ジョージア「世界は誰かの仕事でできている。」「この国を、支えるひとを支えたい。」、タウンワーク「その経験は味方だ。」「バイトするなら、タウンワーク。」、ミニストップ「自分にMINIごほうびだっ」
これらは、著者の直近のコピーライティングです。著者は株式会社電通のコピーライター、コンセプター。横浜市立大学国際都市学系客員研究員でもあり、日本デザイン学会、東京コピーライターズクラブの会員です。
著者は1979年に生まれ、上智大学大学院理工学研究科修了後現職となり、カンヌ広告賞、レッドドット賞、グッドデザイン賞、観光庁長官表彰など、国内外30以上の賞を受けました。CM総合研究所が選ぶ「コピーライターランキングトップ10」に2014年、2015年と連続で選ばれています。
本書が誕生したのは、著者が多くの人から次のような質問を受けるようになったからです。
「梅田さんは、どうやって伝わる言葉を生み出しているんですか?」
著者はその質問に対して、質問で返します。
「言葉をコミュニケーションの道具としてしか、考えていないのではないですか?」
言葉は自分の意見を伝え、相手の意見を聞くための道具とされています。言葉は意見をキャッチボールするためのボールであり、そこには「意見」が内包されていなければなりません。どんなに立派なボールでも、意見のない抜け殻では、キャッチボールは続きません。
著者の質問を突き詰めていくと、次の疑問にたどり着きます。
「言葉が意見を伝える道具ならば、まず、意見を育てる必要があるのではないか?」
そして意見を育てるプロセスにも、言葉は大きな関わりを持っています。人は言葉で疑問を持ち、言葉で考え、言葉で答えを導き出すからです。そのことを著者は次のようにまとめています。
「言葉は思考の上澄みに過ぎない」
「伝わる言葉」を欲する質問者は、「外に向かう言葉」の磨き方を求めているわけですが、「外に向かう言葉」を磨くには、自分の考えを広げたり、奥行きを持たせたりするための「内なる言葉」を深める必要があります。
現代は「外に向かう言葉」ばかりが重視され、それの磨き方を訓練しようとする人が後を絶ちません。しかし、「内なる言葉」の訓練なくしては、「外に向かう言葉」を高めることは不可能です。本書はそのことを著者の体験を交えながら伝えてくれるものです。
本書の第1章は、「『内なる言葉』と向き合う」というタイトルです。以下の見出しがあります。
・言葉で評価される時代
・言葉には2つの種類がある−−「外に向かう言葉」と「内なる言葉」
・「内なる言葉」と向き合う
・「人を動かす」から「人が動く」へ−−言葉が響けば、人は自然と動きだす
・最後は「言葉にできる」が武器になる
第2章は「正しく考えを深める『思考サイクル』」です。
・内なる言葉の解像度を上げる
・「思考サイクル」で正しく考えを深める−−内なる言葉を磨く全身思考法
(1)頭にあることを書き出す〈アウトプット〉
(2)「T字型思考法」で考えを進める〈連想と深化〉
(3)同じ仲間を分類する〈グルーピング〉
(4)足りない箇所に気づき、埋める〈視点の拡張〉
(5)時間を置いて、きちんと寝かせる〈客観性の確保〉
(6)真逆を考える〈逆転の発想〉
(7)違う人の視点から考える〈複眼思考〉
・自分との会議時間を確保する
第3章は「プロが行う『言葉にするプロセス』」です。
・思いをさらけ出す2つの戦略
戦略1 日本語の「壁」を知る
・使える型は全て中学までに習っている
(1)たとえる〈比喩・擬人〉
(2)繰り返す〈反復〉
(3)ギャップをつくる〈対句〉
(4)言い切る〈断定〉
(5)感じる言葉を使う〈呼びかけ〉〈誇張・擬態〉
戦略2 言葉を生み出す「心構え」を持つ
・言葉のプロが実践する、もう1歩先
(1)たった1人に伝わればいい〈ターゲッティング〉
(2)常套句を排除する〈自分の言葉を豊かにする〉
(3)一文字でも減らす〈先鋭化〉
(4)きちんと書いて口にする〈リズムの重要性〉
(5)動詞にこだわる〈文章に躍動感を持たせる〉
(6)新しい文脈をつくる〈意味の発明〉
(7)似て非なる言葉を区別する〈意味の解像度を上げる〉
第1章の冒頭で、著者は「伝わり方にはレベルがある」と説きます。
「不理解・誤解」
「理解」
「納得」
「共感・共鳴」
の4段階です。
単に伝わればいいのであれば、「理解」の段階で十分なのですが、その先の「納得」「共感・共鳴」こそがコミュニケーションの醍醐味です。「もっとうまく伝えたい」と悩む人たちは、よりレベルの高い伝わり方を求めているに違いありません。
その伝わり方の差には何があるか。その答えが、「内なる言葉」であると著者は言います。「内なる言葉」を磨いてこそ、よりレベルの高いコミュニケーションが得られるのだというわけです。
しかし「内なる言葉」はスキルとして磨くことができません。「内なる言葉」は思考そのものだからです。「内なる言葉」を磨くということは、思考そのものを先鋭化し、深めていくことにほかなりません。
悲しいことが起きたとき
楽しいことが起きたとき
過去を振り返るとき
未来を思うとき
困難に直面したとき
成功を収めたとき
仲間が困っているとき
仲間が成功を収めたとき
それぞれの局面で湧き上がってくる感情を、「悲しい」や「うれしい」といった漠然としたくくりで受け流すのではなく、頭の中に浮かぶ複雑な思いのひとつひとつを言葉として認識し、把握する。その訓練によって、「内なる言葉」が意識され、磨かれていきます。
最近では「かわいい」や「やばい」といった多くの感情を省略して伝えられる言葉が便利に使われています。しかし、便利だからといって多用していると、自分の心の琴線が鈍っていきます。「かわいい」「ほんとに?」「やばい」「まじすか?」といった言葉を連発している若者に薄っぺらなものを感じてしまうのは、それが原因です。
「内なる言葉」と向き合うと、自分の視点が客観的にわかるようになります。「よく考えること」とは、自分の「内なる言葉」に幅と奥行きを持たせる作業にほかなりません。
人の胸に響く言葉は、流ちょうな話し方から生まれるのではなく、言葉を発信する人の本心が切実に語られている場合に生まれます。それは、「内なる言葉」をしっかりとつかまえ、自分の言葉として相手に発信することによって実現することです。
単なるテクニックを遙かに超えて、哲学のレベルで言葉を考えさせてくれる1冊です。