」という気持ちが育ち、東大合格、医師免許取得につながっていったそうです。

本書は、著者の経歴や専門分野からみると異色の作品と思えるかもしれませんが、著者は次のように「はじめに」で紹介しています。
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この本は、私が長い間、高齢者専門の医師、とくに認知症や高齢者のうつ病を扱う老年精神科の医師として、だんだん年をとってくる親を持つ人たちに伝えておきたいことを書いたものです。なかでもとくに、ご自分も仕事を持ち、働かれている人たちに、ぜひ読んでいただきたい内容を記しました。
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多くの場合、親の介護というのは突然やってきます。そして介護のために仕事が満足にできなくなり、親子ともども貧困層に落ちてしまうケースが後を絶ちません。その結果、自殺、無理心中といった悲惨な事件がニュースとして伝えられるようになります。

本書のカバー袖には、こう書かれています。
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「その時」は、いつかかならずやってきます。
介護は、情報戦。
備えて双方の幸せをめざしましょう。
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ここで「情報戦」という言葉が出てきます。

突然やってきた新しい事態に、私たちは場合によっては徒手空拳で、何の情報も持たずに対処しなければならないことがあります。でも、それでうまい解決が得られればいいですが、そうではない場合は不幸です。

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久しぶりに実家に帰省して、「父さん(あるいは母さん)も、年をとったな」と感じつつ、いざという時に備える具体的な準備はなにもしていない、という人も多いと思います。
親の老いを直視したくない、先延ばしにできるものならそうしたい、そう思うのは人情です。
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ここで著者はショッキングなデータを突きつけます。85歳を超えると4割以上の人が認知症を患い、それも含めて約半数の人がなんらかの形で要介護状態になるというのです。だから、「うちの親だけは大丈夫」という考えは甘いということです。

それでは、著者は読者にどんな情報を与えてくれるのでしょうか。目次を順に見ていきましょう。
第1章では、「介護離職のリスクに備える基礎知識」というタイトルで、親の介護のために仕事を辞めざるを得ないという不幸をどうやって回避するかを教えています。以下、項目を並べます。
・全人口の“4人に1人”以上が高齢者
・ほんとうに介護が必要になるのは、85歳以降
・介護問題をより深刻にする長寿社会
・親が「要介護」になる確率は90%以上?
・介護で離職する人が年間10万人
・「隠れ介護」のビジネスパーソンは1300万人?
・孝行息子が危ない 男性のシングル介護の現実
・1人で抱え込むから起こる悲劇
・無縁介護にならないために「介護保険」を使う

第2章は「知っておきたい『介護保険』と『介護休暇』」です。ここではそれらの仕組みとサービスを理解できるように解説しています。
・介護保険はお情けではない正当な「権利」
・40歳以降、払い続ける介護保険料の総額
・介護保険は親との同居・別居の別なく申請できる
・事前準備は地域包括支援センターから
・かかりつけ医を早めに決める
・「意見書」を書いてくれる医者、書いてくれない医者
・介護保険、認定までの流れ
・介護保険で利用できるサービス
・「要介護度」別の身体状態と利用できるサービス
・転ばぬ先のつえ、早めの申請、早めの利用
・ケアマネージャーは介護の頼もしい味方
・介護休暇と介護休業をフルに活用
・知らないと損をする介護関連の制度

第3章は「賢い介護施設の選び方と民間サービス」です。「親子共倒れ」という最悪の事態を防ぐための対策が示されます。
・家族介護から施設介護の時代へ
・離れて暮らす親をどうみるか
・転居するなら80歳になる前に
・地元での介護か、呼び寄せるか
・福祉先進国の北欧の価値観
・ますますむずかしくなる「特養」入所
・介護施設の種類とその特徴
・施設に入れるその前に ショートステイの活用
・「サービス付き高齢者向け住宅」という選択肢
・「老健」の利用で時間を稼ぐ
・民間の有料老人ホームの種類と選び方
・敷居が低くなった「介護付有料老人ホーム」
・体験入居でスタッフや環境をチェック
・民間の「家事代行」が使える!
・宅食や見守りサービスも味方になる
・きょうだいや親戚、ご近所さんを巻き込む

第4章は「認知症の親との向き合い方」です。親族に認知症患者のいない人は、とかく「認知症」という言葉に恐怖を覚えますが、著者は思い込みや先入観を捨てて怖がらないことが大事だと説きます。
・高齢者の3人に1人は認知症とその予備軍
・認知症は必ずしも怖い病気ではない
・知っておきたい認知症の初期サイン
・高齢になるほど増えるアルツハイマー型認知症
・アルツハイマーにも薬がある
・あわてすぎは禁物、進行状況を見守る
・アルツハイマー型以外の認知症
・認知症とうつを見分けるポイント
・症状の裏に潜む気持ちを理解する
・トイレ問題は深刻に悩むより対策を
・介護の基本は「機嫌よく過ごしてもらうこと」
・まずはケアマネージャーと知り合うことから
・仕事を辞めないためにも早めの対策を
・身体が丈夫ならグループホームに入所できる

第5章は「冷静に考えるお金の話」です。ここでは親の財産を「介護資金」と考えることで、お金で悩まなくてもよくなる方法を示します。
・知っておきたい親の年金と財産
・相続をあてにせず、親の財産を使う
・介護がきっかけで人間関係に亀裂も
・成年後見制度で財産管理
・成年後見制度の手続きの仕方
・親が元気なうちに活用したい「任意後見制度」
・「リバースモーゲージ」で介護資金をつくる
・「生活保護」も強い味方

最後の第6章は、「ほんとうの親孝行を考える」というタイトルで、自分の人生と親の幸せを両立させる方法を模索します。
・施設活用で親子がハッピーになる事例
・在宅介護は美談でもないし偉くもない
・「介護うつ」で倒れるリスクも考慮する
・「在宅介護」と「在宅看取り」を混同しない
・孫までが介護に巻き込まれる悲劇
・ドミノ倒し介護は他人事ではない
・仕事を辞める逸失利益を冷静に考える
・親孝行するなら、要介護になる前に
・真の親孝行は「親子双方が笑顔」でいること

「おわりに」に、著者がもう一度声を大にしていいたいことがまとめられていますので、ご紹介しましょう。
・介護のためにあなたの仕事を辞めることは、絶対にすべきでない
・国民の権利として、介護保険や生活保護など国の制度は最大限に使う
・会社員の場合は、介護休暇、介護休業、時短勤務をフルに活用する
・親の資産を相続することを考えない
・施設介護に罪悪感を抱く必要はまったくない

本書は次の質問への答えに困る方にぜひ読んでいただきたい1冊です。
「今、親が倒れて介護が必要な状態になったら、どうする?」
「ひとり暮らしの親が認知症になったら、どうする?」
「夫婦それぞれの両親が同時に病気になったら、どうする?


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