オススメ参考書~読んだら即実践してみよう!

世界一の『幸福論』が教えてくれた
明日がもっと幸せになる方法

アラン研究会・著 アスコム

1,000円 (税別)

自己啓発書にはいろいろな種類がありますが、その中に「幸福論」と呼ばれる分野があります。「幸福とは何か」について語ったもので、ヒルティ、アラン、ラッセルの3人による幸福論は「三大幸福論」と呼ばれてロングセラーになっています。

本書はそのアランの幸福論を、読みやすく理解しやすいように書き改めたものです。アランの主張はそのままに、文章のスタイルを変え、二人の登場人物の会話を読み進めることで、幸福についての理解が進むように作られています。

登場人物は、あるバーのマスターと、独身サラリーマンの「わたし」。「わたし」は会社で上司と折り合いが悪く、長年つき合ってきた恋人とも最近別れてしまったという、「不幸」のまっただ中にいるような人物です。しかも根暗な性格で、すぐに「自分はダメな人間だ」と思い込みます。

そんな「わたし」がマスターの元へやってきたのは、知人から「その人と会って話をするだけで、たちまち幸せな気分になれる」という噂を聞き込んだからでした。ダメ元で店の住所を教えてもらった「わたし」は、雨の降る夜にマスターのいるバーを訪ねます。以下、本書の冒頭を少し引用してみましょう。

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都会の喧噪の中にぽっかりと、そこだけ忘れられたような古びたれんが造りのビルがある。わたしは小さな紙切れを片手に、地下への階段を降りていった。

「バー アラン」と小さく店名が記されたドアを押し開け、わたしはほの暗い店内に目をやった。人が10人も入ればいっぱいになってしまうようなカウンターの中で、グラスを磨いていた初老のバーテンダーがふっと顔をあげこちらを一瞥した。
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「わたし」は初対面のマスターに思い切って声をかけます。
「やっと伝説のマスターにお会いすることができました。マスターと話をすると誰でも幸せになれると聞き、知人に無理を言ってこの店の住所を教えてもらったんです。マスター、教えてください。こんなわたしでも幸せになれますか?」

それに対するマスターの答えは、こうでした。
「人は誰でも幸せになれます。もちろん、あなたもです」
その答えに背中を押された「わたし」は、次々と自分の悩みをぶつけていきます。本書はその晩に「わたし」とマスターが語り合った様子を、時間の流れに沿って紹介していきます。

まず「わたし」は自己紹介代わりに、これまで多くの自己啓発書を読んだり、セミナーに参加したりしたこと、そこで自分の考え方や行動を変えると幸せになれることを学んだが、なかなか生き方が変えられないことなどを話します。

それに対してマスターは、生き方を大きく変えるのは簡単ではないと諭し、「わたし」が決してダメ人間ではないと慰めます。その上で、マスターは「わたし」にこう言います。
「あなたは『ものごとがうまくいくと幸福になる』と思っているのですか? もしそうだとしたら、それは大きな勘違いです。『ものごとがうまくいくから幸福』なのではなくて、『自分が幸福だから、ものごとがうまくいく』のです。そこを間違えてはいけません」

アランの幸福論の特徴は、「すべての不運やつまらないものごとに対して上機嫌にふるまえば、それだけで幸せになることができる」というものです。マスターの言葉は、その考え方を知る第一歩なのでした。

本書でマスターがどんなことを語っているのかは、目次を見るとだいたい理解できます。
1章 不幸をつくるのも、育てるのも自分
・ものごとがうまくいくから幸福なのではありません。幸福だからうまくいくのです。
・大げさに考えると不幸は勝手に育っていきます。
・負の感情は自然にわいてきません。自分で勝手につくっているものなのです。
・悲しみには抵抗しなければならないと、自分に言い聞かせることです。
・悲しみに浸ってはいけません。悲しみは病気だと思えば、すぐに抜け出せます。
・「いい職業」があるのではありません。腕を磨けば、それが自分の天職になるのです。
・嫌なことを我慢するよりも進んで行うことで、幸福の土台ができます。
・仕事は報酬よりどれだけ楽しめるか。仕事が楽しい人は幸福です。
・自分の力を試していくと「困難に打ち克つ幸福」という別のご褒美を得られます。

