空前のメダルラッシュになったリオ五輪も終わり、脱力感に襲われている人も多いのではないでしょうか。深夜、早朝のテレビ観戦もなくなり、ようやく規則正しい生活に戻れるとほっとしている向きもあるかもしれませんね。
でも9月7日からは、リオでパラリンピックが始まります。9月7日の開会式に続いて8日は陸上競技や自転車のトラック競技、7人制サッカー、柔道、水泳、卓球などがスタートします。そして9月18日の閉会式まで、オリンピックと同様の興奮がリオの地から伝えられることでしょう。
「でも、パラリンピックって、障害者の人たちのスポーツでしょう? なんだか可哀想で見ていられない」
「障害の人を見せ物にしているようで、申し訳ない」
「リハビリの一環がスポーツになっているだけじゃないの?」
パラリンピックのことを話題にすると、必ずそういう意見が出ます。それらはまぎれもなく現代社会に生きる私たちの本音の一部でしょう。でも、そういった考えは、一度でも本気でパラリンピックを観戦すると、吹き飛ぶはずです。オリンピックに優るとも劣らない興奮と迫力をもたらしてくれるのが、現代のパラリンピックなのですから。
「そうはいっても、パラリンピックの競技には複雑なルールやクラス分けがあって、よくわからない」
という声に応えて登場したのが、本書です。障害者スポーツ研究の第一人者である著者が、まったくの門外漢に向けて書き下ろした入門解説書という内容になっています。
おそらく多くの人が、本書を一読して何度かびっくりすると思います。たとえばこういう内容にふれたとき。
「障害者スポーツは、ヒトラーのユダヤ人迫害から生まれた」
「健常者の競技よりも記録で上回る障害者競技がある」
「目の見えない人の競技に“フェイント”がある」
最初の内容ですが、たしかに障害者スポーツの父と呼ばれるルードヴィッヒ・グッドマン博士はドイツ生まれで、両親がユダヤ人だったために迫害を逃れてイギリスに渡りました。博士は脊髄損傷が専門だったので、戦争で脊髄を損傷した兵士を収容する「ストーク・マンデビル病院」の院長に就任しました。そしてそこでスポーツが劇的なリハビリ効果を生み出すことを見出し、病院内で「ストーク・マンデビル大会」と呼ばれる障害者スポーツ大会を開催するようになりました。この大会が発展して、今日のパラリンピックとなったわけです。
2番目の内容ですが、たとえば車いすマラソンの記録は1時間20分ほどです。同じ距離を走る健常者のマラソンがいまだに2時間を切れないでいるのですから、もしもパラリンピックの選手がオリンピックのマラソンに出たら、健常者は全部下位集団に甘んじることになるでしょう。
マラソンは「車いすで走るのだから、早くて当たり前」という意見が出るかもしれません。でも、まったく同じ競技ではないものの、用具を使わずに障害者が健常者を負かす競技があります。それは重量上げです。障害者は健常者のおよそ30kg増の重さを上げています。こうした分野では、将来、健常者と障害者がメダルを争う日が来るかもしれません。
3番目の内容は、本当の話です。視覚障害の人が競う球技では、お互いに音と気配を読んで動くため、フェイントを効かせないと負けてしまいます。まるで見えているかのように動き回る選手たちには驚かされます。
本書はあまり知られていない障害者スポーツの歴史をわかりやすく解説し、あわせてパラリンピックに採用されているスポーツのルールや見どころを教えてくれます。ちなみに、収録されている競技は以下のものです。
「夏の競技」
アーチェリー/陸上競技/ボッチャ/カヌー/自転車/馬術/5人制サッカー/ゴールボール/柔道/パワーリフティング/ボート/射撃/水泳/卓球/トライアスロン/シッティングバレーボール/車椅子バスケットボール/車いすフェンシング/ウィルチェアーラグビー/車いすテニス/バドミントン/テコンドー
「冬の競技」
アルペンスキー/バイアスロン/クロスカントリースキー/アイススレッジホッケー/車いすカーリング
「過去に行われていた競技」
ダーチャリー/スヌーカー/ローンボウルズ/アイススレッジスピードレース/車いすスラローム
「これからの採用が期待される競技」
電動車いすサッカー/車いすダンス/障害者ゴルフ/グランドソフトボール
競技だけでなく、進化を続ける車いすや義足などの用具も目が離せません。なかには世界に名をとどろかせている日本メーカーもあるとのことで、これからの福祉社会のリーダーとなり得る存在です。
ぜひ本書を手許に置きながら、パラリンピックの各競技を観戦してみてください。