2章 幸せをつくるのも自分
・幸福には意志の力がいります。幸福になりたければ、自ら幸福になると誓うことです。
・幸福は降ってくるものでも、与えられるものでもありません。自分でつくるものなのです。
・なにもせず扉を開いて幸福を待っていても、入ってくるのは不幸だけです。
・考えることは行動すること。本気で欲しければ、かならず行動がともなうのです。
・計画は行動の上に成長します。行動してはじめて未来は始まります。

3章 自分が幸せになると、まわりも幸せになる
・幸福になるのは「義務」です。自分が幸せになれば、人に希望を与えられます。
・幸福になる第一のルールは、自分の不幸について決して人に話さないことです。
・不機嫌も上機嫌も、たちまちまわりに伝染し、空気をガラリと変えてしまいます。
・親しさは危険をはらんでいます。信頼に甘えすぎると、その気安さがアダになるのです。

4章 幸せになるコツ
・言葉は不思議なものです。ひとたび口に出せば、同じ言葉をまた言うことになります。
・どんなにつらい経験も明日への糧になります。陽気に前へ進むしかないのです。
・悩んでいるときは、なにかに集中すれば、悩むヒマなんてなくなります。
・感情的な悪口には意味がありません。雑音だと思って耳を貸さないことです。
・笑ってすませると決めておけば、大きな災難は避けられます。
・自分を許せないとその反動で相手の過ちを拡大してしまいます。
・身体を少し動かすだけで気分や感情はコントロールできます。
・不幸を感じるときほど、意志の力で唇に微笑みをのせてみなさい。
・上機嫌こそすばらしく、惜しみなく与えられる最高の贈り物です。
・「自分の上機嫌」を徹底的に鍛えておけば、心はつねに強くしなやかになります。
・愛は自然に生まれません。育まなければ愛は消え失せてしまいます。

本書の巻末には「アランと『幸福論』について」という一文が掲載されています。これを読むと本書のなりたちがよく理解できるので、全文を引用してみましょう。
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アランは本名をエミール=オーギュスト・シャルティエといい、1868年にフランス・ノルマンディー地方で生まれました。フランスの哲学者、評論家、モラリストとして、20世紀前半のフランス思想に大きな影響を与えた人物です。当時、「現代のソクラテス」と評する人もいました。

ペンネームの「アラン」は、フランス中世の詩人、作家であったアラン・シャルティエにちなんだものです。若いころのアランは、高校教師として哲学を教えましたが、一方で文筆活動も盛んに行い、新聞などに大量の寄稿をしました。中でも、「プロポ(哲学断章)」と呼ばれる短いエッセイ形式のコラムが人気を博しました。

1925年、アランが57歳のときに著した『幸福論』は、彼の代表作として知られているものです。この本は、アランが第一次世界大戦前後に執筆したプロポの中から、「幸福」をテーマにしたものを集めて構成したもので、初版は60編のプロポからなり、その後加筆して最終的に93編となりました。

この本は形式が斬新なだけでなく、内容も他の哲学書とは異なり、読みやすい平易な言葉で書かれているところが特徴です。日常生活の具体的な事柄を例にとり、幸福になるためのヒントや指針が語られていて、日本でも古くから多くの読者に親しまれてきました。

アランは教師を退職した後、執筆活動に専念し、1951年にパリ郊外のル・ヴェジネで83歳で亡くなりました。

本書はアランの『幸福論』をもとに、アランの言葉や考え方を物語形式で紹介するものです。
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本書のエピローグは、こんなふうに結ばれています。
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バーの扉を開け、地上への階段を上るともう朝だった。
ビルの間から朝日がまぶしく照らしてくる。
今日はいい天気になりそうだ。
バーを後にしたわたしは、
雨上がりの歩道を足取りも軽く駅に向かった。
鏡はないが、顔に微笑みが浮かんでいるのを自覚している。
まだなにも始めてはいないが、すでにわたしは幸せだった。
そうだ、駅までスキップして行こうか。
いつか見た、古いミュージカルみたいに。
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心が晴れない日が続く人は、ぜひ手許に置いて読んでみるといいでしょう。


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